文・写真…湯浅雅史

 琵琶湖を一周する「ビワイチ」、淡路島一周の「アワイチ」と、とにかく何でも一周しないと気が済まないのが自転車乗りの習性。「ジャカルタ自転車部」の活動を通じて知り合ったMさんと私は、バリ島を自転車で一周するツアーにチャレンジすることにした。バリ島一周なので「バリイチ」と勝手に名付けた。

 自転車は「ロードバイク」。ジャカルタに赴任してからは、運転手付きの車が付き、移動は車かタクシーが基本。これが面白くなく、毎週末、自転車に乗って路地を走り回るようになった。ジャカルタでも流行り出したロードバイクに興味がわいて、ビアンキの入門用ロードを買ったところ、その軽快さとスピードに驚き、行動範囲はさらに広がることになった。

 ロードバイクの楽しさは、元々の体力はないのに、ペダルを踏むとスピードが出て、景色が流れ始めるところ。スーパーマンにでもなったような、異次元の加速だ。それがエンジンではなくて自分の体だということが、ゾクゾクっとして、楽しい。毎週末、「明日は自転車に乗れる」と思うとワクワクして、「早く寝なきゃ」と、遠足前の子供のようになる。

 バリ島は海岸線を一周すると約400キロ。地図を見るとアップダウンが多い地形のようなので、1日100キロに抑えて、4日で回る計画とした。目的は「島一周」なので、観光名所に寄る計画ははなからない。と言うか、海岸線を走ると、ほとんど観光名所には近寄らないのだ。きれいな景色を見ながら南国・バリ島を肌で感じて一周する、それが唯一の目標である。自転車は、距離感や土地を体で感じられるのが魅力だ。さて、ビワイチの倍の距離があるバリイチでは、一体、どんな景色が見られるんだろう!

バリ島へ!
 バリ島までは、ロードバイクを軽く分解してから専用のバッグに詰めて、ガルーダ航空のカウンターにチェックイン。同航空は「自転車運搬は無料」がうたい文句だ。無料とは言え、重さや大きさに制限があるのだが、カウンターでは、ただ「自転車ですね?」と聞かれただけで、特に測ったりもせず、あっさり預け入れ完了。バリのデンパサール空港では、どこで自転車を受け取るのだろう?と少し不安だったが、これまたあっさり、通常の手荷物受取コンベアに乗って、でっかい自転車バッグが出て来た。

 このバッグは、初日と最終日に宿泊するクタのホテルに預かってもらい、最小限の荷物だけ持って島を回る。バッグを預ける時、「自転車でバリ島を一周して、また戻って来るから」と説明したら、そんな無茶な……というような、とても心配そうな顔をされた。イヤイヤイヤ、ちゃんと戻って来ますからね!

 

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海風を感じながら滑るように走る
 普段、走行予定ルートの事前確認にはグーグルマップスのストリートビューをよく使う。実際に道路を走らせたカメラ映像で確認できるので便利なのだが、なんと、バリ島の北部はほとんどストリートビューがない! 地図と衛星写真しかないので、詳細が不明だ。田んぼのあぜ道みたいな所や、牛がポクポク歩くような地道もあるのでは?と多少の悪路は覚悟していた。ところが、実際は、全行程、きれいに舗装された快適道路で、見事に予想を覆された。ジャカルタのまばたきも許されない穴ボコ道とは雲泥の差だ。道がキレイだと景色を見る余裕が生まれる。初日のクタ市街地を抜けて、峠から海岸線に下る山道。左右が見事な棚田、道路の遥か先には水平線が見えた時、思わずMさんと「来て良かったぁ~!」と声がハモった。

 特に印象深かったのは、北部海岸線の道路。透明度の高く、波一つない穏やかな海を、流れる街路樹の間からフラッシュカットのような映像で楽しめる。自転車ならではの景色にテンション上昇。海風を感じながら滑るように快適に走れる、ロードバイクのためのような道だった。

 初日は、70キロも走っていないのに、もう足がつり出した。ヌガラに到着したころは歩くのもフラフラに。ホテルで半身浴して回復を試みたが、足がつって浴槽から立てない始末。情けない。

