【インドネシア全34州の旅】#27 ジョグジャカルタ 映画ロケ地巡りとワイサック

【インドネシア全34州の旅】#27 ジョグジャカルタ 映画ロケ地巡りとワイサック

2019-08-19

文と写真・鍋山俊雄

 インドネシアでバリ島の次に、観光地として有名なのは、ジョグジャカルタだろう。世界遺産の仏教遺跡ボロブドゥールやヒンドゥー遺跡プランバナンが海外からの観光客を引き付けている。

 ジョグジャカルタ特別州は、ジョグジャカルタ市と周辺の県で構成されている。インドネシアの中で唯一、現在でも、スルタン(国王)が州知事を務め、王国制度が存続している所でもある。王国は1755年に創立され、現在はハメンクブウォノ10世がスルタン位を継承している。王宮関係の施設もあって見学を楽しめるところは、さながら京都のようで、実際に、京都市とは姉妹都市提携をしている。

 また、昨今では、さまざまな新しい観光スポットも増えてきている。

 2002年に、高校生の友情と恋愛を描いた映画「Ada Apa Dengan Cinta? (AADC=「チンタに何があったのか?」。日本では「ビューティフル・ディズ」という邦題で上映されている)が封切られて、一世を風靡した。私は当時、インドネシア駐在3年を過ぎたころで、字幕もないインドネシア語の映画はまだハードルが高かったのだが、映画を見た後もVCDで繰り返し見てセリフの意味を調べたのを覚えている。今回、2度目となった赴任中の2016年に、「AADC14年後の続編」として「Ada Apa Dengan Cinta? 2(略称「AADC2」)」が封切られた。14年後の主人公を取り巻くストーリーと、ハッビーエンドに終わる内容を楽しむべく、こちらも繰り返し見に行った。

 印象に残ったのが、主人公らが再会したジョグジャカルタで、彼らが訪れた数々のスポットが、定番の観光地としてはあまり知られていないユニークな場所であったことだ。映画公開後、AADC映画ファンの「ロケ地巡礼」がその後流行っていた。そのいくつかをご紹介する。

Keraton Ratu Bokoの広場

 まずは「Keraton Ratu Boko」。ここは、プランバナンを遠くに望む、丘の上にある。8世紀ごろのマタラム王国に関連があると考えられているが、どのような場所なのか、はっきりとは解明できていない。ちょっとした階段を登り切って石造りの正門をくぐると、広大な土地に、石畳みの広場や石造りの小さいピラミッド風の建物が点在している。正門にかかる夕日が有名で、夕日待ちの人々が、思い思いの場所で写真を撮っている。

正門にかかる夕日
プランバナンが見える

 次に、「Gereja Ayam」と呼ばれる教会。ボロブドゥール遺跡からさらに西の山の中に3キロぐらい入った所だ。比較的新しい建物で、インドネシア人のクリスチャンがお祈り用の場所として建て始めたものらしい。

教会の内部

 AADC2では、ここで、主人公2人が夜通し語り合い、鳥の頭のてっぺんで、日の出の景色を眺めるシーンがある。確かに、ここから眺める風景は素晴らしい。ロケ地になったお陰で、すっかり有名になり、定番の観光地となっているようだ。教会の後ろにはカフェもある。

頭部からの眺め

 次に、ジョグジャのインスタスポットとして、行列が出来ている所を紹介しよう。

 山の斜面にある森林公園「Pinus Pengger」だ。ジョグジャのマリオボロ通りから東南に1時間半ぐらい車で行った所にある。樹木を元にした、人が乗れる規模のオブジェが点在していて、景色と写真撮影を楽しむ場所になっている。

 特に、斜面に張り出した手のひらのオブジェが人気だ。ここでは、番号が書かれた整理券を受け取ると、順番に番号が呼ばれて、そのオブジェで写真を撮れる。1人で行っても、周りの人にカメラを渡して撮ってもらうことができるので、問題ない。

 昼間の眺めも良いが、暗くなると、手のひらがライトアップされ、空中に浮かんだように見える。夜景をバックに撮影する写真をお目当てとして、夜になっても行列は続いていた。

 世界的に有名なジョグジャカルタのボロブドゥール遺跡で、毎年5月ごろの満月の時に、仏陀の生誕・成道・涅槃を祝って行われている仏教大祭がワイサックと呼ばれる。この大祭では、夜の祈りの儀式で、多くのランタン(提灯)を夜空に放つのが有名だ。

 ワイサックには一度参加してみたいと思っていたところ、「ジョグジャに当日、現地集合」というバスツアーを見つけたので、参加してみた。朝7時半に、「Yogyakarta Tugu」駅の近辺に集合する。そこから1時間余り、バスに乗って、まずはMendut寺院に向かう。そこにはすでに、海外からの参加者も含め、数十人の僧侶が集まっており、式典が行われていた。僧侶のほかにも、国内の仏教徒が多く参加しており、僧侶とともに祈りを捧げている。この儀式は昼過ぎまで行われる。

 その後は、そこからボロブドゥール遺跡まで、儀式の参加者および観光客の参列者が大行列になり、行進が行われる。暑さの中、約4キロ。のんびり歩いて1時間少々だろうか。

 ボロブドゥール遺跡の周辺には、大きなテントが張られ、各仏教の宗派ごとにディスカッションや説法が行われているようだ。ツアーの観光客は、夜8時ごろ開始のランタンの儀式まで、自由時間となる。

 ワイサックが断食期間と重なった2019年は、観光客は比較的少なかったが、それでも、ランタンを飛ばす儀式の時は一度では参加者を収容できないため、午後8時と午後11時ごろの2回に分けて行われる。

ボロブドゥール寺院から見た、夜のランタン打ち上げ場所

 うっすらとライトアップされたボロブドゥール寺院を背景に、厳かに祈りの儀式が行われる。その間に、すでに準備されたろうそく台に沿って、参加者は着座して、儀式に参加する。そして最後に、クライマックスとなるランタンの打ち上げ。

 6人で1組になってランタンを広げて、ろうそくに火を灯して、熱気が十分にランタン内部に行き渡るのを、ランタンを支えながら待つ。司会者の合図とともに、熱気がたまって膨れたランタンを空に向かって放つと、思いのほか上昇のスピードは早く、瞬く間に、夜空に、明るいオレンジの灯が散らばっていく。参加者全員が夜空を見ながら歓声を上げている。

 ボロブドゥール寺院の脇の特設ステージで午前4時ごろまで、別の儀式が夜通しで行われるが、私の参加したツアーは、このランタン上げで終了。朝の集合場所もジョグジャ駅に、午後11時過ぎに帰り着き、解散となった。

 ジョグジャカルタは最近、既存の軍・民間共用のアジスチプト空港のほかに、新しい国際空港が西側の海沿いに開港された。現空港は収容能力からも限界のようだったが、マリオボロ通りなどの中心地から車で1時間以内で行ける、便利な立地であった。新空港は、既存の観光資源からは遠方になってしまったが、この新空港開港で、新たな見所へのアクセスが改善されることになるのだろうか。バリと並ぶ国際観光名所としてのジョグジャカルタがどうなっていくのか、今後の発展も楽しみである。