文と写真・岡本みどり
<前回のおはなし>
ここは北ロンボク県、観光専門高校。私は日本語教師、ぼくせん(ロンボク先生)。校内で異教徒同士の交際が発覚しました。ぼくせんは、担任の先生の家庭訪問に同行し、厳しい選択を迫られた生徒を目の当たりにしました。ぼくせんは生徒の味方となる発言をしましたが、結局、二人は別れ、騒動は一段落ついたのでした。
期末テストが終わり、新校舎の工事が始まりました。思い返せば半年前、初めてこの学校で瓦礫の山を見た時は、「まだ地震(2018年のロンボク地震)の爪痕がこんなに残っているのか」と驚いたものです(→「オンライン授業という名の荒波」)。しかし、ついに新しい校舎が建築されるのですね♪
そんな新校舎の建築工事を横目に、目下の問題は雨。ロンボク島は、1年に乾季(4~9月)と雨季(10~3月)があります。お正月前後は雨季の真っ最中。年間を通じて一番雨の多い時期です。
不安定な天候の中、コロナ感染防止対策で教室には通常の50%しか生徒を入れられなくなり、私たちの学校では1クラスをAとBの2つのグループに分けました。
授業時間は午前8時から正午までが「セッション1」、午後1時から同5時までが「セッション2」にして、生徒たちは曜日ごとに「セッション1」と「2」を切り替えながら登校することに。この時間割表が配られた時、生徒たちは大混乱しました。
「先生、今日は、僕は午前ですか?」
「先生、僕はグループAですか?」
全て表に書いてあるのですが、今までにない事態に生徒たちもパニックになったのだと思います。
すったもんだありながら、新しい時間割の運用の初日。「セッション1」と「セッション2」の生徒たちが入れ替わるタイミングで、もんのすごい雨が降ってきました。「セッション1」の生徒たちは蜘蛛の巣を散らすがごとく帰宅。先生たちは仮設校舎の庇(ひさし)の下で雨宿りです。
この雨じゃ、次の生徒たちは来ないんじゃないの?と雨を眺めながら半ばあきらめていたら、ビショビショに濡れた生徒が1人、やってきました。
「なんで来たの?!」
大雨でも登校したのに「なんで来たの?」とは、かわいそうに。だけど、思わずそう声をかけてしまうぐらいに、その生徒は上から下までズブ濡れでした。
「出発した時は雨が降ってなかったんですよ~!」
しばらくしてから他の生徒も数人、到着しましたが、彼らも制服のまま海で泳いだかのように濡れていました。
ビチョビチョに濡れながら登校した生徒たちは、校区の東側の地域から来る子たちばかりです。西側の子たちは誰も来ていません。そっか、西では降っていて、東の方は降ってなかったのか……。
ここでは日本のように「◯時に大雨警報だったら、休み」などの規則はありません。が、雨のひどい時は自主的に欠席します。ほとんどの生徒はバイク通学(またはバイクで送迎してもらう)なので、雨だと危険が伴うからです。
数えるほどしか生徒は来ていませんし、来たところで、こんな姿では授業なんて無理。結局、この日の「セッション2」の授業はなしになりました。
そして、私たちの地域の雨季は、毎日午後3時ごろから雨が降るので、これを加味して、翌日から時間割を再度変更することになりました。とりあえずやってみて、やってダメならすぐ対応するところが、とてもインドネシアらしいなぁ。
さて、あわてて新しく作られた時間割は、「セッション1」が午前7時半〜同10時、「セッション2」が午前10時半〜午後1時で、授業1コマが60分から40分に短縮されていました。
翌日。
「40分なんかじゃ授業にならないですよ! 短かすぎます!!!」
先生たちの悲鳴が続出。出欠を取ってちょっと前回の振り返りをしたら、本題にかけられる時間がわずかしか残っていないと非難轟々でした。
けれど、①コロナ禍ルールに従う②雨を避ける③全員に全教科の授業を提供する——にはこれしかないんだよ……と、時間割を作った先生が反論しました。全くその通り。ぐぅの音も出ず、皆、このスケジュールに従うことになりました。
おかげで、生徒たちが登下校中や授業中に雨に降られることは減りました。が、夜通し雨が降った翌朝などは、登校すると教室がこんな風に……。
仮設校舎の中には基礎がないために地面と床が同じ高さの校舎があり、かつ、各教室の天井近くには採光と換気を目的としたガラスをはめていない窓(穴)があることから、特に暴風雨の日などは教室が上からも下からも雨に濡れるのです。そんな雨季にウキウキ……するわけないだろう、誰だっ、そんなしょーもないダジャレで喜んでいるのはっ。
これでは、なかなかまともな授業ができません。足にビニール袋を巻き付けて教室を出入りする先生もいました。新しい校舎が待ち遠しい~!!
大雨のたびに先生も生徒もワイワイギャーギャー。まぁ、それでもなんとか授業ができる……うん、これで良しとしましょう。足るを知るとはこういうことかなぁ。跳ね上がった泥に汚れながら、雨季の授業は進むのでした。