「愛しのマック」 インドネシアで最強、ホラーと笑いの組み合わせ ヒットしたタイ映画のリメイク 【インドネシア映画倶楽部】第77回

「愛しのマック」 インドネシアで最強、ホラーと笑いの組み合わせ ヒットしたタイ映画のリメイク 【インドネシア映画倶楽部】第77回

Kang Mak from Pee Mak

コメディーホラーの快進撃が続いている。こちらはタイのヒット映画のインドネシア・リメイク。戦地へ行っていたマックが仲間4人と自宅へ戻ると、愛妻が赤子を抱いて迎える。しかし、何かが変……。ホラー要素はあるものの完全にコメディーで、ホラーが苦手な人でも安心して楽しめる。

文と写真・横山裕一

 タイのヒット映画で日本でも公開された映画「愛しのゴースト」(原題「Pee Mak」、2013年作品)のインドネシア・リメイク版。実力派コメディ俳優が脇を固め、大いに笑え、最後にはしんみりともさせるコメディホラーである。タイトルの「Kang」は西ジャワ州を中心にしたスンダ民族の言語、スンダ語で「お兄さん」という意味で、恋人や夫など愛する人に対しても使用される。ジャワ語でいえば、「マス」(Mas)と同じである。

 物語は、国軍兵士のマクムル(マック)が身重の愛妻を自宅に残して戦地に向かうところから始まる。生死を共にした仲間4人と自宅に戻ると、愛妻サリが赤子を抱いて迎える。戦地からの帰還と妻との再会、子供の誕生を喜ぶマック、それを見て喜ぶ仲間たち。しかし、マック家に滞在中、仲間たちは不思議な出来事に遭遇し始める。集落の住民が怯える姿もいぶかしい。やがて仲間4人は、マックの留守中に、実は妻のサリがすでに死んでいたことを知ってしまう……。

 タイのオリジナル作品を観ていないので、インドネシア・リメイク版の独自性や相違点などはわからないが、主人公マックの兵士仲間役を演じるコメディ俳優の大御所ともいえる、インドロ・ワルコップやトラ・スディロ、それに若手のコメディ俳優による、これぞインドネシア・コメディといったドタバタな笑いが終始展開する。コメディホラー作品と銘打たれているが、本作品は霊の世界を題材にしただけのコメディ作品といってもよく、ホラーが苦手な方でも安心して鑑賞できる。

 2024年は2月公開の「他とは違う」(Agak Laen)が観客動員910万人を超える大ヒットをして以来、コメディホラー作品が多数公開されている。本稿でも紹介した、7月公開の「5人の登山者たち」(Sekawan Limo)、8月公開の「父の官舎」(Rumah Dinas Bapak)などがあるが、それぞれに作風が異なっている。「5人の登山者たち」はコメディ色が強いかと思いきや、実はホラー作品だったと最後に思わせる作品である一方、「父の官舎」は全体的にホラー調の流れの中ながらもくすくすと笑える作品だった。本作品「愛しのマック」は「他とは違う」と同じく、ホラー要素を舞台にした完全なコメディ作品といえそうだ。

 また、本作品では最後にホロリとさせるシーンもある。物語の流れからおそらくタイ・オリジナル作品を踏襲していると思われるが、韓国映画によくある展開のようでもある。韓流映画ブームの影響を受けて、近年、タイ、インドネシア映画を含めて、アジア各国ではシナリオを練り込んだ作品が多く生まれる傾向にあるようだ。

 筆者が今回鑑賞したシネコンでは、4スクリーンのうち、3つまでが「愛しのマック」を上映していて、今後ロングランヒットする可能性がありそうだ。映画チケットの販売担当者が「インドネシアの人はホラーと笑いが好きですから」と話していたようにインドネシアではホラー映画とコメディ映画が人気の定番で、その両者が組み合わされたコメディホラー映画は最強なのかもしれない。是非、劇場で笑っていただきたい。(英語字幕なし)

4スクリーン中、3スクリーンで上映
4スクリーン中、3スクリーンで上映と、ほぼ映画館独占の人気ぶり
劇場には立体ポップまで登場
劇場には立体ポップまで登場
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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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