「サテたいちゃん」とは、2017年ごろにジャカルタで大流行した焼き鳥だ。2018年のアジア大会でスナヤン競技場周辺からは一掃され、2020年に始まったコロナ禍で姿を消した。しかし最近、再び息を吹き返しているようだ。特に目立つのは、スナヤンの「アッチッチの像」(青年の像)近くの建物。「サテたいちゃん Oshin」「Bang Dul」などのきらびやかなネオンサインが並び、まるで「サテたいちゃんビル」のようになってにぎわっている。「なぜ『たいちゃん』と言うの?」と取材したのが下記記事です(2017年掲載)。
「値段の安さ」に加え、「流行に飛び付く」ジャカルタっ子の心をつかみ、スナヤン競技場周辺に大増殖した屋台(カキリマ)、「サテたいちゃん」。深夜近くにアジア・アフリカ通りを車で走ると、道の両側に屋台が隙間なく並んで、サテを焼く白い煙がもうもうと高く上がっている。「Sate Taichan」と記した色とりどりのネオンサインを屋台に付けているのが特徴だ。「カキリマとネオンサイン」というアンバランスさがおかしいが、目立つという意味では良いアイデア。「ちょっとモダンになったカキリマ」といった風情か。
警察の手入れで一斉に姿を消すことはあっても、いつの間にかまた戻って来る、イタチごっこ。スナヤンだけでなく、ブロックM、クラパガディン、ボゴールなど、ジャカルタ内やジャカルタ周辺に広がり中だ。サテたいちゃんとはサテ・アヤム(鶏の串焼き)のことなのだが、クラパガディンには変則バージョンの「豚のサテたいちゃん」の店まである。
「サテたいちゃん」とは一体、何なのか? 「たいちゃん」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、ジャカルタの老舗の居酒屋・ラーメン店「タイちゃん」。日本食レストランとしては、インドネシア人の間で非常に名前の知られた存在だ。「日本風の焼き鳥」というイメージを打ち出すために、インドネシア人の間で名の知れた「タイちゃん」の名前を借用したのではないか?と思われる。
屋台の1軒で調査したところ、「サテを食べに、『タイちゃん』という名前の日本人が通って来るようになり、『たれを付けないで塩だけで焼いてくれ』という特別な注文をしていた。それが、ほかのインドネシア人客にも広がり、ブームとなったのが『サテたいちゃん』」。まるで都市伝説のようだ。
日本の焼き鳥風に「たれを付けないで塩だけで焼いてくれ」とは、日本人なら言いそうではある(筆者の友達のNさんも、サテ・カンビン店で同様の注文をし、ご飯の上に載せて持参のしょうゆをかけ、『ヤギ丼〜』と言って食べていた)。しかし、その日本人が自分の名前を「タイちゃんです」と名乗るのは、あり得ないだろう。
ほかの屋台でも聞いてみたところ、おおむね一致する「サテたいちゃん」の定義とは、「白い焼き鳥」で、日本人だか外国人だかが始めた、と認識されているようだ。
通常のインドネシアのサテ・アヤムは、たれをたっぷり付けて焼いて、ピーナッツソースをかけ、色は真っ黒(=サテ)&茶色(=ソース)。こってりした甘辛味となる。サテたいちゃんの場合、基本は塩味で、ジュルック・ニピス(スダチ)を搾る。さっぱり、あっさり、なのだ。
それだけ聞くと、なかなかおいしそうなのだが、残念ながら、塩味だけでは物足りないのか、化学調味料入りのスープストックで下味を付けるのが主流。さらに、インドネシア人にはサンバルが欠かせない。このサンバルが屋台ごとの腕の見せ所で、味の違いを競っているそうだ。サンバルは激辛で、このため、「サテたいちゃんとは、激辛サテ」というイメージが広がった。つまり、「黒くて甘い」従来のサテ・アヤムに対し、「白くて辛い」のがサテたいちゃん。
サテたいちゃんがスナヤンで生まれたのは偶然ではない。そもそもスナヤンとは流行の発信地で、ちょっと小金のある若者がたむろする場所だ。クラブに行ったり夜の街に繰り出す若者たちが腹ごなしに立ち寄り、朝までダベっていたりする。実は、サテたいちゃんの前の流行は「ナシゴレン・ギラ(麺入りのナシゴレン)」だった。2014年ごろからサテたいちゃんが売られ始め、今ではサテたいちゃん一色になった。
どの屋台で食べても味はそう変わらないが、「客が多く、はやっている屋台」を選ぶのがポイントか。
サテたいちゃんの定義
その1 屋台にネオンサイン
「Sate Taichan」と自分の店の屋号を入れたネオンサインを掲げる。コタでネオンを買って来て、手作りするとのことだ。
その2 白い焼き鳥
通常のインドネシアの焼き鳥の概念を覆す、白い焼き鳥。塩とスダチが味の基本。
その3 スナヤン競技場付近で夜に営業
スナヤン競技場付近に集まる屋台(カキリマ)で、深夜近くがにぎわいのピーク。明け方まで営業している。
その4 値段が安い
10本2万ルピアが標準。ロントン、ナシゴレンなど、サテ以外のメニューを出している所もある。