文・知る花
2020年9月、西ジャワ州チカランで、密造酒を飲んだ日本人男性が死亡した。インドネシアで言う「密造酒」とは一体何で、なぜ死亡するに至るのだろうか?
ミラスって何?
インドネシア語で「密造の合成酒」のことを「minuman keras oplosan」と言う。「minuman keras」(強い飲み物、すなわちアルコール飲料)」は「miras」という短縮形で呼ばれることが多い。「oplosan」とは「混ぜ物をしたもの」という意味で、「minuman keras oplosan」は、「混ぜ物をしたアルコール飲料」となる。日本語の「密造酒」という言葉でイメージされる「どぶろく」的な自家製酒、ヤシの樹液から作るトゥアックやトゥアックを蒸留させたアラックとは異なる種類の「合成酒」だ。
さて、このミラス・オプロサン(以下、ミラス)。「miras」と「tewas(死亡)」でグーグル検索すると、ヒット件数はなんと301万件。海外の事件も混じっているとはいえ、インドネシアでのミラス死亡例の多さには今さらながらに唖然とする。最近の事例だけでも、「タンゲランでミラスを飲んで5人死亡」(2020年8月)、「デポックで2人死亡」(同7月)、「東ジャワ・ブリタルでミラス・パーティー、8人死亡」(同5月)など、続々と出て来る。警察による密造業者摘発も枚挙にいとまがない。
命にかかわる危ない酒、ミラス。インドネシア人は一体どういう状況で、ミラスを飲むのだろうか? 酒飲みが「酒が飲みたくて飲みたくて、毎晩、寝酒する」というようなケースは少ないようだ。ニュースの見出しに「pesta miras(ミラス・パーティー)」が目に付くように、若者らによる「酒盛りパーティー」が多い。
あるミラス・パーティー
最近起きた、タンゲランの事件を見てみよう。8月22日(土)夜、タンゲランのルコで「ミラス・パーティー」が開かれ、男女約20人が集まった。その前に別の場所で、芋を発酵させて作った酒(ciu)に虫よけローションやスピリットを自分たちで混ぜて飲んでいたところ、「(騒音が)うるさい」と住民に追い払われたので、このルコに移動して、パーティーを続行した。
逮捕された酒の売人(37)の供述によると、8月23日(日)に日付が変わったころ、パーティーに参加していた一人から「芋酒(ciu)を持って来てくれ」と電話があった。
「『兄さん、(酒が)足りないよ』と言われ、『もう遅いんだから、ちょっと待ってよ』と言いました。深夜0時ごろでした」
売人は、2.5リットル入りのポリタンクに芋酒(ciu)を入れ、このルコに配達した。
「そこに着いたら、コカコーラが買ってありました。私は皆の前で、持って来た酒をコーラと混ぜました。その後で、彼らはそれを大きいボトルに移し替えていました。それから私も一緒になって(コーラ割り酒を)飲みました。シンナーを持って来た人もいて、それを燃やして吸っていました。私は2巡したところで意識がなくなり、目が覚めたのは24日(月)の朝でした。もう誰もいませんでした」
約20人の参加者はそれぞれの家や友達の家などに帰宅し、23日夜に女性1人、24日に男性4人が亡くなった。症状は腹痛、嘔吐、胸の痛みなどで、女性は腹痛を訴えて転がり込んだ友人宅で亡くなり、ほかの4人は救急搬送された先の病院で亡くなった。「遺体の顔は真っ青だった」という証言もある。
5月のブリタルの事件では、会社の同僚らが集まり、5月2日(土)午後4時半ごろから翌3日(日)夜まで、2日間にわたってミラス・パーティーを開いた。翌日の4日(月)、参加者が次々に病院に運ばれ、親子2人を含む計8人が死亡した。飲んでいたミラスは「arak jowo(arjo)」と呼ばれるもので、近所の売人から買い、「サプリメント飲料」と混ぜて飲んでいたという。
井戸水から虫よけローションまで
