ジャカルタを東南アジアでの映画産業の中核地とする計画が進んでいる。ジャカルタ州政府が交通規制での協力など、さまざまな便宜を図る。ジャカルタの風景がスクリーンを通して楽しめる可能性が広がりそうだ。街中で撮影現場に出くわす機会も増えるかもしれない。
文と写真・横山裕一
「銃撃戦、廃車に火」 コタ・トゥアで映画撮影
2月上旬、ジャカルタ北部にあるオランダ植民地時代の旧市街(コタ・トゥア)近くの路地で映画撮影が行われていた。幅数メートルの路地には廃車が数台配置されていた。スタッフによると、銃撃戦のアクションシーンを撮影する予定で、廃車にも火が放たれるとのこと。現場は昼の休憩中だったが、現場の様子を見ているだけで、これから迫力あるシーンが展開されるであろうことが想像される。

通行人も含め現場を封鎖するため、路地の片側は約10メートルの高さまで黒い布で目隠しされていた。そしてジャカルタの州政府運輸局により、一般車両が入れないよう交通規制が行われていた。この交通規制はジャカルタ特別州が従来以上に映画撮影などに協力し、2027年に「映画の街・ジャカルタ」(Jakarta Kota Cinema)としてアピールする一環の協力だという。

「映画の街・ジャカルタ」構想は、ジャカルタ特別州が2027年に生誕500周年を迎える記念事業のひとつとして準備を進めているもので、映画産業界支援のためジャカルタをロケ地とする際の許可の簡略化や交通規制などの協力、撮影設備の充実などを図る計画だ。同構想は2020年頃からすでに進められていたが、現在のラノ・カルノ同州副知事は有名な俳優出身だけにうってつけのタイミングかもしれない。
同州ではこうした活動を通して、ジャカルタを東南アジアでの映画産業の中核として機能することを目指すという。さらには映画など文化活動の充実化を含め、都市交通基盤整備などによって、2030年に世界のグローバル都市トップ50入り(現在75位)を目指している。
ジャカルタは首都だけにこれまでも多くの国内映画作品の舞台となってきたが、今後、州政府の更なる協力でこれまで以上にジャカルタの様々な風景がスクリーンを通して楽しめる可能性が広がりそうだ。さらには街中や住宅地で撮影現場にふと出くわす機会も増えるかもしれない。筆者もかなり以前だが、南ジャカルタのブロックMで映画「コーヒー哲学 2」(Filosofi Kopi 2 Ben & Jodi/2017年作品)の撮影現場に偶然居合わせ、思わず野次馬として見学した憶えがある。
「ベン&ジョディ」 人気の「フィロソフィ・コピ」がなぜかアクション映画に大変身 【インドネシア映画倶楽部】第36回

ミャンマー舞台の韓国映画をジャカルタでロケ
ジャカルタの「映画の街」活動が進めば、国内映画にとどまらず、ジャカルタが国際的な撮影ロケ地となる可能性も広がるかもしれない。冒頭のコタ・トゥアでの映画撮影現場は実は韓国映画作品のロケで、インドネシアのスタッフが共同で制作していた。意外なことにインドネシアではなく、1990年代のミャンマーを舞台に想定した撮影だという。確かに建物や街路樹には「民主化を」「暴力反対」と英語で書かれた横断幕が掲げられていた。現場は一部オランダ時代の名残を残すものの、東南アジアであればどこにでも見受けられそうな古い商店街や倉庫が並ぶ地域だった。ジャカルタロケ地をこのように応用させることもできるのかと感じさせられた。
興味深かったのは、撮影ロケ地の決定などを担当するインドネシア人スタッフの中に、あの、世界でアクション映画の金字塔を打ち立てた「ザ・レイド」(The Raid/2011年作品)を担当した人もいたことだ。作品のクライマックスでもあるビル内での迫力あるアクションシーンが展開した舞台には、中央ジャカルタ、パサールスネンの一角にあるビルが選ばれたという。
作品の撮影は4カ月間でしたが、そのうち3カ月がビル内での撮影でした

3カ月もの長い撮影期間をかけたからこそ、ビルでの息をもつかせぬ名シーンの数々が生まれたのだと改めて感心。彼の傍にいた若いスタッフが「彼はレジェンド的なスタッフですよ」と教えてくれた。
2025年にはインドネシア映画は201本公開されている。観客動員総数は8027万人で前年よりも微増している。ここ2〜3年のインドネシア映画作品の充実ぶりは顕著で、ジャカルタの「映画の街」活動も含めて、今後さらにインドネシア映画が面白くなることを期待したい。また街中で撮影現場に居合わせれば、さらに身近に感じられるかもしれない。

