+62が主宰しツイッター投票で決める「インドネシア流行語大賞」。今年のノミネートは昨年以上に「コロナ一色」となりました。その中で「PPKM」と「PeduliLindungi」の一騎打ちとなり、決選投票の激戦を制し、わずか1票差で大賞は「PeduliLindungi」に決まりました! 今年のインドネシアの世相とともに読み解きます。
文と写真・知る花
大賞は「PeduliLindungi」
日進月歩のアプリ、これなしでは何もできない
街に出てこの言葉を見なかった日はなかったりする(笑)
雨月@from_JAWA
PeduliLindungiと繋がっていますが、私は「check-in」に1票お願いします。
Nawal (ナワール)@bucinseiko
MRTの駅とかモールでお客さんが「またチェックインするのかよ」という声を良く聞きましたw
まあ、あちこちに移動して移動した所でチェックインするのは結構面倒ですよね
「PeduliLindungi」は「Peduli」(〜を気に掛ける)と「Lindungi」(〜を守る)を組み合わせたネーミング。発音は、「プドゥリリンドゥギ」。最後の「ギ」は鼻濁音です。言いにくかったら、「プドゥリ」で一呼吸置いて、「リンドゥギ」と続けます。慣れてくると、一息で発音できるようになります。
しかし、なんだかとても言いにくいんですが、インドネシア人にとってはそうでもないのでしょうか? と、記者のユダ・ミナシアニさん(45)に聞いてみたところ、「susah(言いにくいよ)!」とバッサリ。「リ、リ、と似た音が続くし、長ったらしいし」とのこと。インドネシア人は何でも省略語を作るのが得意ですが、プドゥリリンドゥギの省略語はなく、「フルネーム」で呼んでいるそうです。「WA(ホワッツアップ)の時には『PL』と略して書いたりするけど、呼ぶ時はPeduliLindungiですね」。
さて、なぜインドネシア人にとっても言いにくい、かつ、略しにくい名前になってしまったのか。実は、2020年3月26日にリリースされた時の名前は「TraceTogether」でした。これを聞いて「あれ?」と思われた方もいるでしょう。そう、シンガポールの追跡アプリと同じ名前なのです。
この名前が発表されると「アプリはシンガポール製なのか?」「インドネシア国民のデータがシンガポールに抜かれてしまう、危険だ」といった物議を醸しました。これに対して情報省は、シンガポールのアプリにヒントを得て開発したことは認めたものの、「100%インドネシア製です」と火消しに躍起になりました。そして、リリース翌日、名前をインドネシア語の「PeduliLindungi」に、即、変更。「コロナ禍の危機にある今、お互いを気遣い、お互いを守ろう」との志を込めたネーミングだ、としていますが、批判を受けてバタバタする中で急造した名前だったのかもしれません。
アプリの主な目的は当初、他国での追跡アプリ同様に、コロナ感染者と濃厚接触者を追跡し感染拡大を防止する、というもの。これにどれだけの効果があったかは不明ですが、2021年になってから、コロナ禍のインドネシアで使用されるツールとして一元化されていきます。
eHAC(Electronic Health Alert Card)も以前は独立したアプリでしたが、今年半ばにPeduliLindungiへと統合されました。インドネシアでは今年1月から接種の始まったワクチンの接種証明書も、PCRや抗原検査の陰性証明書も、PeduliLindungiに反映されます。公共の場所への出入りには、PeduliLindungiを開いて、QRコードを読み取り、「チェックイン」「チェックアウト」するという方式です。ショッピングモール、オフィスビル、ホテル、MRT、どこへ行くのにもPeduliLindungiでのチェックインが必要になりました。
このPeduliLindungi、最初のころはインドネシア人の間でも非難ごうごうでした。「あっという間にバッテリーがなくなる」「しょっちゅうハングする」「毎回、NIK(住民登録番号)を打ち込まないといけない」「デザインが見にくい」「使えそうな情報はあっても『工事中』」などなど。
それが、「日進月歩」という言葉の通り、みるみるうちに進化を遂げていきます。デザインは使いやすく変更され、あまり固まらなくなり、他のアプリとも連携され、外国のワクチン接種証明も反映され、日本語表示までできるようになりました。
「エラーが多い」など、一ユーザーとして文句がないわけではないですが、「こういうアプリを作って運用している」というのは大きな一歩であることは間違いありません。日本に比べてもインドネシアのIT化が圧倒的に早い、という証左ともいえるのではないでしょうか。
今や「PeduliLindungiがないと何もできない」という状態です。2021年の大きな話題は「ワクチン」でしたが、これもPeduliLindungiにワクチン証明を集約させるため、と考えると、今年になって本格運用の始まったPeduliLindungiが、新語・流行語のトップに来るのは当然の結果だともいえるでしょう。コロナ禍後のPeduliLindungiはどんな使われ方をされるのか、注目したいと思います。
次点は「PPKM」
日常生活を細々と縛る
僅差で次点となったのがPPKMです。
