ジャカルタの観光名所、イスティクラル・モスクを訪れたら、その対面にあるジャカルタ大聖堂(Gereja Katedral Jakarta、通称カテドラル)ものぞいてみよう。道を横切るだけという近さだ。灰色の地味な建物に見えるが、中に入ると、あっと驚く美しさ。2024年9月にローマ教皇が訪問した「教皇フィーバー」の名残もある。
ジャカルタ大聖堂は、オランダ植民地時代の1901年にネオゴシック様式で建てられた。上から見ると十字の形になるようデザインされ、3本の白い尖塔がアクセントとなって中世の城のようにそびえ立つ。正面の2本の尖塔の間には十字架、その下にバラ窓。重厚な石造りに見えるが、レンガとセメントを使い、天井はチーク材と、インドネシアらしさ満点だ。
中に入ると、外観の無骨さが嘘のような、美しい装飾が出迎える。まずは、見事なステンドグラスにみとれる。薄暗い室内から明るい外を見るからこそ現れる彩りと光が教会の上部を覆っている。これは、外から見ていても絶対にわからない美しさだ。
ステンドグラスは花模様のよう。白い柱の上部には草花文様が施され、飴色になったチーク材の天井が柔らかい曲線をなして、柱と柱の間をつないでいる。全体的に優しい印象で、イスティクラル・モスクの「直線」に比べて「曲線」が目立つ作りだ。木とラタンの椅子が並び、ミサの時間でなくてもお祈りをしている信者たちがいる。
ベルギーから運ばれたパイプオルガン、オランダ人画家による「十字架の道行き」の絵画など、当然ながらヨーロッパ色が強いのだが、イスティクラル・モスク同様、随所にインドネシアらしさが見受けられる。例えば、祭壇の左手には独特なマリア像が2体。ひとつは、王冠にはインドネシア地図、胸には国章ガルーダ、衣装はインドネシア国旗の色である赤と白に、ワヤン2体が描かれている。もうひとつの聖母子像はインドネシアの著名な陶芸家ウィダヤント氏作で、バティックとクバヤをまとった姿の聖母マリアが珍しい。ひるがえるクバヤが陶器で精巧に表現されている。
大聖堂に併設された「ミュージアム」では、インドネシアでのカトリック布教の苦難の歴史が見られる。プロテスタント国のオランダは当初、カトリックを禁止し迫害しており、蘭領東インドでの布教はフローレス島などに限られていた。ミュージアムの最初の部屋には、いきなり海の情景の中に小舟に乗った司祭の人形があり、「オランダ生まれ、1881年にフローレス島へ来訪し、1889年にララントゥカ付近で水死した」との説明書き。宣教師たちが持って来た鉄製のトランクや修道女の使った車椅子、イエズス会修道士が愛用していたという古い自転車などが展示されている。日本にキリスト教を伝えた、有名なフランシスコ・ザビエルの名前も見られ、日本との意外な接点も感じることができる。
2024年9月にローマ教皇がインドネシアを訪問し、ジャカルタでは「ローマ教皇フィーバー」が湧き起こった。教皇はもちろん大聖堂を訪問し、その名残をあちこちに見ることができる。「教皇、インドネシアへようこそ」と書かれた影絵風の看板が残されているほか、教皇の等身大の写真が飾られており、その隣の椅子に座って「教皇と記念撮影」することができる(2024年9月現在)。
コロナ禍を経て、教会の入口付近に置かれていた「聖水」が、ハンド・サニタイザーのようなプッシュ式になっていたこと、献金がQRコード方式になっていたことが「今らしさ」だった。
●ジャカルタ大聖堂
8 : 00〜20 : 00(日15 : 00)、水・祝休み