ラマダン(イスラムの断食月)明けのお祝いが「レバラン」です。レバランでは一体、何をするのでしょうか。「10のキーワード」で見てみましょう。
【用語集】
ラマダン(Ramadan) イスラム暦の断食月
レバラン(Lebaran) 断食月(ラマダン)明けの大祭。イドゥル・フィトリ(Idul Fitri)とも言う。「イドゥル」の「イード」はアラビア語で「祝祭」、「フィトリ」は「断食の終わり」。レバランを祝う慣用句でよく使われる「イード・ムバラク」(Eid Mubarak)は「祝福されたイードを」という意味。
ハンパース(hampers) 贈答品
タクビル(takbir) 「アッラー・アクバル」(神は偉大なり)の唱和
ハラルビハラル(halalbihalal) レバランの挨拶をする会
クトゥパット(ketupat) レバランの時に食べる「餅」のような食べ物


目次
- お正月とレバランを比較してみました
- インドネシア人のレバランの過ごし方
- レバランって何? 10のキーワード
- ①新月 hilal(ヒラル) なぜわざわざ月を見るの?
- ②帰省 mudik(ムディック) 「人口の半数」の大移動!
- ③ボーナス THR(テーハーエル) 給料の1カ月分が目安
- ④レバラン・ギフト hampers(ハンパース) 生活必需品から多様化
- ⑤「神は偉大なり」 takbir(タクビル) レバラン前夜にひたすら唱和
- ⑥レバランの挨拶 Mohon maaf lahir dan batin(モホン・マアフ・ラヒル・ダン・バティン) 許し合い、人間関係をリセットする
- ⑦レバラン挨拶の会 halalbihalal(ハラルビハラル) レバランで最重要なのはこれ!
- ⑧新しい服 baju baru(バジュ・バル) 家族で「今年のテーマ」を決めたり
- ⑨お年玉 ampao(アンパオ) できれば新札を入手
- ⑩クトゥパット ketupat(クトゥパット) レバランの日に食べる「餅」
お正月とレバランを比較してみました
レバランは日本の「お正月」と、意味合いや、することが非常に似ています。ちょっと比較してみましょう(注・イスラム暦の新年は別にあり、レバランが「イスラム新年」「イスラム正月」という意味ではありません)
お正月 | レバラン |
大晦日の除夜の鐘で煩悩を消滅させる | 1カ月間の断食で心身を清める |
帰省し、家族で集まる | 帰省し、家族で集まる |
初詣 | 朝、モスクでレバラン礼拝 |
新年挨拶、親戚回り、新年会 | ハラルビハラル |
お雑煮 | クトゥパットとサユール・クトゥパット |
お節料理 | ルンダンなどのご馳走 |
お年玉 | アンパオ(お年玉) |
お歳暮 | ハンパース |
インドネシア人のレバランの過ごし方
1日目 | 朝、レバラン礼拝へ。礼拝後に近所の人と挨拶 |
帰宅し、家族内で挨拶 | |
家族で一緒に食事 | |
家族で過ごす | |
お墓参りに行くこともある(特に、最近亡くなった人がいる場合) | |
2日目 | 親戚の挨拶回り、一緒に食事 |
3日目以降 | レバラン料理に飽きたころ、お出かけ。ショッピングモールへ行って食事をしたり、子供たちはお年玉を使って買い物をする |

レバランって何? 10のキーワード
①新月 hilal(ヒラル) なぜわざわざ月を見るの?
断食月(ラマダン)が始まる時も、そして終わる時も、新月(hilal)を観測します。太陽に月が全て隠された「朔(さく)」の状態から、細い三日月状の新月が見えたらラマダン開始です。月はそれからどんどん太って満月となり、その後、再び細くなっていきます。そしてまた「朔」の状態となり、そこから細い新月が見えたら「ラマダン終了」です。
インドネシア政府は、「『科学的根拠』と『実際の観測』の両方を用いて、ラマダンの日にち(開始日、終了日)を決定する」という方針です。このため、インドネシア全国各地の観測ポイントで新月を観測した後、その観測結果と科学的根拠を基に、関係者が列席する非公開の会議で話し合い、日にちを決定します。
今年のラマダン終了日を決める会議は3月29日夜に開かれます。午後4時半から全国で新月観測を行い、同日夜の会議でラマダン終了日を決定します。今年のレバランは3月31日になる可能性が高いとされています。(追記:3月29日の会議後、今年のレバランは3月31日と発表されました)
「新月がいつになるか」は計算して事前にわかるのに、なぜわざわざ、こんな面倒なことをするのでしょうか。それは、「神は全能である。そして人間の知識は完全ではない。人間の知識に100%の信頼は置かない」ということなのでしょう。このため、計算通りに新月が見えるかどうかを観測し、「実際に、新月が見えた」ということが重要なのです。
②帰省 mudik(ムディック) 「人口の半数」の大移動!

