文・横山裕一

 

 リリ・リザ監督の最新作は、韓国のヒット映画「サニー(SUNNY)」(2011年公開)のリメイク・インドネシア版。トップ俳優、人気歌手らの豪華出演陣で、原作同様、90年代の懐かしいヒットソングをバックに、1995年の高校時代と現代をシンクロさせた、変わらぬ友情を描く。

 幸せな家族生活を送るフィンは、母親を見舞った病院でかつて親友だったクリスと23年ぶりに出会う。彼女たちは高校時代、気のあった仲間同士で作ったグループ「チーム・ベバス(自由)」のメンバーだった。

 しかし、入院中のクリスは病に冒され、余命2ヶ月だという。クリスはフィンに懇願する。
 「死ぬ前に『チーム・ベバス』の仲間に会いたい」。

 フィンの仲間探しが始まる。頭をよぎるのは、楽しく、スリリングで弾けていた高校時代の日々。明るい仲間との遊び、ライバルグループとの喧嘩、淡い恋。全てが懐かしく、ほろ苦く、甘酸っぱい思い出だった。

 だがある事件をきっかけに彼らは在学途中で離ればなれとなってしまう。フィンとクリスの再会はそれ以来の運命的なものだったが時間がない。フィンは残る四人の仲間を探し出せるのか。しかしそれはクリスによる、フィンたちへの未来へつながる素敵なプレゼントでもあった。

 助け合いながら、生き生きと輝くように描かれたノスタルジックな高校時代。かつての面影を残しながらも、親娘関係、病、仕事、愛情、借金などに悩み、それぞれがどこかに救いを求めている現在のメンバーたち。二つの時間軸の対比も見所のひとつだ。そして、ノスタルジックな過去と問題に直面する現在をつなぎあわせるものとは、やはり……。

 冒頭にも書いたように、今作品は韓国映画「サニー」を製作した韓国のプロダクション、CJエンターテイメントがマイルスフィルムのプロデューサー、ミラ氏とリリ・リザ監督に、制作費を添えてオファーしたものである。

 当初ミラ氏は興味を示さなかったという。学園映画は「チンタに何があったのか?」(2002年公開)、「同2」(2016年公開)で既に製作していて、同じテーマを繰り返すことに意義を見出せなかったためだ。しかし、リリ・リザ監督の提案で「サニー」を観賞した後、二人ともインスピレーションが沸き、インドネシア・リメイク版の実現となったという。

 画面の詳細にもこだわるリリ・リザ監督らしく、場面の至る所に90年代の懐かしい小物が登場する。ゲームボーイ、ポスター、ジュース、公衆電話、カセットラジオ……。また、最近ではあまり見られなくなった、街頭でのライバル高校同志の派手な喧嘩。ラジオ局への歌のリクエストなどなど。

 さらに観客を90年代ノスタルジーに浸らせるのが、「サニー」映画のコンセプトでもある、90年代のヒットソングの数々だ。作品冒頭、アンドレ・ヘハヌサの代表曲「ビダダリ(天女)」のイントロが流れるところからワクワク感が高まる。その後もデワやクリッシェなどの名だたる名曲が続き、物語の魅力を一層引き立てている。

 また、90年代によく使われた言葉も登場する。靴(スパトゥ)は「スポカット」、大金持ち(カヤ)は「コカイ」など。細部にこだわる同監督ならではだ。

 現在と90年代の場面転換の繰り返しで進む構成も、韓国映画ならではの、練り込まれたストーリー仕立てがうまく生かされている。2000年前後から世界に認められた韓国映画は、「シュリ」、「猟奇的な彼女」、「イルマーレ」など、巧みなストーリー展開とラストのサプライズが特徴で見応えがある。

 今作「ベバス」は、「サニー」のリメイクとしては日本、ベトナム、アメリカに次いで4本目になる。残念ながら「ベバス」以外の作品は観ていないため比較はできないが、大きな違いは、他の作品では主役の親友グループが全員女性であるのに対して、インドネシア版は男性が一人入っていることだ。

 プロデューサーのコメントによると、インドネシアでは女子校が極端に少なく(ジャカルタでも2校のみとのこと)、共学が大半を占めるためとのことだ。実際、街中でも若い男女グループがとても親しげに、男女の分け隔てなく楽しく話しているのを見かける。勿論、日本を始め他国でも仲の良い男女グループは見かけるが、インドネシアのそれはより深い友情が築かれているように見受けられる。

 その意味で作品内の「グループ・ベバス」に男性を一人加えたのは、インドネシアらしさを出すためのリリ・リザ監督版独自のものだ。そして高校生時代、また中年になった現在の男性メンバー・ジョジョ役を演じた俳優の好演がそれぞれ光っている。

 高校生時代役が若手の有望株バスカラ・マヘンドラ。グループの一員に男女の差なく自然にとけ込んだ演技が心地よい。主人公のフィンが恋する相手役や不良役など「男くさい」高校生と比較しても際立っている。

 現代の男性メンバー役を演じたのは、実力派俳優のバイム・ウォン。映画「ジャカルタ・アンダーカバー」(2017年)では、裏社会の男を鋭い眼光で印象深く演じたのに対し、「ベバス」では時にコミカルに役をこなし、深刻な問題を抱える女性仲間たちの中、暗くなりがちな雰囲気を変える「救い」にもなっている。

 現在のインドネシア映画界の最右翼の一人でもある、プロデューサーと監督、テンポよくユーモアもふんだんに織り込まれた演出、実力派の俳優陣、とても楽しく観ることのできる作品ではある、が、しかしである。

 以下はあくまでも、いちリリ・リザ監督ファンである個人的な願望である。今作品は独自性も高く、良い作品ではあるが、やはり「リメイク」作品に変わりはない。過去の作品群の実績からみても、同監督には是非ともオリジナル作品を一本でも多く撮ってもらいたいと思うのは自分だけだろうか。

 「チンタに何があったのか?」の続編「同2」以降、「海辺へ行こう(Ku Lari ke Pantai)」は同監督が過去にも手がけたファミリー映画、ロードムービーで、今回はリメイクと、オリジナルテーマの作品が久しくないのはファンとしては寂しい。テーマ、手法が似た映画を否定するつもりは勿論ないが。(筆者自身、「男はつらいよ」のファンでもある)。

 かつて、リリ・リザ監督から「様々な地域、民族、文化、歴史を背景としたインドネシアならではの映画作品を作っていきたい」という抱負をうかがったこともある。是非とも次回作にも期待したい。

 とはいえ、前述のように今作品「ベバス」は見どころも多い。主役の実力派女優のマルシャ・ティモシー、またアジア大会のテーマ曲も歌った人気若手歌手のシェリル・シェイナフィアらが皆スクリーンで弾ける気持ちのいい作品だ。是非ともご覧いただき、機会があれば日本版、オリジナルの韓国版などと見比べるのも楽しいかもしれない。(英語字幕なし)

 

予告編

https://www.youtube.com/watch?v=0xar526DFN4

 

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