ジャカルタで大規模社会規制(PSBB)が始まる前日(4月9日)に拾われ、うちに来た傷だらけの子猫。とりあえず、使っていない部屋にケージごと入れ、ケージの近くに、水、えさ、トイレを用意した。

 傷を負った警戒心からか、部屋にいる間は気配を消して、コトリとも音を立てない。ケージを「安全な巣穴」と認識しているようで、いつも、ケージの中に隠れている。私が様子を見に部屋に入ると、ケージの中から鳴きながら、ひょろひょろ出て来る。やせてゴツゴツの体で、よろよろしている。こんなに小さいのに、よく頑張って一人で生きてきたなぁ、と思う。

 私が部屋にいる間はずっとニャーニャー鳴き続け、グルグル、スリスリをやめない。珍しいほどに人が好きな猫だ。膝の上にも乗りたがり、おなかを見せて横たわり、おなかをなでてあげると至福の表情。
 
 うちに来て5日目の朝、初めて部屋の中から大声で鳴いた。翌朝も元気いっぱいにモーニングコール。傷も治り、元気に遊ぶようになってきた。部屋の外に出してあげると、おもちゃ、紐、家具、あらゆる物で遊ぶ。楽しくて、うれしくて、しょうがない、という感じだ。生を謳歌している。生きることは忙しい。

 私がソファに寝転ぶと、おなかの上に飛び乗って来る。さらに、私の顔にひげが当たるぐらいの所にまで進み、私の胸の上に腹ばいになる。猫の喉を鳴らす音は「ゴロゴロ」と言われるが、「grrrrrrr」という、全身を使ったバイブレーションに感じられる。子猫の心臓の鼓動と「grrrrrr」の二重奏がダイレクトに胸に伝わって来て、これはたまらない。

 それでもまだ、飼うことは躊躇(ちゅうちょ)していた。1年ほど前から、うちには黒白猫のフレディがいる。私は「フレディ・ファースト」を公言し、フレディとの相性を見ることにしていた。そして、私が飼わない場合は、子猫を拾ったKさんが飼うことを検討する、と言ってくれていた。

 この子猫に対しては、フレディがうちに来た時ほどの注意は払わずに、ややじゃけんな扱いをしていたわけだが、ある時、いると思った場所に子猫がいない。ちょうど窓を大きく開けており、ここから落ちたか?と心臓がひやっとした。いくらじゃけんにされても膝に乗りたがり、甘えっぱなしのかわいさが思い出される。膝の上で寝てしまった子猫の体温と重みを思い出す。もし、これで一生を終えたとしたら、あまりにもかわいそうではないか。この時初めて、「甚五郎! 甚五郎!」と、子猫の仮の名前を大声で呼んだ。出て来た子猫を見て、心底ほっとした。

 こうして正式に「うちの子」となった甚五郎。名前も結局、日光の眠り猫の作者である左甚五郎からと、いつも機嫌良くゴロゴロ喉を鳴らしていることから、「じんごろう」とした。フレディともすっかり仲良くなり、「猫二匹ならでは」の面白い光景も見せてくれる。

箱に入る甚五郎と、入っているつもりのフレディ


 甚五郎の武器は「声」。ごはんが欲しい時は、びっくりするほどの大きい声で、力いっぱい鳴き続ける。なにしろ、シティーウォークでKさんに見付けてもらったほどの声なのだ。あの時、Kさんがシティーウォークに行かなかったら、Kさんに見付けてもらえなかったら、この大きな声もやがて小さくなり、いつか消えていたかもしれない、と思うと、たまらない気持ちになる。

 間もなくジャカルタでPSBBが始まって2カ月。すっかりうちになじんだ甚五郎は元気いっぱいだ。食べて、出して、寝て、遊んで。「Life is simple」だと猫を見ていると思う。

 

池田華子(いけだ・はなこ)
1999年からインドネシア在住。+62編集長。ほぼ猫アカウントと化しているツイッター・アカウントは@jakartahanachan
 

 

【インドネシア居残り交換日記】 
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DAY 2 横山裕一(ジャカルタ) 2020年4月6日 マスク越しの会話

DAY 3 西川知子(ジャカルタ) 2020年4月19日 とある休日

Day 4 成瀬潔(バリ) 2020年4月25日 嵐が過ぎるまで

Day 5 成瀬潔(バリ) 2020年4月26日 飼育係

DAY 6 ダグソト(ジャカルタ) 2020年4月29日 会社にヒョウが出た!

Day 7 西宮奈央(バンドン) 2020年5月6日  カボチャが採れるころ

DAY 8 池田華子(ジャカルタ) 2020年4月6日 ジャワの農村バティック

Day 9 池田華子(ジャカルタ) 2020年4月9日 子猫を拾った

DAY 10 岸美咲(ソロ) 2020年5月10日 ジャワの芸術家のエネルギー

DAY 11 松下哲也(東ヌサトゥンガラ・アドナラ島) 2020年5月10日 日曜の釣り

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DAY 13 岡本みどり(ロンボク) 2020年5月10日 断食月の食事

DAY 14 賀集由美子(チレボン) 2020年5月11日 PSBB下でのバティック製作

DAY 15 武部洋子(ジャカルタ) 2020年5月19日 母は日記を書く

DAY 16 西宮奈央(バンドン) 2020年5月13日  バナナチャレンジ

DAY 17 轟英明(チカラン) 2020年3月15日〜5月24日 新しい日常  

DAY 18 名取敬(ジャカルタ) 2020年4月某日 酒とテレビと囲碁タイム  

DAY 19 松下哲也(東ヌサトゥンガラ・アドナラ島) 2020年5月24日~29日 魚づくしごはん               

DAY 20 岸美咲(ソロ) 2020年5月27日 ガムランの「うちで踊ろう」

DAY 21 宇田川朋美(東ジャワ・クディリ) 2020年6月1日 こんな時だからこそ、家でおいしいものを

DAY 23 西川知子(ジャカルタ) 2020年5月5日 バティック、バティック、バティック

DAY 24 岡本みどり(ロンボク) 2020年6月1日 家庭菜園ズボーラ

DAY 25 高野洋一(ジョグジャカルタ) 2020年6月2日 時間があるといろいろ考える

DAY 26 村田真理子(ジャカルタ) 2020年6月4日 #大人になってまでなわとびするとわW