 2日目も、時々現れるきつい坂に、50キロも走ると、もう足がヤバくなってきた。Mさんはグイグイ上って行くが、私は、時々つりそうになる足をごまかしながら、インナーロー(最も遅いギア)でクルクルゆっくり上る。やっと上った峠の茶店で休憩中、Mさんが「今日は坂がなくて良かったねぇ〜」と意味不明の発言。エエえ〜? 私の認識では現在地は「峠」なのだが、彼にとって、この峠は平地らしい。一緒に走ってはいけない人だったことを知る。どうしよう、これから? それでも、景色に癒やされ、なんとか走り切る。

 3日目、サドルバッグの重さにも慣れ、軽くダンシング(立ちこぎ)もできるようになってきた。ところが、宿の一歩手前で峠の連発! 今日は足を残せるわ、と思っていたのに、最後の最後で足を使い切る(パワーが出なくなること)。

 4日目のルートは、事前にマップソフトで確認したら、獲得標高1600メートルの峠。激坂に泣く夢で目覚める。

 前日に習得したダンシングとインナーローで、いざ、最後の難関へ! 上っては下り、を繰り返すが、坂を上り切ると、目の前に大きく広がる海が現れ、絶景に、息が切れていることも忘れる。なんてステキなんだ! 意外にあっさりと、約40キロで峠を脱出した。後で確認すると獲得標高は750メートルしかなかった。マップソフトは高度が多めに出るようで、ビビッて損した。

 そこからは、交通量が増える市街地へ。暑さでバテながら、出発地点のクタのホテルに戻った時は、バリイチを走破した充実感と達成感で大満足!

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バリイチはロードバイクの穴場コース
 バリ島の南・中部は、人も車も多く、物価も高くてジャカルタとあまり変わらない。対して北部は、海風に揺れるヤシの木も、漁船も、道端で熟睡する犬も、うたた寝しながら店番をする子供も、すべてがゆったりと落ち着いていた。この空気は車やバイクに乗っていてはわかりません。歩くのでは景色の変化が遅すぎて、全体像がつかみにくい。自転車だから見える景色ってのが、あるんですよ!

 以前に妻とバリ島を訪れた時、指定されたレストランで食べるパッケージ旅行だったせいか、どこで食べてもおいしくなかった。ところが今回、どのレストランもハズレがなかった。すると湧いてくる疑問は、なぜ妻と来た時に食べた料理はおいしくなかったのか?だが、これは、ペダルをこいで、腹ペコになっている効果が大きい。これも、自転車だから味わえるおいしさ、ってのがあるんですよ!

 走行距離とアップダウンの多さを考えると、自転車はロードバイクでないと、バリ島一周は少しきついと思う。

 Mさんと私は同年代なのでそんなに差がなくて安心、と思っていたが、Mさんは日本国内で数々の自転車レースに出場した経歴を持つ、生粋のアスリートだった。51歳で初めてロードバイクに乗った私とは、チーターと子猫ぐらいの差があったが、優しいMさんは私のペースに合わせてくれて、なんとか走り切ることができた。

 意外だったのは、私たちと同じように自転車で旅をしている人は一度も見なかったこと。南部ではロードバイク数台を見たが、荷物を持っていなかったので、ホテルから往復するようだった。つまり、北部へは行っていないと思う。

 バリ島はロードバイクのためにあるような島だ。南国の景色に、走り易い路面。子供たちの声援を受け、解放感全開で走り抜ける爽快さ。「バリイチ」はロードバイクの穴場コースだと断言します!

 

バリイチ
ルート徹底解説!

ミラグロ
ジャカルタの街を走り抜ける

 

d-8湯浅雅史(ゆあさ・まさし)
子供のころから自転車が好きで、2010年に赴任したジャカルタでも自転車に乗り始めて「路地裏ポタリング」にはまる。2012年にロードバイクを購入し、「ジャカルタ自転車部」に入部。同部の広報担当。55歳。