SORE Istri dari Masa Depan
クロアチアの美しい街を舞台にしたラブストーリー。タイトルから受ける印象のようなSFっぽさは感じさせず、「心温まる大人のおとぎ話」として楽しめる良作。YouTubeで配信された人気ドラマの映画化で、封切り後すぐにX(Twitter)でトレンド入りし、ネット民からも高評価を得ている。
文と写真・横山裕一
タイトル副題のように物語設定が奇想天外ではありながら、あくまでも現実的で男女の心情を丹念に描いた大人のラブストーリー。2017年にYouTubeで人気を得た配信ドラマの映画化で、クロアチアの小さな美しい街を舞台に、古いレンガ造りの街並みが物語にマッチして印象深い作品でもある。
主人公はクロアチアの小さな街を拠点に活動するフリーのフォトグラファー、ジョナサン。ある朝、目覚めるとベッドの隣に見知らぬ女性がいて驚く。その女性はどこか懐かしく愛おしそうにジョナサンを見つめながらこう話す。
「私(の名前)はソレ。未来から来たあなたの妻よ」
独身のジョナサンは信用せず悪ふざけだと怒りもするが、ソレがジョナサンの家族など詳しく知っていることに驚き困惑度を深めていく。ソレはある目的のために来たというが、その内容は明かさない。一方でジョナサンは時間が経つにつれて、ソレの存在に対する自分の感情が変化し始めていることにも気づいていく。しかしある日、ジョナサンがソレの忠告を守らなかったことから、事態は大きく変化していく……。
この作品は令和風に言えばタイムリープを駆使したラブストーリーではあるが、観る者にSFっぽさを感じさせず、現実的にはありえない現象を違和感なく受け入れさせてしまうような不思議な魅力がある。不思議な出来事以上に主人公の男女二人の感情の行方が気になってしまう、昭和的な表現ではあるが心温まる大人のお伽話が展開していく。
作品の舞台はクロアチアのグロジュニャン(Groznjan)という小さな街で、ギャラリーやアトリエが集まるアーティストの街としても有名だ。美しく、お洒落な街だが、作品では観光的な見せ方はなく、レンガ造りの街並みや道路が主人公二人の心情を映し出しているような効果をあげている。インドネシアを舞台にせず、あえてかけ離れたヨーロッパの異国情緒あふれる片隅を選んだ理由には、現実の街ではありながら非現実的な物語を展開させるのに適していたのかもしれない。このレンガの街とともに、日常的な生活を送る現地の人々の様子も不思議な物語とは対照的で見所の一つだ。
冒頭にも紹介したように、この作品は2017年にYouTube配信用に制作され人気を呼んだシリーズドラマのリメイクで、いずれもヤンディ・ローレンス監督作品だ。同監督は「映画のように恋に落ちて」(Jatuh Cinta Seperti di Film-film/ 2023年作品)や今年公開の「若おじさんと7人の子供たち」(1 Kakak 7 Ponakan)など優秀作を立て続けに生み出している注目の若手監督でもある。本作品「ソレ」の映画化でも、主人公の男女の心情が前作以上に深く描かれていて同監督の本領発揮といった感がある。
また、主人公のジョナサン役のディオン・ウィヨコもドラマに引き続き出演している。前作から約10年経っているだけにドラマよりも大人感ある演技で、深みある作品に仕上がった要因の一つでもあるようだ。キーパーソンであるソレ役は今回、シィラ・ダラ・アイシャが演じている。近年多くの話題作で主役や重要な脇役を演じるなど今ノリに乗った女優の一人。ソレ役はドラマで演じたティカ・ブラファニのイメージが強かったが、映画ではそういった違和感を全く感じさせないほどシェイラの好演が光っている。
物語で謎が明らかになっていくほどソレのジョナサンに対する愛情の深さがわかっていく「良い作品」を是非劇場で味わっていただきたい。また本作品を観た方はYouTubeの前作を観ると、前作での疑問や物足りなかった部分が映画でいかに網羅でき、完成度の高い作品に仕上がっているかがわかる。ドラマから観て、劇場へ行くのもいいかもしれない。
YouTubeでのドラマ「ソレ〜未来から来た妻」(SORE istri dari Masa Depan)↓
映画予告編 ↓

