職を失い社宅を退去させられた後でも傍らのスマホにはどんどんニュースが入ってくる。感染症で亡くなったとされる人の搬送・埋葬を前に家族らが病院を襲い遺体を強奪するといった話だ。幸いジョグジャカルタは落ち着いている。大規模社会規制(PSBB)に類するものも実施されていないので主に屋外の観光施設が賑やかだ。これらは賑わうと地元政府に通報されいったん閉鎖か検査となる。その後はやたら注意書きの看板やマスク・フェイスシールド姿のスタッフが増えて再開、次に、その間に賑わっていた他の施設が閉鎖……というお決まりのサイクルを続けている。
そうした中のいくつかに行ってみたのでご紹介。まずは南部バントゥル県のイモギリ、スリハルジョにあるスリクミヌッ(Srikeminut)地域。オパク川の支流のオヨ(Oyo)川の上流にある河川敷の一帯で、泳がなくても河原で水を眺めると良い気分転換に。周辺は数年前に世界遺産ウォークのコースに含まれたこともあり、いかにもイモギリらしい山河を堪能できる。子供が多くリラックスしているためか周辺はマスクを外している人も多いので十分な距離をとって。
次に西部クロンプロゴ県、ムノレ丘陵の一角にあるスロロヨ峰(Puncak Suroloyo)。周辺は古来、王族などの瞑想の場として知られる存在だったが、最近は地元で採れるコーヒーを出すカフェが増えている。素朴なジャワ料理も魅力。
ただ、ご来訪の際の運転にはご注意を。2速でも厳しい坂で発進停止、対向車とのすれ違い(離合)が難しい区間、ミラーのない急カーブが連続のいわゆる「酷道」。標高の高いところの多くは丘陵の峰が道(中部ジャワとの州境)になっているので左右が崖となり、雄大な風景を前に緊張が続く。平日に行く、昼食の時間帯を避ける、など工夫を。
さて、そうした観光施設では必ずと言って良いほど大音量でダンドゥットやインドネシアンポップスがかかっている。多くの日本人にとってはリラックスどころではないのだがなぜなのか?
以前の取引先ホテルとの仕事で「出される食事の量が多すぎる。残してしまう。もったいない」という苦情をもらうことが多かった。周辺のジャワ人と話したところ「少ない……となったとき恥ずかしい」という理由に至った。食べ切れないと思われる量を出し、残してもらう。これなら接待する相手が「十分いただいた」、こちらのWelcomeの意は伝わったという証拠になり、誰もが恥をかかず幸福な気分。穏やかな時間が途切れることがない。言葉に出すのは野暮。多い(大い)が良し。よって冷房もギンギンに、芳香剤もプンプンに、音楽もガンガンに……なのである。「モッタイナイ」と対立する文化があると思う。
多いが良しとは言っても、マスクをつけろ、ああしろこうしろと言った注意書きが増えるのは景観にとっても美しくない。言われなくても行動してほしいものだが、屋外の観光施設となるとマスクをつける人が減ってしまうのは困ったものだ。今回の事態を機にマスクをつける習慣がより広まってほしい。感染症に罹ってしまっては大切な時間が奪われる。モッタイナイ。
高野洋一(たかの・よういち)
福島県生まれ。ジョグジャカルタ在住。Youtube〜インドネシア現地からいろいろチャンネル〜運営。