Home Sweet Loan
「ジャカルタで自分の家を持つ」! 夢に向かって頑張る女性に、大家族の依存がのしかかる。主人公はどんな結論を出すのか、結末が気になってしまう。洪水、騒音、それに……ジャカルタの「家探しあるある」も面白い。
文と写真・横山裕一
「自分の家を持って快適な暮らしがしたい」。煩わしい家族環境に耐えながらも夢である自立を目指して努力を続けるオフィスレディの奮闘と、その一方で親を想う心情の揺らぎを綴った作品。2010年代以降のジャカルタ首都圏などでの地価高騰に伴う大衆の住宅事情も垣間見える。
主人公は会社で総務を担当する若い女性カルナ。社員の雑用を一手に引き受けるため一人残業することも多いが、彼女には大きな目標があった。「頑張って自分の家を購入して自立したい」。狭い自宅では両親と2人の姉夫婦、さらにその子供たちの合わせて9人が同居する。2人の姉は家事も手伝わず、カルナと母親に任せっきり。また、姉の夫らは会社の倒産後何年も再就職しようとせずに昼間からテレビゲームをする体たらくで、生活費はカルナが一手に引き受けていた。さらにカルナが子供の頃から使っていた自分の部屋が姉の子供用に取られてしまい、離れのお手伝いさん用の狭い部屋に追いやられてしまう。
そんなカルナに朗報が入る。会社で住宅購入用のローンを組める制度ができたのだ。コツコツと貯めた貯金を元に自分の家を買う機会が訪れた。折しも、とても気に入った物件が見つかる。しかし、いよいよ夢の実現が近づいたある日、姉夫婦が土地購入に絡んで詐欺にあったことが発覚する。騙し取られた金は父親の退職金と、金融業者からの借金だった。父親の退職金はカルナの結婚費用でもあった。挙げ句の果てに、姉夫婦がカルナの貯金を借金返済のあてにしようとする。さすがのカルナも堪忍袋の尾が切れ、カルナは家を飛び出してしまう……。
作品では家族の結束が現代でも強く残り、家族内で助け合うインドネシア的な大家族制度の一方で、まれにそれに甘えて何でも親や兄弟に依存してしまいがちなこともある負の面が強調されている。主人公にとっては過酷な状況の中、そこから脱しようと努力するものの、紆余曲折あり、改めて家族について考えるカルナの心理状況の変化が好感を持って描かれている。
深刻になりがちな内容の一方で、作品では巧みにコメディタッチを含めて描かれている点は救いでもある。カルナが同僚とともにまわる新居探しもその一つで、いい物件だと思ったら隣家の声が筒抜けだったりと、住宅探しあるあるも面白い。物件の近所の人に、大雨で洪水になりやすい地域か確認するシーンもジャカルタならではだ。
余談ながら、カルナが残業するのを表す意図で夜7時を指す時計が映し出されるシーンがある。日本の映画やドラマの同シーンでは夜11時や深夜0時などだろう。ここからもエコノミック・アニマルとかワーカーホリックなどと揶揄された経験を経てきた日本人と、経済成長後まだ10年余りのインドネシア人との残業に対する感覚の差があって、是非は別として興味深い。
監督はサブリナ・ロシェル・カランギ監督。2022年作品の「結婚生活の赤い点」(Noktah Merah Perkawinan)では夫婦の倦怠期を描いたように、今作品も含めて最近は家族の絆をテーマにして、女性監督らしく特に女性の心情を巧みに描き出している。
逆境にも負けず夢に向けて奮闘する姿や、逃れようとした家族ながら両親を想う人情など、夢を持って頑張って生きる女性に是非観ていただきたい作品でもある。終盤、主人公が夢を諦めかけた時の心情を描くシーンで流れる、マウディ・アユンダの曲「ジャカルタの喧騒」(Jakarta Ramai)が曲調、歌詞ともに非常にマッチしているところも見逃せない。

