Yohanna
舞台は丘陵地の広がるスンバ島、主演はラウラ・バスキ。魅力的な舞台設定と実力派女優を得て、修道女が厳しい現実の中で葛藤する姿を描く。
文・横山裕一
自らの信仰心に限界を感じた修道女が、赴任先の東ヌサトゥンガラ州スンバ島で出会った少女との交流や次々と巻き込まれる事件を通して、自らを見つめ直していく心のドラマ。舞台であるスンバ島ならではの広大な丘陵地や馬のいる風景、殺伐とした独特な街の雰囲気などと合わせ、必見の作品だ。
物語は修道女ヨハンナがサイクロンの被害にあった地域に救援物資を届けにいくところから始まる。小型トラックを借りて自ら運転するヨハンナ。ある街に立ち寄った際、ヨハンナはトラックの荷台に逃げ隠れた少女アリスを事情も聞かずそのままかくまった。アリスは密造酒の街頭での販売や、泥棒の常習犯で、警察から追われていた。
正しいこととは何か、矛盾を抱えながらも、アリスとの交流を深めていく。その中で真の愛や信念に基づいた行動、人を助けることとは何かをヨハンナは考え始めているようでもあった。そんなある時、ヨハンナは食事中にトラックを盗まれてしまう。そして、車の行方を探す中、ヨハンナはアリスと行動を共にしていたため、警察に拘束されてしまう……。
本作品では、修道女である主人公が神に仕える身でありながら、人を助けるために違法なギャンブルにも手を染めてしまうなど、信仰と人道の間に立たされながら厳しい現実を前にして、人間らしい行動とは何かを問いかけている。
監督はラズカ・ロビ・エルタント監督で、夢のために都会に上京した青年が裏社会に手を染めてしまう映画「ジャカルタVSあらゆる者たち」(Jakarta vs Everybody/ 2020年作品)など、理想と現実の狭間を生きる人間を巧みに描く作品が多い。
本作品は同監督作品の「アベ・マリアム」(Ave Maryam/2019年作品)に続く、修道女を主人公にした第2弾で、前作では修道女でありながら自らの恋愛を貫く女性の姿が描かれている。本作品と共通しているのは、神に仕える信仰心と時に信仰に反する人間らしい生き方とのジレンマ、また修道女であろうと人間であるということが強調されている点だ。作品ではカトリック修道女が描かれるが、唯一神の信仰を義務付けるインドネシアでは、どの宗教でも直面する命題でもあるといえそうだ。
作品の舞台は東ヌサトゥンガラ州のスンバ島東部。広大な丘陵地が広がり、馬と暮らす伝統文化が根付いた観光地としても有名な地域だ。しかし、現実には離島故の貧困にも直面していて、海外への出稼ぎ労働、残された子供達は教育も受けられない状況、さらには金次第の地元警察など深刻な現実面も本作品では描かれている。
作品に登場する少女アリスもその一人だ。親は出稼ぎに行ったまま行方知れずで、仲間の子供達と軽犯罪を繰り返す。見かねたヨハンナが「今、幸せ?」と尋ねるが、アリスが答えた「幸せってどういうものなの?」という一言が印象深く残る。
厳しい現実を前に、聖職者としては難しい決断を迫られる主人公役を女優ラウラ・バスキが淡々とした表情ながら見事に演じ切っている。是非とも劇場で鑑賞していただきたい。(英語字幕あり)

