【Cross People】フットワーク軽く。鍋山俊雄さん (弾丸トラベラー)

【Cross People】フットワーク軽く。鍋山俊雄さん (弾丸トラベラー)

2017-07-27

鍋山俊雄(なべやま・としお)
1999〜2006年および2013年〜2019年の計13年間、インドネシア在住。「週末弾丸トラベラー」としてインドネシア各地を放浪し、全34州と東ティモールを訪問した。金融機関に勤務し、弾丸旅行に行かない週末はJJSでバドミントンを楽しむ。

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 ランチタイムを使ってジャカルタの路上で鍋山俊雄さんの写真撮影をしたインドネシア人カメラマンが「これまで会った人の中で、歩く速さナンバーワンは鍋山さん」とコメント。さすが「弾丸トラベラー」。仕事の合間を縫ってインドネシア全34州を踏破したフットワークの軽さは、普段の足の速さにも現れているのか?

 広大なインドネシアの全州を旅するのは並大抵のことではないし、計画を立てたり情報収集したりといった用意周到さから実行力までが必要だ。しかし、逆に言えば、仕事をしながらであっても、その気さえあれば全州へ行くことだって可能、ということを鍋山さんが証明している。

 そもそも全34州制覇を目指した理由は、最初のインドネシア駐在時(1999〜2006年)に「行きたくても行けない場所」が多かったことだ。スハルト政権崩壊後はインドネシア各地で紛争があり、マルク、アチェ、東ティモールなど、危険度が高くて行けない地域もかなりあった。小松邦康さんの『インドネシア全二十七州の旅』(当時はまだ27州だった)を愛読していたこともあり、「再びインドネシアに来ることがあったら、インドネシアがどう変わったかを見て回りたい」という思いを残して帰国した。

 2度目の駐在(2013年7月〜)で再赴任してから、前回の駐在時には大津波で行けなかったアチェを皮切りに、国内旅行を始めた。途中から「マイルストーン」としての「全34州」を意識しつつ、約3年間で全州を踏破。その後も弾丸旅行を続け、仕事で行ったのは北カリマンタンの1州のみ、それ以外の33州はすべて自費で、自分の時間を使って、訪れている。何度も訪れている州もあり、パプア州は計3回、6カ所を訪れた(下写真はパプア州ティミカ)。

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 基本は一人旅だ。10年前の前回赴任時に比べると離島への航空ネットワークが発達し、スマホとグーグルマップスのおかげで移動中の情報収集も飛躍的に簡単になった。値段が10年前の数倍になったゴルフやブロックMでの宴会を控え、国内線と安価な宿を使ってリーズナブルな弾丸旅行を楽しむ。

 先の経験もあり、「行ける時に行っておく!」が鍋山さんの考え。「この先、何が起きて行けなくなるか、わからない。火山が噴火するかもしれないし、ヘイズや大雨といった季節的要因もあるし、テロなどの治安の問題もある。さらには、赴任期間はいつかは必ず終わるものです」。

 鍋山さんのスマホのメモには、「1日」「2日」「3日」といった所要日数別に、行きたい場所がリストアップされていた。旅行先で出会ったインドネシア人旅行者やガイドに教えてもらったり、機内誌をチェックしたりして、さまざまな方法で情報収集する。行きたい場所が出来たら、メモに記入しておく。例えば3日間の休みが出来たら、「3日」の項にある行き先リストを見て、どこへ行こうかと考える。

 「スマトラ島は日帰りで行ける場所が多い。泊まりで行く場合、1日は車を借りて、もう1日は歩く。時間がないから弾丸旅行で、駆け足ではあるけど、見たいと思った物は見ています」

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 旅行の主目的は「町歩き」と「遺跡巡り」。地元の人がどういう生活をしているのかを知りたいので、パサールで何を売っているか、特産品は何かを見たり、モスクや教会へ行って地元の人と雑談したりする。外国人との関わりを知るために「ここに外国人は住んでいる?」と聞くと、外国進出企業や、布教に来た外国人の子孫の話などが聞ける。ちなみに、「日本人に初めて会った」と言われることが多いそうだ。他島からの移住者はどこからが多いかを聞くと、どんな人たちでコミュニティーが成り立っているかがわかって興味深い。

 歴史を感じさせる物が好きで、オランダ植民地時代の要塞跡や日本軍の使っていた洞窟などがあれば訪れる。観光向けではない、普段の風景を見るのが好きだ。

 インドネシア国内旅行のガイドブックは『ロンリープラネット』以外、ほとんどない。旅行前にインターネットで、トリップアドバイザー、地方自治体の観光サイト、インドネシア人の旅行ブログを中心に情報収集し、グーグルマップスであらかじめ当たりを付けておく。

 これまでの旅行先で最も印象的だったのは、パプア。急速に開発が進んでおり、「5〜10年後には『観光文化』として残る以外、日常からは伝統文化が消えてしまうかもしれない」と感じた。全34州の中で最も好きな州は、島によって異なる伝統文化と美しい海がある、東ヌサトゥンガラ州。海の美しさでは特に、インドネシア最南端、国境警備隊のみが駐屯するンダナという小島(下写真)が夢のように美しかった。

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 全34州を踏破したものの、行きたい場所はまだまだ尽きない。今、「行きたい所リスト」に挙がっている場所は、例えば、フローレスのWae Reboにある伝統集落。山中に三角錐形の屋根の伝統家屋が建ち並ぶ風景は幻想的だ。「端っこ好き」で、東端西端南端は押さえたので、まだ行けていないインドネシア最北端のミアンガス島にも、マナドからの定期航空便が就航すれば行ってみたいと考えている。

 「よく言われているように、インドネシアは島によってまったく違う。実際に行くと、それが感じられる。ジャカルタ、バリ、ジョグジャカルタしか知らないと、想像もつかない」と鍋山さん。

 鍋山さんのインスタグラム(@tnabe88)には、「見たことも聞いたこともないインドネシア」が詰まっていた。