「正義」 正義の実現されない法廷を武装占拠! 迫真の対決はどうなる? 【インドネシア映画倶楽部】第103回

「正義」 正義の実現されない法廷を武装占拠! 迫真の対決はどうなる? 【インドネシア映画倶楽部】第103回

身重の妻を殺された男が法廷を武装占拠し、SNSで中継しながら公正な裁判を求める。単身で悪に立ち向かう警備員役にリオ・デワント、切れ者の悪徳弁護士役にレザ・ラハディアンという二大俳優の対決が見物。イ韓合作で「これぞ韓国エンタメ」という面白さだ。

Keadilan

文と写真・横山裕一

 妻を殺された男が事実を捻じ曲げようとする司法汚職に立ち向かうサスペンスドラマ。監督は韓国のイ・チャンヒ監督とインドネシアのユスロン・フアディ監督の2人が名を連ねるように、インドネシア映画でありながら韓国スタッフが多く参加したイ韓合作の珍しい作品。インドネシアを代表する、リオ・デワントとレザ・ラハディアンの人気俳優の対決も見どころだ。

 物語の主人公は裁判所で警備員を務めるラカ(リオ・デワント)。出産間近の妻がようやく司法試験に合格したため、ラカは妻を高級レストランで祝うが、妻はレストランのトイレでマフィアの息子ディカの気まぐれで殺害されてしまう。裁判に至り、被告・ディカについたマフィアお抱えの悪徳弁護士ティモ(レザ・ラハディアン)は事実を捻じ曲げ、検察側をも抱き込んで審理を有利に進めようとする。正当な方法では真実を公にできないと悟ったラカは、弁護側の偽証証拠を掴んだ上、単身武装して判決が言い渡される法廷に乗り込み、占拠する……。

 報道によると、インドネシア映画で韓国人監督が指揮をとるのは初のケースだという。両国に共通するのは本作品のテーマの場合、司法汚職の横行だ。インドネシアでも弁護士や検察、さらには裁判官への買収による判決操作はたびたび指摘されている。「裁判に勝つには金次第」と揶揄されてもいる。このため特に政府高官や政治家などの裁判で、判決に対し国民が疑念を抱くケースも多々見受けられるようだ。

 本作品では、映画ならではの武力を行使してでも真実を暴こうとする主人公の姿が描かれる。ここからインドネシア語のタイトルは「正義」だが、英語タイトルは「評決」(The Verdict)となっている。評決は一般市民から選ばれた陪審員による合議で勧められる裁判形態でインドネシアでは採用されていないが、作品では主人公が占拠した法廷の様子をソーシャルメディアで中継することで、特定空間で展開する司法汚職の実態を曝け出し、広く一般に判断を委ねようとすることから、「評決」と題したように窺われる。

 見どころは、悲劇に見舞われながらも単身悪に立ち向かうラカ演じるリオ・デワントと、頭が切れる悪徳弁護士ティモ演じるレザ・ラハディアンによる法廷対決。リオ・デワントは映画「コーヒー哲学」(Filosofi Kopi)シリーズなどで日本人にも知られる俳優で、レザ・ラハディアンは本稿第101回でも紹介した、映画「膝の上」(Pangku)で初監督作品を手がけるなど今年大活躍の実力派の俳優だ。2大スターの法廷対決による迫真の演技が展開する。

 韓国風味でありながらも、インドネシアならではの実態をエンターテイメントで描いた作品を是非、劇場で楽しんでいただきたい。(英語字幕あり)

インドネシア映画倶楽部 バックナンバー
横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
plus62.co.id