ジャカルタの古い街並みと言えば、ぱっと思い浮かぶのは、オランダ植民時代の「ファタヒラ広場」などがあるコタ。
しかし、そこまで北へ行かなくても、中央ジャカルタにも古い建物は数多く残っている。
そのうちの一つが、昨年に改装してクリエイティブ・スペースとしてオープンした「ポス・ブロック」だ。
「ブロック」ってなに?
「ブロック(bloc)」とは、「古い建物を再利用した、クリエイターたちによる街づくり」がコンセプト。ブロックMに出来た「エム・ブロック(m bloc)」で注目を集めた。ジャカルタ外の都市にも広がりを見せているが、ジャカルタでの2件目は「ポス・ブロック(Pos Bloc)」だ。
インドネシア語の「pos(ポス)」は英語のポスト、つまり「郵便」のこと。中央ジャカルタのパサールバル地区に、オランダ植民地政府が1860年代に建てた郵便局がある。大きな半円形をした正面の窓は壮麗なステンドガラスで飾られ、内部は天井がとても高い体育館のようだ。エアコンはないが、空間が広いからか、涼しく感じる。ここは郵便局の窓口として使われており、裏手には郵便物の集積倉庫があった。
インターネットとクーリエの発達で、最近では郵便物を出す人が激減。使われなくなった建物を再利用しようと、「ブロック」仕掛け人らが郵便局側と協議し、窓口だった建物を改装して2021年10月にオープンした。現在は、奥の倉庫を改装中で、そこが開けば、全部で7000平方メートルという広大なスペースになる。今年のインドネシア独立記念日である2022年8月17日のオープンを目指している。
南ジャカルタの「エム・ブロック」が飲食店中心なのに対し、ポス・ブロックはリテール(物品販売)中心だ。入居しているのはまだ15店ほどだが、その中でのお薦めは、入口を入って右手、「大家」でもある郵便局の隣に店を構える小さなビンテージショップ、「フィア・バタ・フィア(Via Bata Via)」。
店内にはLPレコードがかかり、古いラジオやテレビ、鉄のアイロン、ミニピアノ、ランプ、ガラス瓶、看板といった雑多な品物がセンス良く配置されている。古い家にタイムスリップしたよう。
東京駅の「KITTE」もヒントに
この店のオーナーは、「ブロック」仕掛け人の一人でもあるエドガー・ホンゴさん(35)。2010年から7年間、銀行員として日本で働いていた。「インドネシアではどんどん新しい物を作ってインフラ開発しているが、土地の限られた日本では、古い物を大切に、リノベートして使っている」ということに刺激を受けた。毎日の出勤では東京駅を通っていたため、旧東京中央郵便局をモールへと改装した「KITTE(キッテ)」も「ポス・ブロック」のヒントになったと言う。
「アンティークが好きなのは『誰が持っていた』とか『どこで作られた』とか、一個一個の物にストーリーがあるからです。また、マニュアルで作った物が多いから、『アート』ですね」とエドガーさん。
アンティーク品の仕入れは、自ら車を運転して、ジャワ島内の都市であるバンドン、スマラン、ジョグジャカルタ、ソロなどへと出かけて行く。SNSで連絡をくれた人の家へ行ったり、パサール(市場)に足を運び、めぼしい物を探す。店内にある品は1970〜80年代の物が多く、インドネシアの物も外国の物もある。店で一番古い品物は、1920年代の手紙入れだ。よく売れるのはガラス瓶と、お手頃価格の商品ラベル(3万ルピアぐらい〜)。
店頭で、1960年代のソーダを復刻したジュースを販売している。「アンティークは見ただけではわからない。アンティークとは会話です」とエドガーさん。それほど暑くないとは言っても、エアコンなしの場。乾いた喉を潤しながら「これは何? どこで作られたの?」といった会話をできる、という趣向だ。
物を通して、インドネシアの文化が学べる
エドガー・ホンゴ
中央ジャカルタには古い建物が多く集まっており、ポス・ブロックの裏にはジャカルタ芸術劇場、近くに、伝統市場のパサールバル、大統領官邸のような外観が印象的なイマヌエル教会などがある。エドガーさんはこの地域での「ビンテージ・ツアー」も実施している。
ジャカルタの「ふるきをたずねる」旅、ポス・ブロックから出発してみよう。