ラマダンの「リアル」を知ろう ＜後編＞ 食の話、レストランでのマナー

「ラマダン（断食月）で、食の話？」と思われるかもしれませんが、日中の飲食を絶つからこそ、食が非常に重要になります。1日の断食を始める前の朝食や、断食明けに食べる物とは？　われわれがレストランで気を付けた方が良いことは？　食の話をまとめました。（注・主にインドネシア・ジャカルタの状況です。場所や個人によっても異なります）

断食明けに食べるデーツ（ナツメヤシの実）。スーパーにはさまざまなデーツが積まれている

【用語集】
ラマダン（Ramadan）　イスラム暦の断食月。インドネシア語で「bulan puasa」
レバラン（Lebaran）　断食月明けの大祭。イドゥル・フィトリ（Idul Fitri）とも言う
サフール（sahur）　1日の断食を始める前に取る朝食
ブカ・プアサ（buka puasa）　通常は1日の断食明けを言い、「ブカ」と略す
ブカ・ブルサマ（buka bersama）　一緒に断食明けをすること
タクジル（takjil）　断食明けに取る軽食
クルマ（kurma）　ナツメヤシ（デーツ）の実。断食明けに食べることが多い

朝食、断食明けに食べる物は？
レストランでのマナー、酒への配慮
「ラマダン中にやってほしくないこと」　イスラム教徒の生の声

朝食、断食明けに食べる物は？

　1日の断食を始めるに当たって重要なのはサフール。午前3時半ごろに食べる朝食です。寝坊をしてサフールを食べ損ねると、その日の断食は辛いことになります。

　皆に早起きさせるために、午前3時ごろに「サフール、サフール」と節を付けて叫びながらカンプンの路地を若者が練り歩いたり、モスクから「起きましょう、起きましょう、サフールの時間です」とスピーカーで流れたりします。テレビではラマダンの時期には「サフール番組」が放送されます。コメディアンが出演するバラエティーやトークショーが主ですが、まじめなイスラム講話や歴史の話もあります。

　サフールのメニューで多いのは、ソトやスープなどの汁物、それに、ご飯。パパイヤなどの果物や野菜も食べます。寝坊をしたりして時間がない場合はインスタント麺です。

　1日の断食明け（ブカ・プアサ）の軽食でポピュラーなのは、預言者ムハンマドが断食明けに食べるよう薦めたという、ありがたいいわれのある、デーツ（ナツメヤシの実、インドネシア語は「クルマ」）。栄養価が高いので、理にかなっています。デーツはラマダンを象徴する風物詩の一つで、ラマダンが近付くとスーパーに箱入りで積まれていますし、もちろん、市場（パサール）でも買えます。1個、3個など、縁起の良い奇数個を食べます。干し柿のような味です。

　インドネシア人の大好きな揚げ物（gorengan）も、ブカの定番です。おにぎりのようなロントンを食べる人もいます。「ブレワ」（blewah）というメロンのようなウリやマクワウリ（ティムン・スリ＝timun suri）、果物、氷で作る「エス・ブア」（es buah）や、ヤシ砂糖で甘くしたココナッツミルクに芋やバナナを入れたデザート「コラック」（kolak）は、汁気と甘味の両方が取れるので人気です。ブカの前には、こうした食べ物を買ったり、自分で作ったりして、確保しておきます。

ラマダンに登場するウリ — ラマダンになると決まって登場するウリ。手前が「ブレワ」、後ろの黄色いのがマクワウリ

　この時期の昼間に国内線の飛行機に乗ると、通常の機内食の代わりに食事入りのボックスが出され、断食中の人はそのまま持ち帰ります。ホテルでは、朝食の時間外に「サフール」サービスのある所が多いです。

　注意した方が良いのは、地方へ行く場合です。ジャカルタとは状況が異なります。かなり地域差があり、場所によっては、州条例で日中の食べ物屋の営業を禁じている所もあります。そういう所では、昼食の確保が難しくなるので、事前に自分で準備するなどしておきましょう。

レストランでのマナー、酒への配慮

　レストランへ行って、友達や家族と一緒に断食明けの食事をするのは、インドネシア語で「ブカ・ブルサマ」（Buka bersama）と言います。ラマダン中は、普段はあまり会わない友人に会ったり、社内の親睦を深める機会ともなります。学校の同窓会を開いたり、職場で「断食明けの食事会」を催したりします。

　レストランは競って「断食明けプロモーション」や夕食ビュッフェを売り出します。レストランで断食明けをする場合は、断食明けの時間の前に席につき、料理を取ったり、食べ物や飲み物を注文してテーブルの上に並べて、断食明けの時間が来るのを待ちます。

　レストランでの夕食で、周囲がほぼ全員「断食明けの合図を待っている」という状況では、自分たちだけ先に食べ始めるのはやめた方が良いでしょう。また、ショッピングモール内のフードコートなど、インドネシア人がよく行くレストランの場合、もし可能であれば断食明けと時間をずらして、断食明けの始まる前か、断食明けが終わってから食事をすると良いでしょう。とりわけ、週末にショッピングモールやレストランで食事をする場合は要注意です。家族連れによる席の予約で、早々と席が埋まることが多いです。

白い布で中を見えないようにしたレストラン（2025年3月3日） — 昼間に食事をしている人が外から見えないよう、白い布を貼ったレストラン（2025年3月3日）

　昼間にレストランで飲食する場合は、通常通りで構いません。以前は、ラマダン中のレストランは、窓に白い布を張って、昼間に食事をしている人の様子が外から見えないようにしていました。今ではそうした店は少なくなり、ジャカルタでは、以前ほどの配慮はしなくなっているように感じられます。

　もう一つの注意点は酒です。イスラムでは酒が禁じられていますので、ラマダン中には特別な「配慮」があります。ジャカルタのレストランでビールやワインなどの酒を頼むと、コップやワイングラスではなく、湯飲みなどに入れて出されるのです。「酒を出さない」ではなく、「一見、酒とわからない容器で出す」のがポイントです。酒だけでなく、この期間は特に、ナイトクラブやカラオケなどの営業にも厳しい目が光ります。そういった場には出入りしない方が無難です。