前回の「編集長日記」で、「ただひたすら演技を鑑賞して、『す・ご・い』『す・ご・い』と、シャーペンをカチカチやるように心の中で言い続けているだけ」と書いたが、その窪田君「す・ご・い」のシーンを、一部、切り取ってみようと思う。個人的に「特に好きなシーン」と言ってもいい。(注:未見の方へ。ネタバレあります)

 

「最高の離婚」第3話、星野結夏(尾野真千子)と初島淳之介(窪田正孝)が合コンで出会うシーン。淳之介が食後のデザートを決める。

女の子たち「デザート食べたい」
淳之介「選んどいた、選んどいた。ガトーショコラのアイス和えとかどう? 星野さん、草餅ありますよ。サキちゃんはねぇ、ブドウのムースとかどう? いいでしょうー、ははは。星野さん、蕨餅ありますよ」

hanako_06_tomoko_01
 このシーンで話しているのはほぼ窪田君だけで、窪田君が1人でこのシーンを仕切っているようなものだ。その絶妙なせりふの間合い、テンポには、舌を巻いた。ほかの女の子たちにはおしゃれなデザートをノリ良く勧めつつ、ふと横を向いて、結夏に「草餅」だの、「蕨餅」だのを勧める。めちゃくちゃおかしい。

 淳之介は、瑛太演じる「光生」とは対照的で、難しく考えるタイプではなく、真っ直ぐな若者。餃子を包むのが上手だと結夏にほめられ、「日本一うまいって言われるんですよー」と適当なことを言って、細かい光生がイライラするシーンもおかしかった。

 ここのせりふだけを見ると、合コンの場で1人だけ年長者である結夏への「嫌み」にしか聞こえないが、最終的に結夏に結婚を申し込むに至るのだから、この時も真っ直ぐ言っているだけで「悪意があるわけではない」ということを、見ている人にわからせないといけない。むしろ、「草餅」だの「蕨餅」だの言うのは、「結夏を無視しない」という淳之介の思いやりなのかもしれない、と思わせる。

 わずか15秒ぐらいのシーンなのだが、2人の出会いの非常に重要な導入部であり、嫌みなく、コミカルに演じるのは難しいと思う。窪田君「ス・ゴ・イ」の1シーン。

 結夏の家に上がり込んで光生のパジャマを着て寝ていて、光生の母、亜以子(八千草薫)に発見されるシーンもケッサクだ。亜以子の後ろに立って、大あくびをする。別のドラマを見ていて、女優が朝起きて「(かわいく)あくびをする振りをする」というシーンに妙に腹が立ったものだ。「適当な『振り』しかできないのなら、別のやり方で寝起きを表現すればいいだろう」と。窪田君の大あくびは完璧にリアルだ。

 窪田君は、最終的には結夏に振られる役で、主役である光生を食ってはならず、振られることも視聴者に納得してもらわないといけない。微妙な役、絶妙な演技だ。

 

「ST 警視庁科学特捜班」第3話、黒崎勇治(窪田正孝)が友人の内藤茂太(石垣佑磨)と「会話」をするシーン。

内藤「公務員ってさぁ、そんなに忙しいわけ?」
黒崎「……」
内藤「あ、じゃあさ、これはやっぱり無理? 来月の舞台」
黒崎「……」
内藤「えっ、来てくれんの?」
黒崎「……」
内藤「ありがとうー! あ、チケット代は大丈夫。招待するから」
黒崎「……」
内藤「払ってくれんの?」
黒崎「……」
内藤「やったー! ありがとう。チケット売った分だけギャラになるんだよ。助かるぜー」

hanako_06_tomoko_02
 これも、おかしい上に、「窪田君『ス・ゴ・イ』」としか言えない。上の台本を見ただけだと、何のことか、どんなシーンなのか、さっぱりわからないだろう。

 「ST」の黒崎は、「人と話さない」という役だ。最初にこの設定を知った時は「窪田君にせりふを言わせないなんて、なんてもったいないことをするんだ」と思った。しかし、例えば上記のシーンで窪田君は一言も発していないにもかからず、補完する友人のせりふがたとえなかったとしても、言いたいことがわかるのだ。黒崎のジェスチャーは大げさなものではなく、うなずいたり、首を振ったり、親指を立てたり、友人の腕をぽんぽんと軽くたたいたり、というぐらいなのに、なぜ伝わるのだろうか? 「演技がうまい」としか言えないのだが、本当にうまいのだ。

