かわいい独自通貨でやりとりする「竹林の朝市」 仕掛け人は有名プロダクトデザイナー

かわいい独自通貨でやりとりする「竹林の朝市」 仕掛け人は有名プロダクトデザイナー

中部ジャワ州トゥマングン県で開かれている、竹林の中の朝市。同県生まれのプロダクトデザイナーが地元の人たちと共に始めた。インドネシアでは竹林も市場(パサール)も珍しくないが、なぜここに人が集まるのか。(文と写真と動画・西川知子、動画は音声あり=音量注意)

竹林に囲まれた広場
竹林に囲まれた広場が朝市の会場だ

笹の葉ずれ、ガムラン、人のざわめきが合わさると……

トゥマングン地図

 トゥマングン(Temanggung)は、スマランとジョグジャカルタのちょうど中間辺りにある。どちらの空港からも車で2時間半ほどかかるが、あちこちに山が見える中部ジャワらしい景色を楽しめ、道中飽きることはない。中部ジャワ観光も兼ねて、ボロブドゥール寺院のあるマゲランから行くも良し、スマラン近郊のヴィラでのんびりしてから行くも良し。

 今回は、スマラン空港から車で1時間ほどのリゾートホテルに泊まった翌朝に出発した。目指すはトゥマングン県ガディプロノ(Ngadiprono)村。そこで「竹林の朝市」(Pasar Papringan)が月1〜2回ほどの頻度で、ジャワ暦で日取りを決めた日曜日に開催されている(今年の開催日は、記事の一番下に記載)。

 会場の近くで車を降りて5分ほど歩くと、竹林に囲まれた広場のような場所に出る。竹林の下にぽっかり出来た自然な空き地、そこで朝市は開かれる。

 まずは、こちらの動画をご覧ください。

朝市で村の男性たちが演奏するガムラン。ガムランのポコポコ、竹の葉ずれのサワサワ、人のザワザワが合わさり、気持ちの良い空気を作り出す。会場に置いてある竹馬で遊んでいる人たちもいる

 会場の一角では、村の男性たちがガムランを演奏している。竹の葉ずれのサワサワ、柔らかなガムランの音色、それに人のザワザワ、この3つの音が合わさり、なんとも言えない気持ち良さだ。インドネシアや中部ジャワの良さを感じ、デトックスかつリフレッシュになり、いつまでもここにいたくなる。

 この場の心地良さはちょっと形容し難く、「特別なバイブスだよね」と、インドネシア人でも外国人でも、ここに来た人は口々に言う。

ガムラン演奏隊
竹林の中のガムラン演奏隊

ジャワのごはんを食べ歩きし、ガムランを聞いてのんびり

 竹製の机の上に並べて売られているのは、地元で採れた野菜や果物、手作りのご飯におかず、軽食。まずは、ジャワのごはんをあれこれ食べ歩きする。

揚げテンペ、豆腐の甘辛煮、ウズラ卵のサテなど。どれも1プリン
揚げテンペ、豆腐のうま煮、ウズラ卵のサテなど、手軽につまんで味見できる

 その後はガムランを聞きながらのんびり、ぼーっとして、それからまた、ぶらぶら。ジャワの健康飲料「ジャムー」や、珍しい「笹の葉ジュース」も売られている。木のおもちゃや竹かごもかわいい。出店者は皆、地元の人たちだ。

左端の緑の液体は「笹の葉ジュース」。ほんのり甘い抹茶のような味
左端の緑の液体は「笹の葉ジュース」。ほんのり甘い抹茶のような味
竹かごなど竹の工芸品も売られている
竹を使った工芸品も人気

竹製のお金「プリン」が朝市の独自通貨

 「竹林の朝市」で「インドネシア・ルピア」は使えないので、まずは両替する。ここでの通貨は「プリン」(Pring=ジャワ語で「」という意味)。

 このお金がとてもかわいい。デザイン性抜群で、竹の小さな板に「KEP PRING」(プリン硬貨)、「PasPriNGadiprono」(市場の正式名称「Pasar Papringan Ngadipromo」を略したもの)などの文字が白黒で印刷されている。上には穴が空き、竹ひごを通して束ねられるようになっている。

「竹林の市場」のお金、「プリン」。穴に竹ひごを通して束ねられる
「竹林の朝市」のお金、「プリン」。穴に竹ひごを通して束ねられる

 両替レートは1プリン=2000ルピア(約17円)の固定相場制。売られている物の値段は、お菓子1個が1プリン、ジャムー1杯が1〜2プリン、という具合。いわゆる「地元価格」で、とても安い。5万ルピアも両替すれば、半日間のパサールでは使い切れないほどだ。

