日本のアニメに着想、かわいくて楽しい子供向けワヤン 「キュウリの村」の日常を描く

日本のアニメに着想、かわいくて楽しい子供向けワヤン 「キュウリの村」の日常を描く

2024-09-20

日本のマンガやアニメから着想を得てダウド・ヌグラハさんの作った子供向けワヤン(影絵芝居)、「キュウリの村」シリーズは「かわいさ」と「インドネシアらしさ」が詰まった作品。笑いあり、あっと驚く仕掛けありで、子供だけでなく大人も楽しめる。実際に影絵芝居を演じて、撮影しているのがポイントだ。デジタルではなくアナログにこだわる、そのわけは。(文・池田華子、写真はダウド・ヌグラハさん提供)

なぜキュウリなのか?

キュウリがいっぱい! 3人で演じる
キュウリがいっぱい! 3人で影絵芝居を演じる。シーンによっては、演者の数はもっと増える

♪ カリッ カリッ カリッ
キュウリ大好き
モグ モグ モグ 
朝 昼 夜も 
毎日だって
キュウリを食べる 
からだ強くなれ ♪

 「キュウリが大好き」の歌を楽しげに歌うダウド・ヌグラハさん(41)。ダウドさんが制作するアニワヤン(アニメワヤン)、「キュウリの村」(Desa Timun)のエンディング・テーマソングだ。「キュウリの村」は、日本の「キネコ国際映画祭」で2回上映されていて日本語バージョンがあり、ダウドさんはそらで日本語歌詞を歌える。

 なぜキュウリなのか、というと、「キュウリの村」の登場人物はマメジカ(kancil=カンチル)。マメジカは体長が約40センチしかない小型の鹿で、森に住み、果物や木の芽や葉を食べる。インドネシアでは昔話の主人公として広く親しまれている。キュウリが大好きだとされ、「マメジカとキュウリ」の有名な子供の歌がある。「マメジカ、いたずらっ子、キュウリを盗む。情けは無用、さっさと檻に閉じ込めよう」。

 農家にとっては困り者のマメジカだが、檻に閉じ込めるのはかわいそうだ。ダウドさんによると、別バージョンの歌詞がある。「情けは無用、さっさと檻に閉じ込めよう」ではなく、「熱心に勉強をするようになり、村に戻ってキュウリを植える」というものだ。「檻に閉じ込められるのではなく、勉強の機会を与えられたマメジカは、キュウリを植え、村はキュウリでいっぱいになる」。そういった願いを込めた「キュウリの村」というネーミングだ。

番犬ならぬ番鶏が大活躍

アニワヤンを楽しむ子供

 「キュウリの村」の主要な登場人物は、マメジカの3きょうだい。お姉さんの「チラ」、よく食べるので一番背の高い妹の「チリ」、まだ小さくて言葉があまりしゃべれない、ボールが大好きな弟「チロ」。それに、物語のスパイスとなるのが、凶暴な雄鶏「アヤム」。

 「アメリカでは『番犬』となるところですが、インドネシア化して『番鶏』にしました。インドネシアの子供の多くは鶏に追いかけ回されたことがありますから」とダウドさん。子供にとっては恐怖の鶏だ。「パタパタパタパタ〜」といった「アヤム」の声は、ダウドさん自身が演じているのも見物。

 シーズン2では「お父さん」「お母さん」が登場し、シーズン3ではジャコウネコの「物売り」が新登場する。

左からチラ、チリ、チロ
マメジカ(カンチル)きょうだい。左からチラ、チリ、チロ
ボール好きのチロ
ボールが大好きなチロのせりふのほとんどが「ぼーらぁー!」(bola=ボール)

 物語のテーマは、凧揚げ、かくれんぼ、竹馬といった子供の遊びや、インドネシアのお菓子や果物、ピクニックなど。身近な題材を取り上げていながら、笑いあり、あっと驚く仕掛けありで、まったく飽きさせない。もちろん、インドネシアらしさ満載なので、インドネシアを知る絶好の教材でもある。

幼稚園の先生からアニメ・スタジオへ

 ダウドさんはジョグジャカルタ生まれで、子供のころからワヤンに親しんでいた。しかし、一晩かけて上演するワヤンは子供には長すぎるし、たばこを吸う大人たちも多く、「子供フレンドリー」ではない環境だ。ダウドさんの好きなインドネシア文化と日本のマンガ・アニメを組み合わせ、「子供も楽しめるワヤン」として生まれたのが「アニワヤン」(アニメワヤン)だ。

