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文・写真…鍋山俊雄

2019年8月、ジョコ・ウィドド大統領は、インドネシアの首都の移転先を東カリマンタン州(北ブナジャム・パスール県とクタイ・カルタヌガラ県にまたがるエリア)にすると発表した。これで一躍、脚光を浴びた東カリマンタン州。人口約370万人。州都は、全長約980キロにも及ぶ同州最大のマハカム川沿いにある、カリマンタンで最大の人口を擁するサマリンダだ。ここには4世紀ごろ、ヒンドゥー教を信仰するクタイ王国があったとされている。

カリマンタン島には政府の移民政策により移り住んだジャワ人やお隣のスラウェシ島からのブギス人なども多い一方で、内陸を中心に、土着の「ダヤク」と総称される先住民やクタイ人がいる。マハカム川を遡上する船に宿泊しながら、内陸部にあるダヤクの村々を訪問する「マハカム川ボートツアー」は、中部カリマンタンの「野生のオランウータン見学ツアー」と並んで、カリマンタン島ツアーのハイライトだろう。

ジャカルタから東カリマンタン州バリクパパンまでは、およそ2時間余りのフライトだ。そこから陸路でサマリンダまで移動した後、これから2泊するハウスボートに乗り込む。乗船場では、大きな鳥の羽根を着け、ダヤクの衣装を身にまとったスタッフが歓迎してくれた。

乗船場での歓迎

ハウスボートは3階建てになっていて、2階部分に2段ベッドを備えた客室とシャワー室があり、3階には大きな食堂とデッキがある。

ハウスボート

ハウスボート

ハウスボートの寝室

ハウスボートの寝室

初日は午後から、この船がのんびりと川上に進むのを楽しむ。デッキに出て川岸を眺めていると、カリマンタン島のほかの地域でも見ることのできる、川沿いの水上家屋街が続いている。

水上家屋街

夕食は、ハウスボートに同乗しているスタッフが作ってくれたインドネシア料理。海とは違って川なので、大きく揺れることもない。かすかなさざ波を感じながら、ハウスボートのベッドで寝るのは快適だ。

翌朝、デッキで日の出を待った。うっすらと明るくなり、水面が輝き始める。幅数百メートルはあろうかという広い川の中を小舟が行き交い始め、幻想的な風景だ。ひんやりと涼しい朝の空気の中、コーヒーを飲みながら日の出を眺めた。

マハカム川の朝

2日目は、緩やかに蛇行するマハカム川の上流へと進んで行く。ムアラ・ムンタイという町でハウスボートを停め、そこからは、さらに内陸部に向かって小舟でマハカム川を上って、ダヤクの村タンジュン・イスイとマンチョンの2つを巡る予定だ。

ハウスボートから、「チェス」と呼ばれる4人乗りの小型モーターボートに乗り換え、2時間余りのクルージングだ。川の両岸に水上住宅が並ぶ、ジャントゥール(Jantur)という小さな町を抜けていく。家は高床で、その前の水面に炊事場兼水浴場兼トイレがあるのが特徴だ。立派な塔を持つモスクも川岸にそびえ立つ。

水上のモスク

ジャントゥールを抜けると、ジュムパン(Jempang)湖が広がる。湖岸に生い茂る樹木に、周囲360度は湖面、上には青空が広がる。その中を快調にチェスは進んていく。

ジュンパン湖をチェスで進む

ようやくタンジュン・イスイに到着し、徒歩で小さな村の中を進んで、ゲストハウスに到着した。今回は日帰りなのでゲストハウスには泊まらないが、そこでダヤクの踊りを見せてもらうことになっている。

紅白のねじりはちまきを着けた子供たち、華やかな髪飾りを着けた女性たちが、小さな太鼓とガムランの打楽器に似た楽器で演奏される旋律に合わせて、輪になってゆっくり踊る。雨乞いや豊作の祈願、病気を治す踊り、皿回しの踊りなど、いろいろ見せてもらった。

タンジュン・イスイ村での踊り

タンジュン・イスイ村での踊り

タンジュンイスイ村での踊り

タンジュン・イスイ村での楽器の演奏

タンジュン・イスイの次は、さらに内陸のマンチョン村へ。小型トラックの荷台に乗って、陸路で向かう。道路はきちんと舗装されており、ジャングルの中を「オープンカー」で、風を受けながら疾走するのは気持ちが良かった。

