Dopamin
苦しい生活の中で、目の前に現れた大金。思わず手を付けた夫婦を次々に窮地が襲う。ドーパミンが出まくる、息もつかせぬサスペンスドラマ。実力派監督の最新作で、夫婦を追い詰めていくテンポ良い演出が光る。
文と写真・横山裕一
八方塞がりの状況で大金を目の前にしたらどうするか? 経済的に窮した若い夫婦が幸福とモラルの狭間で狂気の世界に足を踏み入れてしまう、観る者に息をもつかせぬサスペンスドラマ。
物語の主人公は若夫婦のマリックとアルヤ。失業したばかりのマリックは再就職がうまくいかないうえ、借金取りのチンピラに脅される。妻のアルヤもツケで屋台から食料品を買って当座を凌ぐ苦しい日々が続くにも関わらず、妊娠していることがわかる。
ある日、マリックは運転していた車がパンクしてしまう。土砂降りの中だが仕方なくタイヤ交換していると、一台の車が停まり、運転していた男が危険だから家まで送って行くと申し出る。マリックはお礼として男に夕食をもてなす。食後、この男は大麻を嗜み、帰ろうとすると車が大雨でエンストしてしまっていた。マリック夫妻は男に一泊するよう勧める。しかし翌朝、なかなか起きてこない男の部屋を見ると、男が死んでいた。そして彼のスーツケース一杯に、大金が詰まっていた。警察に通報しようとするアルヤ。しかし、マリックは昨晩、男の勧めで大麻と知らずにひと口吸ってしまっていたため、アルヤを制する。二人が思い悩んでいると、借金取りのチンピラがけたたましくドアを叩く。どうすべきか?二人はパニックの中、必死に思いを巡らせる……。
本作品では主人公夫婦に窮地が次から次へと畳み掛けられ、まさに観る方もドーパミンが出てしまいそうになる。また人間の弱さが招く悲劇も描かれる。いけないと知りつつも借金返済のため、死んだ男の大金に手をつけてしまう。当座のしのぎのためと自ら言い訳を見出しながらも、衣服を買い込んだり、高級レストランへ行ってしまう。そして、その代償も畳み掛けるように二人に襲いかかる。
本作品は実力派、テディ・スルヤアトマジャ監督の最新作で、次々と主人公夫婦を追い詰めて行くテンポ良い演出が光っている。過去作で、家族のためジャカルタで一人、女装して客を取る男を切なく描いた「ラブリーマン」(Lovely Man/ 2011年作品)や、老いた女性の孤独を描いた「ある女性について」(About a Woman/ 2015年作品)などではゆったりとした静かな画面作りだったのと比べて、本作品は一転した演出で同監督の多彩な手腕が窺える。
経済格差や貧富の差が激しいインドネシアだけに限らず、どこだろうと現実味のある物語を是非劇場でハラハラしながら味わっていただきたい。(英語字幕なし)

