Perayaan Mati Rasa
人気の若手俳優、イクバル・ラマダンの最新主演作。父との確執と、父の急死を隠そうとする中で、亡き父の愛情に気付いていく姿を好演する。前回紹介した「若おじさんと7人の子供たち」と同テーマで、見比べても面白い。
文と写真・横山裕一
大ヒット映画「ディラン」（Dilan）シリーズなどで人気の若手俳優、イクバル・ラマダンの最新主演作。確執のあった父親の突然の死を受けて、親子とは何か、家族とは何かを考え始める主人公を好演する、人間ドラマだ。
主人公のイアンは両親と弟の4人家族。両親の希望通りの大学に入り優秀な弟の一方で、イアンはメジャーデビューの夢に向けてオーディションを繰り返すロックバンドのメンバーで先行きは不安定なままだった。長距離航路客船の船長で家を長期に空ける父親はイアンを心配するが、イアンは普段不在で自分を好き勝手なままに放っておいた父親を批判し、反発する。
ある日、母親が心臓発作で倒れてしまう。一命は取り留め安堵するイアンと弟だが、再度の発作は命の危険があるため医者から心身ともにショックを与えないよう注意を受ける。そんな折、追い打ちをかけるように勤務船の事故による父親の突然の訃報が舞い込む。イアン兄弟は悲しみに暮れるものの、意識を取り戻した後の母親の身を案じて、父親の死去を隠そうと決めるが……。
作品の原題「Perayaan Mati Rasa」は直訳すれば「無感覚（無感情）を祝う」だが、「無感覚」とは物語内では父親の死に直面するも、深い悲しみの感情を押し殺して母親の前で平静を装わねばならないことが表されている。それが母親の命を守ることだからこそ「無感覚」を「優先する（祝う）」という事だろう。
さらに重要な意味合いとして、物語のテーマの柱である主人公イアンと父親の関係も表されている。イアンは父親に批判的だったが、母親に父親の死を悟られまいと、弟と共同でパソコンの変声機能を利用して、父親を演じながら母親と電話で会話する。これらを通して、父親の自分への愛情が深かったことに気づき始める。自分のすることを父親が放任してきたことは無関心だったのではなく、愛情の中で最も誠実な自由に振る舞わせるということだったのではないか？ 愛情を感じなかった（無感覚、無感情）と思い込んでいたことこそ実は、大切な愛情という贈り物（祝うべきもの）だったのではないか。本作品の見どころは父子、親子間の愛情を深く掘り下げて描かれている点だといえそうだ。
国や民族で愛情表現は異なるが、インドネシアでは大家族主義も影響してか、親子感の関係をとても重視する傾向にある。表面的な例では大人になってからも休日でも友人との遊びより、家族と共に過ごす時間を優先するケースが多いことなどがあげられる。本作品を通しても、家族間の相手をいかに思いやることが大切かが描かれる。終盤の母親の一言も感動的だ。
偶然ながら、前回本稿で紹介した「若おじさんと7人の子供たち」（1 Kakak 7 Ponakan）も同テーマで、内容や手法は異なるものの、いずれも親や両親と同格の家族との死別を機会に長男格の主人公が奮闘して「家族とは何か」を問いかけている。それをほぼ同時期の上映で、インドネシア映画界で2大イケメン若手俳優のイクバル・ラマダン（本作品）とチッコ・クルニアワン（若おじさん……）がそれぞれの作品で主演を演じているのも興味深い。
両作品とも家族ドラマだが、両親と小さな子供という設定から進んだ、子供が一人前となった後、父親や両親がいなくなってからいかに家族の絆を保っていくべきかが描かれている。インドネシアでも都市部では核家族化が進み始め、伝統的な大家族主義が揺るぎ始めた時代を反映して、改めて家族の大切さを喚起させる必要に迫られる時期に来ているようだ。
家族テーマは基本的には普遍的で日本とも通じるものでもあり、この機会に両作品を劇場で見比べてみるのもいいかもしれない。（英語字幕なし）
