かたかたインドネシア #54 tempe / kelabakan

かたかたインドネシア #54 tempe / kelabakan

2017-03-11

 つい先日、年を越したかと思ったら、もう3月なんですね。日本だと卒業や決算など年度の終わりで区切りの月であり、また、寒い冬が終わって春の訪れを徐々に感じるシーズンですね。インドネシアに住んでいると、そんな季節感を忘れてしまいそうになりますが、インドネシアでは雨も徐々に減ってきて、乾季へと移り変わる時期ですね(ちなみに雨季はmusim hujan、乾季がmusim kemarau、季節の変わり目はmusim pancarobaと言います)。最近は、その季節の変わり目が段々と後ろにずれているように感じます。雨期の終わるころに集中豪雨に見舞われることが多いので、まだまだ注意が必要ですね。個人的に、この時期の楽しみはサラリーマン川柳の最優秀作品の発表でしょうか。まだ投票に間に合いますので、興味のある方はウェブサイトを見てみてはいかがでしょう。過去の優秀作も見ることができて、なかなか面白いですよ(http://event.dai-ichi-life.co.jp/company/senryu/)。

tempe【テンペ】

 今月はチーズの特集ということで、こんな単語を拾ってみました。チーズと同じ発酵食品でインドネシアの名物食品、テンペです。大豆の発酵食品なので、健康番組などで「インドネシアの納豆」として紹介されているのを見たことがありますが、菌も違うし、せいぜい「親戚」といったところでしょうか。

 味は発酵食品の中では納豆と言うよりもチーズにより近いのかなと思います。味がよく染みるので、結構、いろいろな調理方法がありますが、私はシンプルに炙り焼きしたものがビールのお供に最高だと思います。好みでマヨネーズを添えてアタリメみたいに食べるのがクセになります。

 そのテンペですが、使い方によってはちょっと変わった意味になったりします。例えば”Kamu mah otaknya tempe banget ya.”で「あんたってちょっとアタマが足りないようね!」というように、「バカ」を表現できます。また、mental tempeという表現も、覇気がない、精神的にダウンした状態にある時などにも使われます。(ツイッターのハッシュタグでもよく見かけますね)。スカルノ初代大統領が「ネガティブにならず闘争心を持ちなさい」という意味で、よく使ったそうです。そう言えば、娘のメガワティが党首を務めている党もPDI-P(闘争民主党)と、闘う姿勢がはっきりと示されていますね。

 テンペはもろくて崩れやすく、軟らかいために、こいう意味になったようです。例文をもうひとつ。”Cowok jangan mental tempe, enggak laku deh.”「男はやる気を出さなきゃね、モテないよ」。はい、しっかり覚えておきます(笑)。

 ● DI-P(=Partai Demokratik Indonesia Perjuangan)
    闘争民主党
 ● perjuangan 闘い、闘争
 ● laku モテる、支持を得る

kelabakan【クラバカン】

 昨年に肺炎で入院し、症状はほぼ完治したのですが、貧血だけが正常値に戻りません。内視鏡検査をしたり骨髄まで調べても異常はなく、腎臓に起因する貧血ではないかとの疑いで、昨年末から1日おきに通院し、ホルモン注射を受けてきました。その結果、ほぼ正常値になったのですが、日本に出張する直前の注射で、大変なことになってしまいました。

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 ベッドに横になって注射してもらうのですが、その日の注射を終えて起き上がろうとした時のこと。腰がギクッとなり、固まってしまいました。そうです、ぎっくり腰です。まさか病院でぎっくり腰になるなんてマンガですよね。完全にパニック! そのまま病院で休憩しましたが、まったく回復の兆しもなく、松葉杖を借りてタクシーまで移動し、なんとか帰宅。そんな時でも「ぎっくり腰ってインドネシア語で何て言うんだろう。松葉杖は?」なんて考えちゃうのは、完全に職業病(?)ですね(笑)。今回ご紹介するのはそのどちらでもなく、当時のパニック状況にピッタリの表現です。日本人が使うのはほとんど聞いたことがないんだけど、kelabakanというのがよく使われます。

 自分のケースですと、”Satpam kelabakan lihat Beat-san waktu keluar dari taksi susah jalan sampai pakai tongkat.”「警備員は、びーとさんがタクシーから降りる時に歩行困難で松葉杖まで使っているのを見て、パニックになりました」となります。

 インドネシア語で「ぎっくり腰」の表現は辞書にはありますが、普段使いはされずに、敢えて専門用語を使うのであれば捻挫・脱臼を意味するkeseleoとなるようですね。

 「アイテ(痛)て!」と口走る時には、なぜか”Aduh, encok encok!”と、腰の曲がったおばあさんのリューマチなどに使われるencokとなるみたいです。

 寝返りも打てない状況で、どうなるかと思いましたが、氷で冷やしまくって、なんとか、日本での業務をこなすことができました。

 Kelabakanに戻ると、”Dia kelabakan gara-gara kartu ATM-nya ketinggalan di dalam mesin.”「彼女はキャッシュカードがATMの中に取り残されてパニックになりました」は、いかにもありそうな状況。

 ”Kaget saya dengar Ibu mertua OTW (on the way) ke sini, langsung kelabakan bersihin rumah.”「お義母さんが家に来る途中だって聞いて、びっくり。あわてて、家の片付けで、もうパニック」って、これは日本のコマーシャルにも似たような状況がありましたよね。どこの国でも、旦那さんのお母さんに気を遣うのは同じなようです。

 ちなみに松葉杖も独特の表現はなく、「杖」という単語のtongkatを使い、前後関係で伝わりづらいようなら、ジェスチャーなどで補助するとのことでした。結局、新しい単語を覚えることもなく、ただただ、ぎっくり腰で痛い思いをしただけだったようです(涙)。

 ● encok リューマチ
 ● kartu ATM 銀行のキャッシュカード
 ● ibu mertua 義母

 
 
びーと(名取敬)
「N真珠」オーナー。1993年からインドネシア在住。1998〜99年、よろずインドネシアに「かたかたインドネシア」を掲載する。2010年から『南極星』、2016年に『+62』に場を移し、好評連載中。「びーとxタケノコ先生のライフハック!」もどうぞ。

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