目次
お薦めする人 本名純
岡本正明『暴力と適応の政治学〜インドネシア民主化と地方政治の安定』(京都大学学術出版会、2015)
「お笑い」(?)を交えながら、スリリングな地方政治の実態を描く。
僕がオススメしたい本は5冊あります。すべて「インドネシアの今」を理解するのにとても役立つ本だと思っています。皆さんも是非、読んでみてください。
まず1冊目は政治についての本。政治というと、首都ジャカルタを舞台にして、大統領や国会が国の行方を決めていくというイメージが強いですが、地方の政治については、日本ではよく知られていません。でも、インドネシアは地方分権化が進み、これからますます地方の行方が重要になり、私たちもその理解を深めていくことが大事になります。そんな時代の必読書が、岡本正明著『暴力と適応の政治学〜インドネシア民主化と地方政治の安定』です。
ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領は、ソロ市長として政治の世界に足を踏み入れた人です。今、どういう人たちが地方の政治で台頭しているのか。地方分権化時代の地方政治で何が起きているか。「お笑い」(?)を交えながら、スリリングな地方政治の実態を描く本書は、僕のオススメの1冊です。
見市建『新興大国インドネシアの宗教市場と政治』(NTT出版、2014)
インターネットやSNSの時代に、インドネシアのイスラムがどう変容しようとしているのか。
続いて、「インドネシアの今」を理解するのに欠かせないのがイスラムです。
先のジャカルタ州知事選挙では、イスラム保守勢力が、アホック前知事の再選を反対する大規模な運動を先導しました。ここ数年、ジャカルタのテロ事件も注目を浴びています。今、インドネシアのイスラムに何が起きているのか——その理解に欠かせないのが、見市建著『新興大国インドネシアの宗教市場と政治』です。インターネットやSNSの時代に、インドネシアのイスラムがどう変容しようとしているのかを一般読者にわかりやすく説明する良書です。
貞好康志『華人のインドネシア現代史〜はるかな国民統合への夢』(木犀社、2016)
今、世界的に中国の台頭が顕著で、それと連動するようにインドネシアの華人ビジネスも展開を新たにしています。
同じく「インドネシアの今」を考える上で重要なのが華人です。これはアホック氏が華人だということに限らず、もっと広い視野で見ると、今、世界的に中国の台頭が顕著で、それと連動するようにインドネシアの華人ビジネスも展開を新たにしています。
華人の存在は、インドネシアの未来にとってどのような意味があるのでしょうか。その問いに対し、歴史的に答えを導いてくれるのが貞好康志著『華人のインドネシア現代史〜はるかな国民統合への夢』です。植民地時代からの苦闘、そして民主化時代への期待という、インドネシアにおける華人の立ち位置を歴史に振り返って理解することで、「アホック問題」の背景や重要性がよりはっきりと浮き彫りになるはずです。本書はその手引となる1冊です。
奥島美夏編著『日本のインドネシア人社会〜国際移動と共生の課題』(明石書店、2009)
極めて多様な側面から日本に住むインドネシアの人たちの姿に迫る。
さて、「インドネシアの今」は、国境を越えた視点も欠かせません。特に私たちにとって、日本とのつながりは関心のあるところです。では、日本に住むインドネシアの人たちのことを、私たちはどれだけ知っているのでしょうか。
近年、日本に来るインドネシアの人たちは増えているし、その目的も多様化しています。彼らは、どのように日本で暮らし、どんな日本を発見しているのでしょうか。とても興味深いと思いませんか。そんな好奇心を満たしてくれるのが、奥島美夏編著『日本のインドネシア人社会〜国際移動と共生の課題』です。勉強、仕事、結婚、子育て、コミュニティー形成などなど、極めて多様な側面から日本に住むインドネシアの人たちの姿に迫る本書は、日イ関係の今後を市民レベルで考える視座を提供してくれます。
インドネシアに住む日本人の立場で、日本に住むインドネシア人のことを考えてみるというのは、実は限られた人にしか与えられない貴重な機会だと思います。是非、本書をオススメいたします。
小笠原和生『デスメタルインドネシア〜世界第2位のブルータル・デスメタル大国』(合同会社パブリブ、2016)
インパクトあり過ぎで泣けてくる。
最後の1冊は、もうインパクトあり過ぎで泣けてくるほど強烈なマニア本です。その名も『デスメタルインドネシア〜世界第2位のブルータル・デスメタル大国』(小笠原和生著)。恐らく、何を言っているかわからない人もいるかもしれません。スミマセン!
この本は、インドネシア全土のローカル・ライブハウスで活躍するヘビーメタル・バンド(その中でもコワモテ系のデスメタルというジャンルに特化)を詳細に紹介する本です。ジョコウィ大統領がヘビメタ好きなのは有名ですが、この国の裾野に広がるヘビメタバンドの数は半端じゃありません。デスメタルのタイプも非常に多彩で、クリエイティブなパフォーマンスを競っています。
インドネシアの音楽というとダンドゥットを真っ先に思い浮かべる人も多いかと思いますが、いつかそれがヘビメタに取って代わる日も近いかもしれません。それはちょっと大げさかもしれませんが(^_^;)、そう思わせるほど熱のこもった本書を世に出した著者に敬服。
本名純(ほんな・じゅん)
立命館大学教授。インドネシア政治専門。著書に『民主化のパラドックス〜インドネシアにみるアジア政治の深層』他。