インドネシア人、あれはもう河童だろ 岡本みどりさんの「私のイし(インドネシア推し)」 

インドネシア人、あれはもう河童だろ 岡本みどりさんの「私のイし(インドネシア推し)」 

2025-02-12

私のインドネシアの推しを語る「私のイし」第2回は、ロンボク島在住の岡本みどりさんです。みどりさんから「私のイしは『人々の、川で遊ぶ河童のような生き方』」と聞いた時に、「どういうこと?!」と思ったのですが、こういうことでした。

ロンボクの雨とハイビスカス
ロンボク島の雨とハイビスカス

文と写真・岡本みどり イラスト・Minoya

水もしたたるインドネシア人

 毎日、雨。雨雨雨。

 インドネシア・ロンボク島に青年海外協力隊の隊員として降り立った当時(2010年)、雨季の雨はきまって夕方4時ごろに降り始めた。ひとたび雨が降り始めると、もうどこにも行くことができない。家の中でおとなしくしているのだが、雨が強まるとすぐ停電になる。私はお世話になっていたホームステイ宅で、部屋の前の小さなテラスに座って、庭を見ながら過ごした。

 雨季の庭は、まばゆかった。ぐんぐんぐんぐん緑が濃く、深く、大きくなる。小さなジャングルにいるようだ。さすが、熱帯。

 多くの人が、雨が降っても傘をささない。いや、傘を持っている人すらほとんどいない。雨の中を友達とそぞろ歩く。雨をシャワー代わりにして散歩しているのだ。大人もいれば子供たちもいる。歩きながらシャンプーをしている人もいた。私も誘われて、一度、一緒に歩いたけれど、思った以上に雨は冷たく、とてもみんなのように楽しめなかった。

 ホームステイ先の40代の女性は、家の中に風呂場があるにもかかわらず、いつも庭でマンディ(沐浴)をした。布を一枚だけ身にまとい、水道からホースでつないで水を溜めた水瓶の栓を抜き、勢いよく出て来る水を浴びる。私が庭に出た時に何度か鉢合わせしたが、まったく意に介する様子は見せず、気持ちよさそうにマンディをしていた。

 1日に2回マンディをし、お祈りのたびに水で浄め、お手洗いへ行けば水浴びと大して変わらぬほど水を使う。海や川へ行ったら服のまま泳いで、濡れたまま帰宅する。タオルで拭かない、ドライヤーもかけない。なんだかずっと濡れている。

 雨季であればなおさら、「滴る」という言葉はまさにこのためにあると言ってもよいほど、水と雨が褐色の肌や黒い髪を伝い、彼/彼女らを美しく艶(つや)っぽく見せた。妖(あやかし)にすら見える。インドネシアの人々は水と親和性が高いようだ。

親せきの子供たちと海へ。右端が筆者
親せきの子供たちと海へ。右端が筆者

流れるように生きる

 それからもう一つ、ロンボク島の人々の考え方。

 協力隊の隊員だったころ、金曜日の集団礼拝の後は、職場の人数が半分以下になるのが常だった。集団礼拝の後はゆっくりしたい。仕事したくない。だから、帰るのだ。あまりに人が少なくなったので、職場に残っている人(ほとんどがバリ・ヒンドゥー教の人々だった)でお昼ごはんを食べに行って、そのまま流れ解散になったこともある。自由すぎる。

 またある時、義兄が夜遅くにおやつを勧めてきた。「もうあと寝るだけだから」と断ると、義兄は不思議そうな顔をした。「寝る前に食べたら太るから」と説明すると、ますます首を傾げる。

 「おなか空いてないの?」
 「ちょっと空いてるけど」
 「おなかが空いていたら、食べるんじゃないの?」

 おなかが空いているという事実があるのに、太るかもしれないと考えて食べないのは、義兄にとっては理解しがたいことらしい。

 そしてまた別の場面では、知人がカフェを開いた、と言う。営業時間を尋ねたら「僕が開けたい時」と返ってきた。「僕のカフェなんだから、僕のしたいようにすればいいんだよ」。

 インドネシアの人々の柳が揺れるような生き方や考え方が私にはとても新鮮に映った。なんだこの柔軟性。なんだこの受容度。なんだこのしなやかさ。上善如水(上善水の如し)だな、と思ったときに、「あ!」となった。水だ。

 そんな折、当時インドネシア生活を綴っていたブログで、「バックパッカー」と書くところを「バックカッパー」と間違えた。「河童って!」と一人で笑っていた時に、そうだ、インドネシアの人たちは河童なのだと思った。水との親和性といい、流れるような生き方といい、あれはもう河童だろ。

 インドネシアの河童たちが好きすぎて、2016年にイラストレーターのMinoyaさんに頼んで、キャラクター化していただいた。

日本から来たバックカッパー。甲羅はリュック
日本から来たバックカッパー。甲羅はリュック

【バックカッパー】

  • 日本から来たカッパ
  • まじめ、きっちり、準備万端なタイプ
  • 手土産としてキュウリを持って来た
  • 会えばキュウリを渡して、ほかの人(河童)とうまくやっていくことに余念がない
ロンボクカッパ。甲羅は重いので干しっぱなし
ロンボクカッパ。甲羅は重いので干しっぱなし

【ロンボクカッパ】

  • ロンボク島に住むカッパ
  • おおらか、ゆったり、臨機応変なタイプ
  • 甲羅は重いからずっと干している
  • キュウリよりも空芯菜(ロンボク名産)が好き
  • 家族のことは大切にしている

 ほれほれ、あなたもインドネシア河童の虜じゃろ。約束の時間に遅れて来ても、おまえが言うかのタイミングで「ティダアパアパ(大丈夫)」と言われても、河童がかわいくて仕方がなくなっているでしょう?

甲羅を枕に、昼寝するロンボクカッパ。口には「ロンボク」を意味するトウガラシをくわえている
甲羅を枕に、昼寝するロンボクカッパ。「ロンボク」を意味するトウガラシをくわえている

岡本みどり(おかもと・みどり)
2010年から2年間、青年海外協力隊の栄養士隊員としてロンボク島の西ロンボク県へ派遣される。2012年、任期満了後に結婚。北ロンボク県へ移住し、現在に至る。2018年のロンボク地震被災後は、家族のストレスケアのため、家族中心生活へ移行。2020年7月から2024年6月まで、地元の観光専門高校で日本語教師。

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