文と写真・岡本みどり
<前回のおはなし>
ここは北ロンボク県、観光専門高校。私は日本語教師、ぼくせん(ロンボク先生)。コロナの影響でオンライン授業のまま、初めての中間テストを迎えた1年生とぼくせん。学校でのテストは実施できず、先生たちは各村を回って生徒に問題用紙を配布しました。生徒たちは自宅で中間テストを受けることになったのでした。
中間テストの始まる直前に、中間テスト後から「対面授業シミュレーション」という、対面授業を再開するためのお試し授業を行うと聞いていました。1週間授業をやって、そのあと1週間オンラインに戻して感染者が出ないか様子を見るそうです。その後は状況次第で対面授業を再開するかどうかを決めるとの書面が回ってきました。
いぇ~い、ついに対面授業が近付いて来た~!
やっと生徒たちに会えると思うと、私までウキウキしてしまいます。
そんなこんなで迎えた、うれしい初対面!
初日は90分2クラス分の授業を任されました。最初の授業では、私の自己紹介と授業方針の説明をしました。「ドラえもん」の主題歌もインドネシア語と日本語で歌いましたよ。ドラえもんの歌はとってもいい「つかみ」が得られるんです。
オンライン授業で毎週接していたものの、顔を合わせて生身で授業をするのはこれが初めて。楽しかったけれど、ものすごい緊張で、終わった後はグッタリしてしまいました。
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1週間のお試し授業の間に、生徒たちからは中間テストの解答用紙を受け取りました。
家で1枚、2枚と採点を重ねているうちに気が付きました。
「なんだこれ、みんな同じ答えだ」
今回のテストは例年にない自宅でのテストだったため、学校からは教科書やインターネットで調べながら解答しても良いと許可していました。それがまさか、これでは友達の解答をただ写しているだけじゃあないですか。
学校のほかの先生方に確認したら「私の科目もそうだった」ということで、「今回はそれでよし」という流れになりました。それでも、私の気持ちは収まりません。
こんなのテストじゃない!
憤っておきながら、いや~どうなんだろう、という気持ちも出て来ていました。確かに友達同士で助け合うのはロンボクの人たちっぽいやり方だよなぁ。社会に出た時に協力し合うのも大事なことだし、これはこれでいいのかなぁ~。いや~、しかしな~。
私の出した問題の最後の一問は「今日までのオンライン授業の感想をインドネシア語で書きなさい」でした。感想ですよ、感想。みんな同じのわけないじゃないですか。
ダメダメ、だめでしょう。私は生徒たちにテストで良い点数を取ってほしいのではなくて、しっかり自分の意見が言えるようになってほしいのです。
単に日本語という言語の「知識」があるだけでは、日本語は役に立ちません。それより前に、日本語で「伝えたいこと」「知りたいこと」などがあって、そこから初めて日本語を使った交流が生まれます。
生徒たちにとっては、学校のカリキュラムの中に日本語が入っていたから日本語を学んでいるだけかもしれません。でも、ここで日本語を学ぶことになったのも何かの縁。どうせ勉強するなら楽しく主体的に勉強しようぜ!
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1週間のお試し授業の結果、晴れて対面授業が再開されることになりました。
再開しょっぱなの授業は中間テストの返却です。私は生徒たちに「これでは点数はあげられない」と伝えました。
「おまえらはよぅ、自分の意見ってものがねぇのかよ。オンライン授業を受けて何も感じなかったのか? 揃いも揃っておんなじ感想を書きやがってよぅ。書き写してるのがバレバレなんだよ。おい、おまえ、おまえはどうなんだ。おまえの感想を言ってみろ!」と、ごくせんのようには言えず(近ごろ 、過去のドラマをチェックしてごくせんに感化されたぼくせんです)、代わりにこう言いました。
「私の出題をよく見てね。『あなたの感想を書きなさい』でしょ。あなたが書いてきた感想は、あなたのものではないよね。だって、クラスのほかの子たちと同じだったもの。私は『あなたの感想』が聞きたくて出題してるのよ。ほれ、あなたの感想を今、ここで言ってごらん。日本語のオンライン授業、どうだった?」
一人ずつテストを返却しながら、一人ひとりに同じことを尋ねました。
皆、初めはギョッとした顔や恥ずかしそうな顔をします。だけど、誰か一人でも自分の感想を言い始める生徒がいると、ほかの生徒も続いてくれるようになりました。たった一言、「わからない」「難しい」「面白い」だけでいいんです。そして、なんでも感想を伝えてくれた生徒には、ありがとう、わかったよ、と返しました。
しかし、中にはまったく感想が出て来ない生徒もいました。どうしてかな、としばし考え、主に次の二つの理由に至りました。
1.急に「感想を言いなさい」と言われてもよくわからない。特に感想がない。
2.自分の意見や感想を言って良いとは思っていない。自分の意見や感想では評価されないと思っている。
私は生徒たちの受け答えの様子を見ながら、2の線もあり得るのかなぁと感じました。ロンボク島の子供たちは、まっすぐおおらかに育っているようだったけど、意外とそうでないのかな……。それなら悲しいな。今まで大人に自分の意見や感想を聞いてもらえなかったのかな。
これまでの訪問授業やお試し授業から、私の高校の生徒たちは純朴な子が多いように感じていました。しかし、もしかしたらもしかして、この子たちは意外と繊細なのかも……のびのび素直なロンボクっ子……だけではない面も持ち合わせているのかも……。生徒たちを色眼鏡で見ず、いま目の前にいる生徒たちと接していこう。そう心に留めた中間テストでした。