タンゲランのミラス・パーティーで飲まれた芋酒(ciu)は、ミラス・オプロサンを作るのにポピュラーな酒だ。芋酒自体はジャワの伝統的な酒だが、売人がアルコール度数を高めたり量を増やすために、混ぜ物をすることが多い。一方、ブリタルのarjoは糖液を蒸留させて作る、アルコール度数の高い伝統酒だ。
いずれも酒そのものは伝統酒だが、そこに化学製品を混入するので危険になる。「密造酒+」だ。業者が「+」する場合と、飲む本人が「+」する場合がある。呼び名はもちろん、「混ぜ物をした酒、オプロサン」ではなく「ciu」や「arjo」なので、業者が「+」しているとは知らず、普通の芋酒や蒸留酒だと思って、買って飲むケースもあるだろう。
業者による混入物は水から風味付けのキノコまでいろいろ。業者によっては「酒を仕入れて、それを『水増し』していた。ガロン入り飲料水だけだと本物のような透明にならないので、井戸水も混ぜて濾過していた」と供述している。「怖いから、知り合いにだけ売っていた」と、この業者。「知人から買った」というのが安全の保証ではないことがわかる。
なぜ、この危険なミラスを飲むのか、というと、「安いから」、「費用対効果」。現在の相場は1.5リットル5万ルピアほど(2020年9月に逮捕された売人の売値)。ミラスはコップ1杯で酔いが回るという。さらに効果を高めるために、自分で頭痛薬などを一緒に飲んだり、栄養ドリンクで割ったりする。パウチタイプでよく見かける虫よけローションを混ぜるのもポピュラーだ。
「安く酔うため」、その上に、若者の「危険な遊び」的な要素が加わる。日本の「イッキ」にも似た、どんどんアルコール度数を上げていって飲むチャレンジもあるそうだ。
バリ焼酎を飲もう
今回亡くなった日本人の方がなぜミラスに手を出したのかはわからない。「(混ぜ物のない)普通の自家製酒」だと思っていたのか、日本からの出張者が減って酒の入手が難しくなっていたのか、「安かった」からなのか、「知人から入手したから大丈夫」と思ったのか。
ジャカルタの酒飲みで知られる名取敬さんは「僕ほどの酒狂いでも納税シールのないものは怖くて飲めません。密造酒での死亡事件は僕がインドネシアに来てから数年ごとに繰り返し起きるので、とても怖い。ビビりながらだと気持ちよく酔っぱらえません」と言う。
「納税シールが貼ってあれば、まぁ大丈夫だと思うけど、シールの偽造まで考えると……(確実に大丈夫だとは言えない)。あとは、売っている場所でしょうか。全国チェーンのスーパーなどなら大丈夫だと思います。店で出される場合、ボトルキープしなければグラスで出されたりするので、まずわからないですよね。ジャカルタの日系の店なら大丈夫かと思います」
名取さんお薦めのバリ焼酎は、1本25万〜27万ルピア。輸入品に比べると手ごろな値段だ。下記記事をご参照ください。安全な飲酒生活を送りましょう。

バリ産焼酎の注文方法
Ibu AYA(0818-34-7080)にホワッツアップ(WA)かSMSで注文する。日本語OK。料金は1ケース(12本)だと1本25万ルピア(バラだと27万ルピア)。焼酎のほかにコーヒー風味、ウーロン風味、アールグレイ風味があり、それぞれ750mlで25万ルピア。料金のほかに梱包・送料(2020年1月に注文した時は、ジャカルタまで1ケース20万ルピア弱)がかかる。
https://id.berita.yahoo.com/kronologi-tewasnya-5-warga-tangerang-031136560.html
https://id.wikipedia.org/wiki/Ciu
https://nasional.kompas.com/read/2018/04/14/09180541/mengapa-miras-oplosan-diminati