Harmoni
スラウェシの農民とバリの漁民の2人を主人公に、異常気象や観光開発に直面する姿を描く。当事者本人たちの出演によりドラマが展開していくドキュメンタリードラマ。インドネシアの現状を的確に捉えた意欲作だ。

文と写真・横山裕一
異常気象や環境の変化を敏感に感じとる農民や漁民の目を通したインドネシアの現状を的確に捉えたドキュメンタリードラマ作品。一部地元の役者も出演するが、実際の当事者たちが自ら出演してドラマ構成で展開する意欲作でもある。
物語はスラウェシ島のゴロンタロ州の山間部の農民とバリ州の観光地として近年人気があるロンボガン島の海藻漁民が経験した実話によるオムニバス形式で展開する。
ゴロンタロ州サリタニ村の傾斜地でトウモロコシ栽培を営むトゥワルノさんらは近年続く乾季の長期化に伴う水不足に悩まされている。トウモロコシは実がまばらで商品にならず、村の水源である井戸も水量が減って生活水も満足に使えない状況だ。トゥワルノさんらはジャワ島から新たな農地を求めてきた移民で、当地の環境特性を把握できていない。悩んだ挙句、トゥワルノさんは自然の摂理に詳しいドゥクン(呪術師)が山向こうにいるとの情報を得て、仲間と二人バイクで探しに向かう……。
一方、バリ州のサヌール海岸沖にあるロンボガン島はクジラの形に似た岬があることで近年、撮影スポットとして観光者の人気を集めている。ここでマデさん家族は海藻栽培をしているが、観光業の発展に伴って観光用ボートのスクリューで海藻栽培のためのロープがたびたび荒らされている。また、マデさんの長男は収益率の低い海藻栽培に疑問を持っていたが、ある日、ジャカルタからレストラン用地を探しに来たビジネスマンと出会い、協力し始める。そしてビジネスマンはマデさんが海藻を干すための海岸沿いの土地に興味を示し始める……。
作品では、グローバルな環境悪化に伴う異常気象や観光開発によって失われようとする自然環境の実態が2つの村の物語を通して如実に浮き彫りにされている。インドネシアではインフラ整備やニッケル鉱山などに絡んで新たな環境問題も指摘されている。環境問題は人間の便利さの追求と比例して起きており、人間と自然環境との調和は大きな課題だ。本作品は土や海といった自然と日々向き合う人々だからこそ感じ取れる自然の変化であり、その視点に注目した制作者は生活感あふれる物語展開の中で効果的に我々地球民の周囲で起きている物言わぬ自然の警告を代弁している。
監督はドキュメンタリー作品を手掛けてきたユダ・クルニアワン監督で、「草根の唄」(Nyanian Akar Rumput/2018年作品)ではインドネシア映画祭の長編ドキュメンタリー部門で最優秀作品賞を受賞している。上記作品をはじめこれまでは「旋律のリヤカー」(Roda-Roda Nada/ 2022年作品)など音楽を通して社会を描いた作品が多かったが、今回は環境問題に取り組み、さらにドキュメンタリー要素をドラマ構成で試みた意欲的な作品に仕立てあげている。同監督によると、地元民にシナリオを見せて出演依頼した際、「これはまさに我々に起きていることだ」と涙を流して快諾を受けたという。
監督をはじめ、地元民の熱意を感じられる本作品をぜひ劇場で味わっていただきたいが、今回は監督が大型シネコンプレックスのない地域の人々を優先させたいとの意向から、サムズスタジオ系での公開に限られる。興味のある方は地方へ行った際などに鑑賞して頂きたい。