 それにしても、なぜわざわざ、お金をデザインしたり作ったりという手間をかけて、「プリン」を導入したのか。

 この朝市の仕掛け人は、木のラジオ「マグノ」竹製自転車「スペダギ」で知られる、プロダクトデザイナーのシンギ・スシロ・カルトノさん。シンギさんはバンドン工科大を卒業してバンドンで働いた後、故郷にUターンし、自らのプロダクト生産と地域おこし活動をトゥマングンで行っている。「竹林の朝市」もその一つだ。

 「『プリン』を使う意味には、『技術的な面』と『技術的でない面』の2つがあります」とシンギさんは説明する。

「技術的な面」とは、「売上を間違えずに、把握しやすい」「お釣りを準備する必要がない」といった運営上のやりやすさです。そして「技術的でない面」とは、あまりにも身近すぎるために「古色蒼然とした安い材料」と見られがちな竹を「お金」として用いることで、竹の地位を上げることです。

シンギさん

 竹への愛情を感じられる、すてきなお金だ。「プリン」が余ったら、持ち帰ってお土産にしたり、キーホルダーなどにしても良いだろう。

市場の通貨「プリン」
竹の通貨「プリン」は、余ったらお土産に持ち帰ろう
バナナの葉に包んでくれるサテ
サテは1本1プリン
ジャムー売り場。1杯1プリンまたは2プリン。コップはヤシ殻
ジャムー売り場。1杯1プリンまたは2プリン。コップはヤシ殻

「観光地化」が目的ではない

 朝市では「ノープラスチック」が徹底されているのも快適だ。会場に設置されたゴミ箱の中をのぞいてみると、竹串やバナナの葉といったオーガニックな物ばかりで、プラスチックゴミはいっさいなし。これも、「村の自然や環境を守る」という、シンギさんの考えに基づくものだ。

この村に限った話ではなく、ジャワ島で村外れにある竹林は大抵、使われていません。そこでゴミを捨てる人もいるし、「汚くて、蚊がいて、なんだか不気味な場所」というイメージです。そんな竹林を活用しようと考えました。

シンギさん

 市場を始める前に村の人たちと竹林を清掃し、地面には石を敷き詰め、竹柵を設置して整備した。

「竹林の朝市」の目的は、竹林を観光地に変えることではありません。竹林や村の自然を守ることです。市場への観光は新たな収入などの利益をもたらしていますが、それがわれわれの主目的ではないのです。

シンギさん

 当初、「竹林の朝市」を2016年にトゥマングン県チャルバン村で始めた時には、10カ月しか続かなかった。そこへ、ガディプロノ村の若者グループから、「うちの村でやってほしい」という声がかかった。最初の反省を基に、村人との関係作りを中心にした6カ月間の入念な準備期間を経て、2017年5月に現在の場所でオープン。コロナ禍中の2020〜21年に一時閉鎖したが、2022年2月に再オープンした。決して交通の便が良いわけではない立地にもかかわらず、SNSでの宣伝と口コミにより、多くの人が集まる。

 インドネシアでは、竹も市場も珍しくはない。朝市で売られている物も「ここでしか買えない特別な物」はない。しかしながら、朝市の開かれている場の自然環境、シンギさんと村人ら朝市の作り手、口コミで集まる来場者、そして恐らくはジャワ暦での「良き日取り」も相まって、いろいろな要素が重なって全体を作り出している。それら全ての中心には「人」がいる。その、人の出す「バイブス」がとても良い。

良い空気の流れる「竹林の朝市」。ゆったり、のんびりした雰囲気
竹林の朝市への行き方

・スマラン空港から車で約2時間半
・ジョグジャカルタ国際空港から車で約2時間45分、ボロブドゥール寺院(マゲラン)から約1時間半
・朝市は日曜午前中に開催されるため、前日には中部ジャワ入りしておく必要がある。トゥマングン近辺には適当なホテルがないため、スマランかジョグジャで前泊するのがお薦め

竹林の朝市インスタグラム
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竹林の朝市 2025年の開催日

1月 12日
2月 16日
4月 6日、27日
5月 11日
6月 1日、15日
7月 6日、20日
8月 10日、24日
9月 14日、28日
10月 19日
11月 2日、23日
12月 7日、28日

開催日は全て日曜日。開催時間:6:00〜12:00