かたかたインドネシア #56 saltum / zonk

かたかたインドネシア #56 saltum / zonk

2017-05-14

 毎度のことですが、苦労するのがネタ探し。そこへ、意外な救世主が現れました。インドネシアで最も有名な飲料水のAQUA(アクア)です。ちなみに、ここで使われている「Q」という文字は通常のインドネシア語で使われることはなく、記号や外来語(借用語)でのみ使われます。ところが、面白いことに、最近のSMSやチャットでは自分のことを「aku→aq→q」というように略して使われるのをよく目にするようになりました。

 さて、飲料水と言えば、幼稚園の時に読んだ本に「石油の産油国では水が石油より高い」と書いてあり、いくらなんでもそれはないだろうと思った記憶があります。当時はミネラルウォーターなんかなくて、普通に蛇口をひねって水道の水を飲んでましたからね。まさか日本でも、ミネラルウォーターを買う時代が来るとは想像だにしませんでした。

 そんなアクア、最近はボトルに単語が1つ書かれています。日本でも去年、コカコーラが同じようなコンセプトの「スタンプボトル」というのを出していましたっけ(http://www.narinari.com/Nd/20160336394.html)。冷蔵庫を開けた時に、気の利いたメッセージの書かれたボトルが目に飛び込んでくると、ちょっとうれしくなっちゃいますよね。アクアのお陰で、インドネシアでも同じような遊びができますよ。アクアは「ボトルステッカー」と呼んでいるようです。

 「TULALIT」や「GARING」など、以前にこのコーナーで取り上げた単語もあります。当然、新しい言葉もたくさんありますので、どんな時にどのボトルを選べばいいのか、早速、説明していきましょう。

 saltum【サルトゥム】

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 ボトルにも”Mau main bola pakainya sepatu roda, kamu ‘SALTUM’.”と、用例が出ています。意味は、「サッカーしようというのにローラーシューズなんか履いて、その服装おかしいよ」と、なります。この例文によって「はぁー、何か身に着ける物を間違ってるんだなあ」と気が付きます。そして、その下に 「salah kostum」(服装の間違い)と意味が書いてあります。

 とてもよく使う表現なので、もう少し例文を見てみましょう。 “Astaga, saltum banget gue. Pesta formal tapi gue pake jeans.”「あちゃー、服間違えちゃった。フォーマルなパーティーなのに、私ったらジーンズじゃん」。”Mau ke DWP, cewek-cewek jangan saltum ya. Ini outdoor jangan ada yang pakai sepatu stiletto!”「DWPに行こうと思うんだけど、君たち、服装間違えないでね。アウトドアだからピンヒールなんか履いてこないでよ」。

 なんでこんなに短縮語が使われるかというと、やはりSNSの影響でしょう。SNSの中でもツイッターの140文字制限が大きいんでしょうね。実際、アクアの側も#AdaAquaというハッシュタグをボトルにも表示してツイッターでの拡散を狙っているようです。これからの時代、企業の広告戦略・媒体もどんどん変化していくんでしょうね。

 ところで、私はずっとTシャツ短パンで生活してきましたが、最近は長いズボンを時々、履いています。以前より少しはまともな服装になったはずなのに、なぜか言われちゃうんですよね。”Beat-san saltum dong!”ってね。

● sepatu roda ローラーシューズ
● astaga あらまぁ、なんてこと(感嘆詞)
● DWP=Djakarta Warehouse Project ジャカルタ・ウェアハウス・プロジェクト(東南アジア最大級のフェス)
● sepatu stiletto ピンヒール

 zonk【ゾンク】

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 さて、次のステッカーはZONKです。これもよく使われますが、ボトルでの説明がちょっと面白い。まず、最初に載っている説明文は”Pegang tangan pacar, ternyata tangan ibunya pacar.” となっています。「彼女の手に触れたと思ったのに実はお母さんの手だった」ってことでしょうか。何かの行為に対して期待した成果が得られなかった時に使う言葉で、ちょっと「バカ、ドジ」なニュアンスがあります。ボトルには意味として”Zonk=@#$*?!”と書いてあって、これは日本でもたまに目にしますが、驚きや混乱で「目が点」になるイメージです。

 ”Udah bela-belain dateng pagi ke kampus, tau-taunya libur pilkada. Zonk abis.””Ya makanya, jangan skip baca grup. Orang ada pengumumannya semalam.”「わざわざ朝からキャンパスに来たのに首長選で休校。なんにもなんないじゃん」「うん、だからLINEグループのチャットを読むの飛ばしちゃだめじゃない。昨日の夜、お知らせしてくれた人がいたのに」。デート中はLINEが入っても後でいいかって思って読まない人が多いんですよね。大変な努力をしたのに成果がない時などピッタリの使い方になります。

 ”Gue blacklist lah itu online shop, barang yang di foto sama yang datang beda jauh. Zonk banget barang yang datang.”「私、あのオンラインショップはブラックリストにしちゃうよ。見本の写真と実際に届いた製品が違いすぎるんだもん。送られてきた製品はまったく使い物にならないよ」って状況はお見合いでもよくありそうなケースですね。

● pegang つかむ、握る
● bela-belain わざわざ〜する
● pilkada=pemilihan kepala daerah 地方首長選挙

 
 

びーと(名取敬)
「N真珠」オーナー。1993年からインドネシア在住。1998〜99年、よろずインドネシアに「かたかたインドネシア」を掲載する。2010年から『南極星』、2016年に『+62』に場を移し、好評連載中。