今年も「ラマダン」(断食月)が始まります。イスラムの「断食」とは一体、どんなものなのでしょうか。断食をしている人には、どう接したら良いのでしょうか。ラマダンの「リアル」がわかる、「基礎知識とマナー」をまとめました。(注・主にインドネシア・ジャカルタの状況です。時間はジャカルタ時間です。状況は、場所や個人によっても異なります)

【用語集】
ラマダン(Ramadan) イスラム暦の断食月。インドネシア語で「bulan puasa」
レバラン(Lebaran) 断食月明けの大祭。イドゥル・フィトリ(Idul Fitri)とも言う
サフール(sahur) 1日の断食を始める前に取る朝食
ブカ・プアサ(puasa) 1日の断食明け。「ブカ」と略す
タクジル(takjil) 断食明けに取る軽食
目次
ラマダンのやり方は? 日中の飲食を絶つ
イスラム教徒の義務である「年1回、1カ月間の断食」をする「ラマダン」。これを終えると、日本人的に言うと「盆と正月がいっぺんに来た」ような「レバラン」(断食明け大祭)が待っています。レバランを迎える前に心身を清めるのが断食です。
断食では、日の出前から日没まで、飲食をしません。それでは、日の出ギリギリまで飲み食いして良いかと言うと、そんなことはなく、午前4時40分ごろ(今年のジャカルタでの時間)に、1日のうち最初のお祈りとなる「暁の礼拝」(スブ=subuh)をしますので、その10分ほど前から飲食を絶ちます。このため、午前4時半ごろから、午後6時過ぎの日没までの時間(今年のジャカルタの場合=約13時間半)を断食する、ということになります。
午前3時半ごろ、まだ暗いうちに「サフール」と呼ばれる朝食を取ります。その後、日中はずっと断食をして、日没の時間ぴったりに断食明け(ブカ・プアサ)。断食明けの時間は毎日変わり、ジャカルタやスラバヤなどの場所によっても異なります。自分がいる場所の、その日の断食明けの時間はいつなのか、確認しないといけません。
※2025年ラマダン、ジャカルタの断食開始(Imsyak)と断食明け(Maghrib)の時間
https://www.antaranews.com/berita/4676849/jadwal-sholat-selama-bulan-puasa-ramadhan-2025
※ほかの地域の時間を知りたい場合は、「jadwal ramadan/ramadhan 2025 地名」などで検索
断食明けの合図は、モスクから流れて来る「日没の礼拝」(マグリブ)の時間を告げるアザーン(礼拝への呼びかけ)です。テレビやラジオでも必ず、アザーンはライブで流れます。たとえ断食明けの時間がわかっていても、間違いのないように、アザーンを聞いてから断食明けする人が多いです。車中の人は、断食明けの時間が近くなると、ラジオをつけて耳を澄ませています。

1日の断食明けには、まず、水分を取ります。車中などの外にいる場合は、ペットボトルの水。オフィスや家にいる場合は、砂糖入りの甘い紅茶や白湯を用意して、断食明けの時間を待ちます。まずはそれを飲んでから、「タクジル」(takjil)と呼ばれる軽食を取ります。夕方になると、道端にそうした軽食を売る屋台が出て、にぎわいます。
水分と軽食を取ってからお祈りをし、その後で、本格的な夕食を取ります。または、断食明けと夕食を一緒にする場合もあります。

断食するからこそ、サフールも断食明けも非常に重要です。ラマダン中には、モスクで断食明けの食事が無料配布されたり、道端で食事のボックスを通りすがりの車の運転手に渡している人たちもいます。「共に断食する」というイスラム教徒同士の連帯感と助け合い精神が発揮される時期だと言えるでしょう。
ラマダン中は特別に、夜にタラウィ(Tarawih)という礼拝があります。義務ではありませんが、「ラマダンだけの特別」なので、「何が何でもタラウィ優先」という人もいます。断食明けの後で約束しようとして断られたら、それはタラウィに出るためかもしれません。基本的に、夜のアポは取りづらくなるので注意しましょう。

断食はやってみると大変! 最初の1週間は特に配慮する
「朝食は食べるわけだし、夕食もしっかり食べる。日中に飲食をしないだけなら、そんなに難しくないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、そう簡単ではありません。
筆者は以前に断食をやってみましたが、たった1日半で断念しました。初日は、午後3時ごろからずっと、動かない時計の針を見続けていました。喉の渇きは予想していたものの、想像以上にお腹も空きました。じりじりと断食明けの時間を待ち、アザーンと同時にお茶を飲み、チョコレートにかぶりつきました。2日目は、出先でアイスティーを出され、誘惑に負けて手を出して「投了」です。
仕事をしたり、普段通りの生活を送りながら、休みなくぶっ通しで1カ月間、断食を続ける、というのは非常に大変なことです。「断食をしている人にどうやって接したら良いか」ですが、断食をする大変さを知れば、対応は自ずと決まってくるのではないかと思います。
筆者の知人で、「断食はイスラム教徒の人たちが好きでしていることだから」と、「断食をしている方が悪い」ぐらいの勢いで、わざと目の前で飲食をする人がいました。これにはまったく同意できません。しかし、過剰に気を遣うあまり、自分が脱水症状になることもないでしょう。

