Sekawan Limo
夏は怪談。こちらの作品は7月に公開、大ヒット中の「登山ホラーコメディ」。インドネシアでは最近、「ホラーコメディ」がトレンド・ジャンルになってきているようだ。「面白怖い」映画でインドネシアのおばけを見ながら、あふれるジャワ色を楽しもう。

文と写真・横山裕一
7月初旬の公開後、11日間で観客動員数150万人を突破した、コメディホラー作品。舞台は東ジャワ州マラン県近くにある架空の山、マディオプロ山で、山に伝わる禁忌である言い伝えを破ってしまった5人の登山者に降りかかる災難を面白怖く描く。
同山では偶数人数で山に入らないと忌まわしいものに出くわすという伝説がある。主人公のバガスとレニのカップルは登山口で、登山道に詳しいから同行したいと話すディッキーの申し出を躊躇するが、さらに登山道の第3休憩所で仲間と落ち合う約束をしているというジュニも同行を申し出てきた。偶数の4人となることからバガスとレニも同行を承諾し、一行は登山を始める。
案内役を申し出たもののディッキーが道を間違え夜を迎えてしまったためテントを張ることに。そこで行き倒れたアンドリューを発見する。結局、禁忌の奇数人数での登山をせざるを得なくなった5人は、その後、それぞれが幽霊に付きまとわれ始める。実は彼らはそれぞれに不慮の母の事故死や借金取り、婚前の恋人の妊娠など精神的な負担を抱えていたのだった。不思議な現象が次々と起こる中、一行は5人のうち1人が幽霊なのではないかと疑い始める……。
作品のインドネシア語タイトル「スカワン・リモ」(Sekawan Limo)は、ジャワ語で「5」を意味する「リモ」を使って「5人の仲間、一行」を意味するが、「スカワン」もジャワ語では「4」を意味する単語でもあり、タイトルには「4、5」という意味も込められている。まさに作品のテーマである、山に入る人数が偶数か奇数か、また5人のうち一人が幽霊で人間は4人なのではないか、ということが暗喩されている。
本作品はインドネシアのオバケで代表的なポチョンやクンティラナックなどが登場するホラーでもあるが、コメディ色の方が強い作品だ。主人公のカップルと同行した3人が、奇行を繰り返すディッキー、常に腹を壊しているジュニ、ぼうっとしたアンドリューと笑いを誘うキャラクター作りで、彼らが織りなす会話も滑稽である。さらにホラー映画での山道を彷徨う定番でもある、同じ場所を繰り返し巡ってしまうシーンでも、それと気づいた目印がジュニの排泄物だったりと、ついクスクスと笑ってしまう。
作品では舞台が東ジャワだけにほぼ全編にわたって会話はジャワ語で展開する。インドネシア語の字幕を追うのは若干忙しいが、恐怖に慄いたり、慌てふためくジャワ語特有のイントネーションが時にユーモラスにも聞こえてくる。まさにジャワ・ホラーコメディの楽しさを味わえる。また主人公役を演じる俳優バユ・スカックは、かつて同じくジャワ語で展開する人気映画「ヨウィス・ベン」シリーズの主人公も演じていただけに、本作品でもいい意味でのジャワ臭さを振りまいて好演している。
ホラーコメディ作品では、2024年2月上映の「他とは違う」(Agak Laen)が観客動員数912万人以上と大ヒットを飛ばしたが、本作品もヒット中であり、さらに来月には同じくホラーコメディ作品「父の官舎」(Rumah Dinas Bapak)も公開予定で、今年2024年は「ホラーコメディ映画」がトレンドジャンルのひとつでもあるようだ。
日本ではすでに猛暑が始まり、夏真っ盛りで怪談の季節。この期にジャワの雰囲気満載の同作品を劇場で楽しんでいただきたい。ホラーコメディだけに、怖がるというよりは、大いに笑っていただきたい。(インドネシア語字幕)