 ダウドさんの経歴は多彩だ。小さいころから絵を描くのが好きで、紙に描くだけでは足りず、家の壁や机にも絵を描いていた。2歳の時にジョグジャからバンドンへ移る。バンドン工科大学を卒業後、グラフィックデザイナーをしたり子供の本のイラストレーションを描いたり。その後、幼稚園の先生をしていた。2014年ごろから「アニワヤン」を構想し始めるが、まだ「実現するだけの力がなかった」と言う。2015年にアニメの世界に入る。まずはマレーシアのアニメ・スタジオで働き、2018年から2022年まで中国・上海で働いた。これで、ジグソーパズルのパズルが揃った。

「キュウリの村」の最初の作品「ボール」(Bola)
「キュウリの村」シリーズ、最初の作品は「ボール」(Bola)

 2020年に「キュウリの村」のワヤンをデザインし、2021年に最初に制作した話は「ボール」(Bola)。ダウドさんと妻と子供2人の家族4人がダラン(影絵芝居の演者)となり、小さい白布の前で影絵人形を操り、声を演じた。その動画を見たインドネシア教育文化省から連絡があり、コンテンツ制作を依頼された。こうして、インドネシア文化などを紹介する同省のインターネットテレビ「INDONESIANA.TV」で、「キュウリの村」シリーズを制作することになった。「0話」の「ボール」に加え、シーズン1の13話、シーズン2の34話、計48話が無料公開されている。現在はシーズン3(全26話)を制作中だ。

 シーズン1は、コロナ禍中の2021年にリモートで制作した。ダウドさんは上海で仕事をしており、ダランはジョグジャ在住で、スタジオもジョグジャ。その他のメンバーも、スラバヤ、ジャカルタ、米国など、バラバラだった。「Zoom」でコミュニケーションを取りながら、手探りで、初めての「アニワヤン」シリーズに挑戦した。コロナ禍が収まった2022年にダウドさんはインドネシアに帰国し、シーズン2の途中からは、バンドンを拠点に制作・撮影している。

「インスタント」は好きじゃない

 ワヤンの数は全部で500余りもある。登場人物の笑い顔、困り顔、泣き顔などの表情が、ずらっと揃っており、それを付け替えて使う仕組みだ。最初のころはダウドさんと妻が手作りしていたが、今はレーザーカットしている。

 各話の作り方は、こうだ。まずはマンガのネームのようなコマ送り動画(ストーリーボード)をデジタルで作り、それを見ながら、実際にワヤンを動かして撮影する。監督であるダウドさんは、撮影された動画を見て、動画コメントを入れ、それを基に修正を進める。最終的にはデジタルで編集する。コンピューターグラフィックス(CG)で作るのではなく、「影絵芝居を実際に演じ、撮影する」というのがポイントだ。

 なぜアナログでやるのか。「難しくするのが私の趣味なんです」とダウドさんは半ば冗談を言いつつ、

今は何でもかんでも、「インスタント」。「インスタント」は好きじゃない。

アナログの方が面白いから。デジタルでやるのは簡単すぎて、フィーリングがない。マニュアルでやると、デジタルでやるより難しくなるので、「できるかな?」「どうやったらできる?」という挑戦になる。

 アニメの「エフェクト」もアナログでやる。例えば、走っている人の背後などに現れて、速さを表現する「スピードライン」は、線の形に切り抜いた影絵を動かして表現する。クロースアップ・シーンで使われるフレーミングも、事前に作った黒枠フレームを人形に当てる、というアナログなやり方。

 シーズン1の第5話に出て来る、「鶏がくるっと一回転してから、ボールを蹴り飛ばす」というシーンは、なんと、30テイク以上もしたそうだ。「かざぐるまを右と左の両方から吹いて、くるくる回す」というシーンも難しかった、と話す。

 最後の編集でデジタルを使うとはいえ、徹底的な「マニュアル」「アナログ」ぶりが面白い。そこに注目して作品を見ていくと、より楽しめるだろう。詳しくは、下記リンク「どうやって作っている? 『キュウリの村』の舞台裏」をご覧ください(「スピードライン」の作り方は4:55ごろ、鶏のテイクについては6:40ごろ)。

 ダウドさんは1983年生まれのシニア・ミレニアル世代だ。

私はアナログ世代とデジタル世代のミックスです。子供のころはアナログの時代だったので、外でも、もっと遊んでいた。アナログに対する熱は、そういうノスタルジアもあるんでしょうね。

 影絵芝居のライブ・パフォーマンスや人形作りのワークショップなども行っている。2024年10月29日(日)午後1〜3時、南ジャカルタのmBloc Spaceで、「アニワヤンの舞台裏」と題するダウドさんのトークショーとアニワヤンのワークショップを行う。

どうやって作っている? 「キュウリの村」の舞台裏

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「キュウリの村」全48話、無料公開中

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