ラマダンが開始して最初の数日間は、皆、気合いが入っています。まじめに断食する人が多いですし、まだ体が断食に慣れておらず、辛さを感じるようです。この期間は特に、断食している人の目の前では飲食しないように気を遣いましょう。ちょっと面倒かもしれませんが、オフィスにいたら席を外して、皆の見ていない場所で水を飲む、などです。
最初の1週間が済めば、もし場所を変えるのが難しかったら、「ここで飲んでもいい?」と断って水を飲んでも良いでしょう。「飲んでもいい? 食べてもいい?」と尋ねたら、皆、快く「どうぞ!」と言ってくれるはずです。
ただ、「ラマダン開始直後の数日間が一番苦しい」と言う人もいれば、「最初のうちはまだ体力があるので大丈夫だけど、3週目ぐらいから体にこたえてくる」と言う人もいます。接している人の様子も見ながら、適宜、配慮しましょう。
1日の断食明けに「断食、お疲れ様」という意味合いで声をかけたかったら、「Selamat berbuka puasa」と言いましょう。ちなみに、テレビや街中の広告でよく見聞きする「Selamat Menunaikan Ibadah Puasa」というフレーズは「幸せな断食を」といった意味です。

子供から大人まで やる人もやらない人も
病人や生理中の女性は断食をしてはいけません。ラマダン中に断食ができない場合は、別の日に一人で断食して、できなかった日数分を埋め合わせすることになっています。生理が来た女性は断食を中断しますし、その人が病気がどうかは外見では判断できない場合があります。断食していない人を「断食してないじゃないか」と言ってなじることはほぼありませんし、「あの人は、断食を途中でやめた。意思が弱い」などと言ってバカにするのも禁物です。
肉体労働者は、断食をしない代わりに、一日分の飲食費を喜捨することがあります。
子供は4〜5歳ごろから断食の「練習」を始めます。最初は正午ごろまでの半日間、飲食を我慢します。7〜8歳ごろから丸1日の断食をするようになりますが、やったり、やらなかったりで、1カ月の間に抜けはあります。中学生ごろから、大人と同様に丸1日、1カ月間の断食をするようになります。
断食はイスラム教徒の義務ではありますが、事情があったり、いろいろな考えの人がいます。イスラム教徒であっても「しない」人もいます。最初からまったくしない人もいれば、最初の数日間だけやってやめる人、たばこだけは吸い始める人など、いろいろです。なお、ラマダンの期間以外でも、個人的に断食をしている人もいますし、本当はやるべきである「埋め合わせ」もしない人もいます。実行はその人次第だといえるでしょう。
残業や断食明け オフィスでの注意点
ラマダン中は、朝早く起きないといけないので睡眠不足になりますし、日中は空腹と喉の渇きにより、仕事の能率としては当然、落ちます。眠気覚ましや気分転換に、コーヒーやお茶を飲んだり、たばこを吸ったり、ということもできません。しかし、それほど断食の影響は見せずに、普段通りに働いている人がほとんどです。そうは言っても、断食をしている従業員にはあまり残業をさせないように配慮しましょう。
特に注意した方が良いのは、運転手を使う場合です。これは自分の身の安全にも関わります。睡眠時間が短くなっていることを念頭に置き、早めに帰宅させるようにしましょう。また、断食明けのタイミングでは車を使わないこと。事前に、運転手に「断食明けとお祈りが終わったら知らせて」と言っておくと、お互いにストレスがないでしょう。恐らく30分ぐらいで「終わりました! ありがとうございます」と連絡が来て、スッキリした顔で現れるはずです。
ラマダン期間中、官庁や一部の会社では帰宅時間を早めますので、夕方の早い時間(午後3時ごろ)から混み始めます。家で断食明けしたい人が帰宅を急ぎ、断食明けの前に道は大渋滞となります。この時間帯に移動する時は注意した方が良いでしょう。逆に、断食明けが終わった後は、道はがら空きになります。もし待てるようであれば、断食明けまで待ってから移動すると良いでしょう。
ラマダン中は断食をするだけではなくて、争ったり、カッと怒ったり泣いたりすることもダメです。断食中の人には、できるだけ穏やかに接するようにしましょう。夫婦や親子以外の男女が接触するのも慎むため、握手しようと手を出した時、異性の場合は断られる確率がいつもより高くなります。

ラマダンは苦しい? 楽しい?
日中の飲食を我慢しないといけないラマダンは「苦しい、辛いこと」と思うかもしれませんが、イスラム教徒の人たちは、実は楽しみにしています。年1回の季節の巡りを知らせる風物詩であり、「ああ、もう1年経ったのか」という気になります。ラマダン中は、昔の友達や、普段は会わない人たちと会う機会も増え、家族と過ごす時間も多くなります。イスラム教徒同士の一体感、家族との一体感を感じ、懐かしい友達と再会できる季節です。
日本の「お歳暮」のようにプレゼントを贈り合ったり、ラマダンの時だけ街中に現れる特別な食べ物も楽しみの一つです。1カ月のラマダンが終われば、楽しいレバランが待っています。
【用語集】
ラマダン(Ramadan) イスラム暦の断食月。インドネシア語で「bulan puasa」
レバラン(Lebaran) 断食月明けの大祭。イドゥル・フィトリ(Idul Fitri)とも言う
サフール(sahur) 1日の断食を始める前に取る朝食
ブカ・プアサ(buka puasa) 1日の断食明け。「ブカ」と略す
タクジル(takjil) 断食明けに取る軽食