インドネシアで年間を通じて最も長い休みとなるのが、レバランを挟んだレバラン休暇です。今年は「有給休暇取得奨励日」(cuti bersama)も合わせると11連休になります。
「長期休暇である」というほかに、レバランは家族で過ごすのが重要なため、多くのインドネシア人が帰省します。今年のレバランでは、インドネシアの人口の52%に当たる約1億4648万人が帰省すると予想されています。
帰省の方法は、特にジャワ島内であれば、自分の車やバイクを使うか、長距離バス、次いで列車が多いです。帰省ラッシュとUターンラッシュにより、道路は混み合います。高速道路では一方通行(contraflow、one way)になる規制も行われますので、注意が必要です。ピーク時での移動は、できればやめた方が良いでしょう。
今年の帰省ピークは3月28日(金)、Uターンのピークは4月6日(日)と予想されています。この期間、インドネシアのテレビ・ニュースなどで交通情報の中継が頻繁に行われますので、外出の予定がある場合はニュースをチェックしましょう。なお、ジャカルタ内の道路は、レバラン休み中、がら空きとなります。
③ボーナス THR(テーハーエル) 給料の1カ月分が目安
レバラン前のこの時期に、インドネシア人の関心が高いのは、レバラン・ボーナス。「テーハーエル」と呼ばれており、「Tunjangan Hari Raya」(ハリラヤ手当)の頭文字です。「テーハーエル、もう出た?」というのがホット・トピックです。
会社員であれば、給料の1カ月分が支払われます。個人で運転手やメードを雇用している人も、レバランの前にボーナスを払います。やはり1カ月分が目安です。
④レバラン・ギフト hampers(ハンパース) 生活必需品から多様化


レバラン・ギフトは「レバラン・ハンパース」と呼ばれます。英語で「ハンパー」(hamper)とは、ギフトを入れるかごで、ハンパースとは「かごに詰め合わせたプレゼント」が原義のようです。日本の「お歳暮」に似ており、お世話になった人に贈ったり、近所の人や守衛さんらに配ったりします。
昔は「スンバコ」(sembako)と呼ばれる生活必需品(油、砂糖など)が定番でしたが、今では多様化しています。おしゃれなお菓子、食器類、アロマ・フレグランス、イスラム礼拝用のトラベル・キットなど、何でもあり。しかし、ポピュラーなのは、やはり食べ物のようです。
⑤「神は偉大なり」 takbir(タクビル) レバラン前夜にひたすら唱和
ラマダン最終日の夜は、「前夜祭」的な「タクビル」(takbir、または、タクビラン=takbiran)が行われます。通常は太鼓をたたきながら、ひたすら「アッラー・アクバル」(神は偉大なり)を唱和します。
たいまつ行列をしたり、仮設舞台の上で太鼓をたたいたり、荷台に太鼓を積んだトラックで道を走り回ったりもします。モスクでは一晩中、唱和を続けます。

