Pabrik Gula Uncut
東ジャワの精糖工場に集まった季節労働者に降りかかる怪奇現象。インドネシアならではの要素が盛りだくさんで、約2時間の長さを感じさせない面白さ。ホラー好きも、ホラー苦手な人も、楽しめる。
文と写真・横山裕一
断食明け大祭(レバラン)にあわせて公開された話題のホラー作品。日本でいえば正月映画第一弾といった位置づけだけに物語の展開も面白いうえ、オランダ植民地時代以来の製糖工場を舞台に、ジャワ伝統の除霊儀式、禁忌破りや怨念、報復などインドネシアならではの要素が盛りだくさんの本格ホラーだ。
物語は東ジャワ州のある地方に伝わる口承をもとに作られている。2003年、サトウキビの収穫時にあわせて季節労働者として製糖工場で働くため、若者十数人がトラックの荷台に乗って出発するところから始まる。広大なサトウキビ畑の中にある工場は隣接する労働者用の宿舎も含めオランダ植民地時代からの古い建物だった。
宿舎に入った最初の晩、主人公の女性エンダは、窓越しに工場へ入っていく人影を見る。不思議に思って後を追うと、暗く静まり返った夜の工場内のどこからかガムラン(ジャワ伝統の打楽器)の音色が聞こえてくる。音色を辿ってエンダはある倉庫内で信じられない光景を目にしてしまう。
翌朝、エンダら新しい労働者たちは、工場長から夜9時以降の宿舎からの外出禁止を言い渡される。7年前、労働者たちが夜間に工場倉庫でこっそりと酒盛りをしていた際、火災が起きて全員焼死した事件があったことをエンダたちは後に知る。前夜に自らが見た光景とともに、エンダは嫌な予感に包まれる。それ以降、怪奇現象がエンダたちの身に降りかかり始める……。
歴史ある古い工場、過去の惨劇と、ホラーとしては典型的な舞台で繰り広げられる展開は観る者を飽きさせず、終盤のジャワ伝統の除霊の儀式を行う霊媒師と霊たちとの攻防も見どころである。一方でところどころにコメディアンが演じる守衛がコミカルな会話で笑わせるシーンもあり、昨年トレンドだったホラーコメディ的な要素も盛り込まれている。これら一服の笑いが、続く恐怖シーンを高める効果もあげている。
本作品は鑑賞対象年齢が21歳以上のノーカット版(Pabrik Gula Uncut)と、17歳以上の通常版(Pabrik Gula)が同時に公開されている。上映時間の違いはノーカット版がわずか1分長いだけだが、観ればノーカット部分がどこであるかは容易に予想がつくので、確認するのも本作品の楽しみの一つかもしれない。
監督は、2022年に大ヒットしたホラー作品「踊り子の村でのKKN(カーカーエヌ)」(KKN di Desa Penari)も手がけたアウィ・スルヤディ監督。脚本のレレ・ライラも同作品に引き続き参加していて、このコンビは現在のインドネシアホラー映画ヒットメーカーの一翼を担っているといえるかもしれない。
ホラー作品としては上映時間が2時間余りとやや長尺ではあるものの、長さを一切感じさせない。今年に入ってから、従来以上にホラー作品の上映が増えているようにも感じるが、ホラー好き、またホラーを普段観ない人に対しても、安心して(?)楽しめる本格ホラーである。是非この機会に劇場で五感と共に第六感も磨いていただきたい。(英語字幕あり)