 

「臨床犯罪学者 火村英生の推理」第9話、有栖川有栖(窪田正孝)が「シャングリラ十字軍」に拉致され、地下室に監禁されるシーン。「シャングリラ十字軍」指導者の諸星沙奈江(長谷川京子)と対峙する。

有栖「残念やけど、火村はあんたには振り向かへんで」
hanako_06_tomoko_03
 まず、これは、シーンの設定自体が「荒唐無稽」で、「陳腐」と言われても仕方がない。なぜ、指導者の帰還した場に幹部級メンバーが3人しかいないのか?など、突っ込みどころが多い。通常だったら、共感できるどころか、しらけてしまうところだ。しかし、ここに窪田君が入ることによって、「あり得ない」と思っているシチュエーションに一気に引きずり込まれる。演技とは、「虚構」を「現実」に変える力だと思う。この地下室でのシーンは、最初から最後まで、窪田君の演技力で持っている、と言ってもいい。

 諸星と対峙するシーンで、「シャングリラ十字軍がおれに何の用や? 人違いちゃうか?」と軽くいなすようであった有栖が、諸星の狙いは火村英生(斎藤工)だと知る。上のせりふを言う時の、これまでとは違う語調と目の力の強さ。すごみがある。火村との絆の強さ、それは、拉致されたり、自分の命が危険にさらされているという恐怖にも打ち勝つものであることが、この一瞬の有栖に表れていると思う。

 関西弁で飄々とした「アリス」役は、かなり好きだ。

 

「Nのために」第10話、殺人現場でのシーン。

 「Nのために」は、脚本、演出、音楽、役者、すべてが素晴らしい作品だ。中でも、窪田君が実体化させた「成瀬慎司」が光る。演技の素晴らしいシーンは「全部」だ、と言ってしまうが、一例を挙げるとしたら、最終話でようやく明かされる、殺人事件の現場でのシーン。
hanako_06_tomoko_05
 レセプションにいる成瀬君。杉下希美(榮倉奈々)の「助けて……助けて、成瀬君!」という叫びをインターフォンで聞いた時の目の動き、「すぐ行きます」と答えて、レセプションのスタッフに「ここ、開けてください」と言う時の表情。「4803、4803」と部屋番号をつぶやきながら、部屋を探し求めて走って行く姿、ドアを勢い良く引いて開けようとするが、外側からチェーンが掛かっているのを見た時の戸惑い、とにもかくにもチェーンを外し、「杉下!」と叫び、殺人現場の部屋へと入って行く姿。

 警察が来てから、希美に「外からドアチェーンかかっとったこと、警察には言わんで」とささやかれ、希美の安藤望(賀来賢人)に対する思いを知る。部屋を出て行く安藤に目をやり、希美の顔に視線を移した後に見せる、痛みに耐えるかのような表情。

 窪田君「ス・ゴ・イ」の連続だ。

 

「QP」第11話、「情報屋」のエイジ(窪田正孝)がバーで飲んでいるシーン。

エイジ「まぁ、言っても、ハエが止まった所がうんこに変わるんじゃなくて、うんこにハエがたかってくるんだけどね」
hanako_06_tomoko_05
 「エイジ」を評するのが一番難しいかもしれない。成瀬君を真逆に振ったような役で、とらえどころがない。エイジは「沼」だし、窪田君も「沼」だと実感させられる。

 特に好きなのはこのシーンで、エイジはバーでマスターとしゃべっている。灰皿をひっくり返して、たまった吸い殻を捨て、そこになみなみと注いだ酒を少し吹いてから、直接、口を付けて飲む。たばこを手にして、マスターの言葉に、肩を振るわせて笑う。そして、このせりふ。

 せりふだけ見ると「はぁ?!」だろう。こんなせりふを言いながら、チャーミングでいられるのはナゾ。

 

 キリがないのでこのぐらいでやめるが、「窪田君『ス・ゴ・イ』」の具体例の一部をお伝えできれば、と思う。窪田君の演技は、「語りたい」と思わせるものを持っている。

編集長日記

窪田君「ス・ゴ・イ」