【インドネシア映画倶楽部】第36回「ベン&ジョディ」 「フィロソフィ・コピ」が一転アクション映画に!

【インドネシア映画倶楽部】第36回「ベン&ジョディ」 「フィロソフィ・コピ」が一転アクション映画に!

2022-02-03

「ベン&ジョディ」(Ben & Joddy)

文と写真:横山裕一

Ben & Jody

 人気映画「フィロソフィ・コピ」(コーヒー哲学/Filosofi kopi:2015年公開、2:2017年公開)シリーズの第3弾で、番外編、あるいはスピンオフ的な作品。ポスターや予告編ですでにわかってはいたが、コーヒーにかける情熱や友情を描いたこれまでの物語から、銃弾まで飛び交うアクション娯楽映画に大変身している。

 物語はとある山間部で始まる。企業による土地の強制収用に反対しバリケードを張る農民たち。主人公の一人、ベンも参加している。映画『フィロソフィ・コピ2』の最後にベンが亡き父の遺した農園に戻ったこともあり、そこでの出来事と推測できる。その後、バリケードは企業側の暴力によって取り除かれ、ベンもある夜、誘拐される。

 ジャカルタのブロックMでこれまで通りコーヒーショップを営むベンの親友・ジョディはベンと連絡が取れなくなり心配して当地へ向かうが、不審者を追いかけるうちに囚われの身になってしまう。山奥にある企業が雇ったならず者による砦で再会するベンとジョディ。二人は逃亡を試み、追手の銃弾を掻い潜って山あいの村に逃げ切るが、砦に残してきた囚われたままの農民たちを救出するため、再び砦へと向かう……。

 誘拐、逃亡、悪党との銃撃戦、格闘技を含めた対決とアクション映画の要素がふんだんに盛り込まれている。人気作「ザ・レイド」など格闘技アクションの常連、格闘家で俳優のヤヤン・ルヒアンも悪党のリーダーとして出演するのをはじめ、主人公の二人とともに村人救出に向かう格闘や弓に秀でた美人姉妹も登場するなど、純粋にアクションを楽しめる。ベン演じる二枚目人気スター、チッコ・ジェリコもこんなにマッチョだったかと思わせる肉体美を披露していて、ファンも喜ぶことだろう。

 しかし、コーヒーの魅力をふんだんに散りばめた友情物語の過去2作から生死をかけたアクション物語へと、何故とんでもない変身を遂げてしまったのか。地元の報道によると、過去2作でフィロソフィ・コピの世界観が多くの観客に定着した現在、ここから新たなジャンルに広げてみてもいいのではないか、というスタッフらの思いから始まったということらしい。まさに新たな冒険である。

本作品にも登場する、南ジャカルタ・ブロックMのコーヒーショップ
本作品にも登場する、南ジャカルタ・ブロックMのコーヒーショップ

 一方でそんな中にも、過去2作のテイストが垣間見られ、従来のファンもホッとする場面も用意されている。作品冒頭でバリケードを張る農民たちにベンがコーヒーを振る舞うシーン、また悪党のリーダーが手下にコーヒーが不味いと怒ると、やはりベンがコーヒーを淹れることを申し入れ、余りのコーヒーを囚われた他の者たちにも振る舞うシーンなどだ。ジャカルタのコーヒーショップのスタッフやジョディの共同経営者で恋人の役も従来と同じ顔ぶれの俳優陣で固められている。

 さらに、たとえアクション映画だといっても、主役のベンとジョディはあくまでも「コーヒー屋」でスーパースターになりきっていない設定も好感が持てる。勇敢に悪党に立ち向かうが、腕力では悪党らに敵わない。強力な悪党と直接対決するのはベンとジョディに協力する村の屈強な美人姉妹らである。ハリウッド映画であれば、恋愛も絡んで最後には主役二人と美人姉妹がそれぞれキスしてエンディングともなりかねないが、そこはインドネシア映画、何でもかんでもありにはせず、リアル感をとどめている。

 物語終了後のエンディングロールの初めに「グレン・フレッドリーのために」(For Glenn Fredly)と記されていた。これは「フィロソフィ・コピ」過去2作の音楽担当をし、自らも挿入歌を手がけた歌手のグレン・フレッドリーが2020年4月に急逝してしまったため、これまでのシリーズへの貢献を讃えてのものとみられる。過去2作で挿入歌として使用され、大ヒットしたフォートゥエンティ(Fourtwnty)の曲とともに、グレン・フレッドリーが自らデュエットした曲「哲学と論理」(Filosofi & Logika)はとてもいい曲であり、お勧めである。

 グレン・フレッドリーは他にも映画『東方からの光』(Cahaya dari Timur:2014年公開)、「プラハからの手紙」(Surat dari Praha:2016年公開)などでも音楽面から作品を効果的に演出していて、彼がいなくなってしまったことは非常に残念であり、インドネシア映画界にとっても痛手だと思われる。

 日本の人気シリーズ映画「釣りバカ日誌」でもスピンオフで江戸時代設定のものがあったが、本作品はそれ以上の変貌ぶりで、今後さらに我々を驚かせる発想で新たな冒険を期待したいところでもあるが、「フィロソフィ・コピ」ファンとしてはあの世界を再びじっくりと観たいという気持ちも湧き上がってくる。いずれにせよ、懐かしい愛すべき面々が再びスクリーンで躍動する本作品は余計なことを考えずに楽しめる作品だ。 

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