⑥レバランの挨拶 Mohon maaf lahir dan batin(モホン・マアフ・ラヒル・ダン・バティン) 許し合い、人間関係をリセットする
レバラン挨拶の決まり文句が、「mohon maaf lahir dan batin」です。「mohon maaf」は「ごめんなさい、許してください」、「lahir」は「外面」、「batin」は「内面」という意味で、「外面の罪も、知らずに心の内で犯してしまった罪も、許してください」と、全ての罪に対して謝罪を請う言葉です。長いので、実際に言う時には略して「maaf lahir batin」と言ったり、くだけた会話調で「maafin ya」(許してね)、さらにもっと短く「maaf」とだけ言ったりもします(大勢の人に挨拶する場合)。
普段の人間関係の中では、どうしてもいろいろな罪や過ちをお互いに犯してしまうのを「許し合い、いったんリセットする」というのが肝です。家族、親戚、近所の人、友達など、自分と関わりのある全ての人に対して、この挨拶をします。
日本の「謹賀新年」のような、もっと一般的な挨拶としては、「Selamat Lebaran」「Selamat Idul Fitri」(レバランおめでとう)が使われます。
⑦レバラン挨拶の会 halalbihalal(ハラルビハラル) レバランで最重要なのはこれ!
レバランでやることの最重要なのが「挨拶会」(ハラルビハラル)です。すなわち、許しを求め合うことで、挨拶の言葉は、先に述べた「mohon maaf lahir dan batin」。やり方は、同性であれば、合掌した手の指先をお互いちょっと挟むようにして触れ合い、その後で抱擁して頬にキスしたりします。異性同士であれば、お互いに合掌します。
レバランの朝、モスクでの礼拝の後で近所の人に会ったら、まず挨拶します。帰宅して家族が揃ったら、家族同士で挨拶します。親や年長者に対しては、椅子に座った彼らの前に膝をつき、手を取って挨拶し、その後で抱き合います。
続いて、親戚への挨拶回りです。年長者の家へ、年少者が家族を連れて行くのが慣例です。特にレバラン2日目は、このように親戚の家へ行ったり、遠くに住む親戚を訪ねたりします。いつ行くかは、事前に「オープン・ハウス(open house)はいつ?」と聞いて、約束しておきます。
このレバラン時の「オープン・ハウス」は、大統領をはじめとする政府要人らも行います。官邸などを開放し、挨拶に来る一般の人々を迎えます。
レバラン休みが終わったら、今度は会社で「ハラルビハラルの会」を開く所もあります。友達同士でも、レバラン後に会ったらまず、「ごめんなさい」の挨拶をします。「ハラルビハラル」は、レバラン後もしばらく続きます。
⑧新しい服 baju baru(バジュ・バル) 家族で「今年のテーマ」を決めたり

レバランでは新しい服を着るのが慣例です。レバラン前のジャカルタでは、安い衣類を販売しているタナアバンなどのモールは混み合います。新しい服を買ったり、仕立てたりします。
「今年は茶色」「今年はモノクロ」というように、家族で「テーマ」を決めることもあります。おそろいの服を着ていると、家族の一体感がさらに強まります。

⑨お年玉 ampao(アンパオ) できれば新札を入手
まだ学校に行っている子供たちには、お年玉「アンパオ」を渡します。親戚の子供や、近所の子供たちにも配ります。できれば新札が良いので、レバラン前には銀行で両替して新札を入手しておきます。
金額の違うお札を1枚ずつビニール袋に入れて長い紐を付け、「あみだくじ」のようにしたり、レバランならではの遊びを兼ねることもあります。
⑩クトゥパット ketupat(クトゥパット) レバランの日に食べる「餅」

レバランの日に食べる料理が「クトゥパット」です。ヤシの若葉を編んだ中に米を入れ、数時間かけてゆでたものです。粘りはないですが、中味がぎっちり詰まって餅のようになります。クトゥパットを一口大に切って、ハヤトウリやパパイヤなどの野菜をココナッツミルクで煮た汁物(サユール・クトゥパット)をかけて、食べます。

このほかに、ルンダン、オポール、ウンパル、スムールなどの肉料理もどっさり用意します。一人で全部を準備するのは大変なので、親戚同士や隣近所で作る担当を決めて、会った時に交換することもあります。料理はレバラン前日に行います。
お菓子は、ナスタル(パイナップル・タルト)、カステングル(チーズ味のビスケット)、プトリ・サルジュ(粉砂糖を振って白くした、サクサクしたビスケット)は、「マスト」です。ニンニクで風味付けした揚げピーナッツも必ず用意し、年長者はそれを食べていることが多いそうです。飲み物はお茶や炭酸です。





参照
