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毎週末にジャカルタの街を散歩しては途中で見付けた「面白ネタ」を次々とツイッターにアップしてきたジャカルタ・ツイッター界の有名人、「バケツさん」とは何者か? 惜しまれながらこのほどジャカルタを去ったバケツさんに、オンライン・インタビューしました。(文・池田華子、写真はバケツさん提供)

スティアブディの路地。「呼ばれて入り込む」散歩のスタート地点の一つだ

 画面の向こうに「こんにちは〜」と現れたバケツさんは、ツイッターのアイコンにしている、2018年アジア大会マスコットのジャワサイ「カカ」のような人だった。身長185センチ前後、体重100キロ前後という、「ガタイ」の良さ。カカは「自分に似ている」と親近感を覚えてアイコンにしたと言う。

「サイかゾウかクマ扱いされることは多いですね〜」

 製造業の営業として海外出張が多く、ヨーロッパ、トルコ、ブラジル、東南アジアと飛び回っていたが、最初の海外赴任地はインドだった。デリー近郊の工業地帯グルガオンに約4年間駐在した。そこからインドネシアへ赴任し、同じく約4年間駐在した。

 前任地のインドでは、「家族が一緒だったのと、気候の関係で、散歩はしていませんでした。インドは乾燥していて、砂ぼこりで口の中がざらざらになるんですよ。気温も高くて、直射日光の所は45℃を超えます。歩かなくなっちゃいました」とバケツさん。

 単身赴任でインドネシアに来てから、ツイッターと散歩を始めた。実はバケツさんにとって、散歩とツイッターは切っても切れない関係にある。

 まず、ツイッターを始めたきっかけは、「『ツイッターを始めて何日で妻にバレるか』という実験」だった。45日後にバレて、それからは、ツイッターに上げる何か面白いネタはないかと、スティアブディにある自宅の周りを休日に歩き始めるようになった。それが散歩の始まりだ。

 散歩をして見付けた物をツイッターに上げると、「その近くに、こんな物がありますよ」とツイッターで教えてくれる人がいたり、別の話題で盛り上がったりして、「次はここへ行ってみようかな」とつながっていくことが多かったと言う。

「ツイッターがあったから散歩が続いた。散歩があったからツイッターが続いた。ツイッター→散歩→ツイッター→散歩……という感じですね」

プロガドゥンの石細工通り。高架下に個性的な石像が並ぶ。一体どこで使われるのか?
似たような石像が他の場所で飾られているのを見ると、自分の作品でもないのにうれしくなる

「ゲームのクエストで、物語がどんどん深まっていく、そんな感じで散歩を楽しんでいました。新しい扉を開けるのは面白かったし、心強く、楽しかった」

 散歩は毎週末の土日のどちらか、もしくは両方。午前8〜9時ごろに家を出て、午後1〜2時ごろに帰る。2〜3時間したら1回、カフェなどで休憩を入れて、1日4〜5時間歩き回る。スティアブディからクラパガディンまで20キロ強を歩いたこともある。

 目的地はあったり、なかったり、だ。「車から見た、石像が並んでいる所へ行きたいな」と、そこを目指して歩くこともあれば、「最近、こっちの方角へ行ってないから、行ってみようかな……」という時もある。「自分が今どこにいるか」を確認するためにグーグルマップスは見るが、ルート作りには使わない。

道端で写真を撮っていると、不意に声をかけられた。振り向くと、『オレたちも撮ってくれ』と言い、親指を立てて満面の笑み。映った写真のチェックはせず、笑顔で見送ってくれる

 呼ばれているような気がして路地に入る。生活のにおいがする。懐かしいようなドブのにおい。見上げると、高層ビル群。ただ、歩き回る。

「この先に、自分の見たことのない、何かがある。見たことのない物を見たい。初めて食べるインドネシア料理と同じですね。これ辛いのかな、甘いのかな、と考えながら、初めて口にする時の高揚感。それと同じ高揚感が散歩にはある」

 バケツさんお薦めのジャカルタ散歩コースを教えてもらった。まず、初心者コース。「初めてジャカルタに来て、ちょっと違う雰囲気を味わいたい」という人には、スティアブディの住宅地。日本人駐在員が住むアパートも多く、アパートの周囲をふらふらっと歩いて少し足を伸ばせば、すぐに生活のにおいが漂って来る。バケツさんにとっても、「散歩を始めた原点」という場所だ。

スティアブディのパサール。週末は露店が並ぶ、賑やかな場所。
上には高層ビル、下には住宅街の喧騒、そのギャップを撮るのも楽しみの一つだった

 南ジャカルタのパサール・サンタやダルマワンサの辺り、中央ジャカルタの高級住宅地メンテンも歩きやすい初心者コースだ。ただ、散歩するには良いが、「これ」と言ったランドマークのないのが、残念な点。

 面白いランドマークを目指す「中級者コース」としては、マンガライの給水塔がお薦めだ。築100年ぐらい経った古い建物がそのまま残っている。バケツさんは中に入ったこともあると言う。

マンガライの給水塔。100年余りの歴史を持ちながら、周囲の住宅街に完全に溶け込んだ建造物。
足元には洗濯物が干してあり、壁にはボルダリングの石が設置されている

 ほかに、雑然としたジャティヌガラ、石像の並ぶプロガドゥン地区もバケツさんの「大好物」な場所。また、タナアバンからセントラルパーク方面へ向かう途中にある橋からの眺めも好きだと言う。

タナアバンからジャカルタの街を望む。
橋や高架から見えるジャカルタの景色は、どの場所から見ても気持ちの良いものだった

 すれ違う人などをよく観察し、「危なそうだ」と思った所には入らない。また、タクシーがつかまらない所は、何かあった場合にすぐ抜けられないので、あまり歩かないようにしていたそう。また、個人的に注意していた点は、カメラを向ける時に、プライバシーは撮らないようにすること。例えば、路地は撮るが、家の中は絶対に撮らない。散歩中に危ない目に遭ったことは、携帯をひったくられそうになった1回だけだと言う。

 12月末に、日本から、次の赴任地へ旅立つ。「次の赴任地では、散歩はできるかどうか……」。

クマヨランのJIExpoの近くには、まだアジア大会のマスコットが残されている。
一番下が、ジャワサイの「カカ」

バケツさん
愛知県名古屋市生まれ。製造業の営業として、2013〜2017年にインド、2017〜2020年にインドネシア駐在。ツイッター@Bucketz_jkt。「バケツ」という名前は、同僚が飼っていた犬の名前から。46歳。