マンチョン村へ

マンチョン村の中央には、大きく立派なダヤクの伝統家屋、高床式のロングハウス(Rumah Panjang)がある。このロングハウスは、西カリマンタンにも多く見られるそうだ。ただ、今ではこのマンチョン村のロングハウスも含め、観光用に建設・維持され、実際に居住しているわけではない。

ロングハウス

ロングハウスは猛獣や他部族からの攻撃に備えて、高い床の上に建てられている。その中には、複数の家族が生活できる広いスペースと多くの部屋がある。生活の拠点であるのみならず、儀式や会合なども行う、コミュニティーセンターとしての役割もあった。個人ではなく、共有とのことだ。

ロングハウス

ロングハウス

ロングハウスの上からの眺め

マンチョンには先ほどのチェス(小舟)が迎えに来ており、夕方、村を出発した。しばらくは川幅も狭い。両岸に熱帯雨林の木々が生い茂り、蛇行する川での、本物のジャングル・クルーズだ。途中に何度か、木のこずえを動き回る猿の群れを見た。

ジャングル・クルーズ

日が傾き始める中、ジュムパン湖を駆け抜け、ハウスボートに着いた時には、もう暗くなっていた。

3日目、サマリンダへ戻る。朝一番に、途中にあるレカック・キダウ(Lekaq Kidau) 村に立ち寄り、伝統舞踊を見学した。村の集会場、壁にダヤクの装飾がなされた板の間で、男女から子供たちまで、順番に舞踊を披露してくれた。男性は鳥の大きな羽根で頭を装飾し、ダヤクの装飾を施した盾と剣を持って、戦いの動きを表す力強い踊り。女性はダヤクのモチーフをビーズでカラフルに縫い付けた衣装を身に着け、打楽器と鈴の音に合わせてゆったりと踊る。子供たちも男女に分かれて、大人と同じような踊りを見せてくれた。

ダヤクの男性の踊り

ダヤクの踊り

ダヤクの女性の踊り

ダヤクの女の子の踊り

船に戻るまでの間、村の中を散策してみたが、民家と小さな商店しかなく、先ほど踊っていた子供たちが服を着替えて遊んでいた。

レカック・キダウの村人

レカックキダウ村の入口

レカック・キダウ村の入口

ハウスボートに戻り、サマリンダまでの残りの船旅を楽しんだ。途中で何度か、タグボートに牽引された大きな石炭の山を運ぶ艀(はしけ。インドネシア語では「tongkang」)や、木材を満載した艀とすれ違った。

石炭を運ぶ艀

石炭を運ぶ艀

木材の運搬

木材の運搬

カリマンタン島は、木材、石油、石炭などの天然資源の豊かな島だ。このマハカム川流域にも石炭の露天掘炭鉱があちこちにある。そこで掘り出された石炭は、川岸の貯蔵ヤードにいったんトラックで運び込まれ、そこから艀に積み込まれて、水路で目的地へ運ばれて行く。熱帯雨林の切れ目に、石炭貯蔵ヤードがいくつも見られた。

石炭貯蔵ヤード

石炭貯蔵ヤード

サマリンダに到着後は、一路、車でバリクパパンへ向かった。バリクパパンで1泊した後、翌4日目のジャカルタへ帰る朝、街はずれの海を望む場所にある南方方面戦没者慰霊碑を巡拝した。バリクパパンは、石油基地をめぐり、太平洋戦争時に日本軍と連合軍との激戦があった所だ。多くの日本人が亡くなっている。

慰霊碑

その後、市内で、名物のカニ料理の昼食を取り、カリマンタン島のもう一つの有名な産品である宝石を扱うお土産市場を眺めてから、ジャカルタへ戻った。

カニ料理

宝石市場

宝石市場

このような大河を行く船旅は、カリマンタン島ならではの醍醐味だ。川岸の人々の生活を眺めたり、本物のジャングル・クルーズをしたり、ダヤクの村々で伝統文化に触れる、盛りだくさんの旅である。

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