PPKM
オラン・ウタ子@orangutako
に1票!☺
今年は本当にこの言葉に振り回されましたねー。来年は落ち着きますように。。。
PPKMとは「Pemberlakuan Pembatasan Kegiatan Masyarakat」という長い言葉の省略形で、「社会活動制限」といった意味です。2020年に行われていたPSBB(Pembatasan Sosial Berskala Besar=大規模社会規制)の続きともいえるもので、2021年1月11日から開始しました。特に7月3日にかつてない厳しさの「PPKM Darurat(緊急事態)」が始まってからは、その存在感を強めました。
それ以前にPSBBが施行されていた時にも「PSBB Masa Transisi(移行期間)」「PSBB 2」など、わけわからない状態となっていたのですが、さらにわけがわからくなったのがPPKMです。
PSBBとの主な違いは①PSBBは各州知事が決めて実施していたが、PPKMは国が「レベル」を決めた後、細則を定めて実施するのは各地方自治体、という二重構造になった②PSBBは「あり(または延長)」「解除」「移行期間」ぐらいのシンプルな区分だったが、PPKMでは「レベル」という考え方が導入された。今のところ「緊急事態(Darurat)」を最高位とし、レベル4から1まで。ただし、その詳細はよくわからず、1つのレベル内での振り幅も大きい。
この「レベル」をネタにしたのが、こちらのノミネートです。
「PPKM Pedes banget gila sampe guling2」かな。
にゃまん@nyamanjepang
元ネタとなったのは上記ツイートで、インドネシアでは辛さレベル1、2、といった表現があるため、それに掛けています。辛さはレベル4を超えると、「劇辛」→「アホみたいに辛い」→「アホみたいに劇辛で、転げ回る」となります。PPKMの「辛さ」とも掛けているのでしょう。
PPKMとは「緩和」と「規制」の綱引きの表れで、「わざとわかりにくくしているのではないか?」「わざと煙に巻こうとしている?」と思わせられる面もありました。
そして、PPKMの「顔」となったのが、ルフット・パンジャイタン海洋投資担当調整相です。流行語としてもノミネートされました。
大統領の腹心、懐刀、一番大統領に影響力のある男。コロナ禍前から表舞台に上がっていた気がしますが、コロナの拡大と共に、水を得た魚といった感じでしょうか。大統領が”404: Not Found”と揶揄されたのも、この方のご活躍のたまもの。
むすたふぁ@kampungkulon
さて、PPKMがここまで票を競ったのは、われわれの日常生活に多大な影響を与えたということが大きいでしょう。明日は会社へ行けるのか(出社比率は50%なのか75%なのか)、ショッピングモールはオープンするのか、何時まで開いているのか、店内飲食はできるのか、制限時間はあるのか。そうした細々としたこと全てが、PPKM次第でした。
2020年はPSBB、2021年はPPKM。2022年にはまだPPKMが続くのか、PSBBに戻るのか、新たな何かが生まれるのか?
サラーム・ダリ・ビンジャイ
バナナの木をドカドカ殴る
今年のノミネートは昨年以上に「コロナ一色」となりました。その中で一服の清涼剤となったのが、「Salam dari Binjai」。ノミネートしてくださった遮光器型おくいさん、ありがとうございます!
salam dari binjaiですかね…バナナの木を殴るパロディがやたら流行った
遮光器型おくい@okuy26
こちらはTikTokのネタで、男の子が「Salam dari Binjai(ビンジャイ=北スマトラの地名=から、こんにちは」と言って、バナナの木の幹をドカドカドカッと殴って倒してしまう動画。これをまねて、同じように「Salam dari Binjai」と挨拶してバナナの木をドカドカ殴る動画が大流行しました。このため、あちこちで、バナナ農園の木が倒される被害が出たそうです。
その他のノミネートは下記の通りです(昨年にもノミネートされた新語には※)。
WFH※ ウェーエフハー
Work From Home 在宅ワーク
「あれ、今日〇〇さんは?」「WFHです」「□□さんは?」「sakitでお休みです」「も〜、訳わからんからWFHは椅子にWFHの看板かけとけ!」みたいなやり取りが繰り返された1年でした。
ten moguraya@TMoguraya
Ayo pakai masker!※ アヨ・パカイ・マスカル!
マスクを着けよう
vaksin ファクシン
ワクチン
Saya sudah vaksin サヤ・スダ・ファクシン
私はもうワクチン接種しました
karantina カランティーナ
隔離
同じウイルスでも以前はスパムやウイルス感染の恐れがあるメールに対してアンチウイルスソフトが隔離するときに使われていましたね。
びーと(NATORI Takashi)@BEAT_JAKARTA
eHAC(HAC) イーハック
Electric Health Alert Card 電子健康状態申告書
Prokes※ プロケス
Protokol Kesehatan 感染防止規則
isoman※ イソマン
isolasi mandiri 自主隔離
Titip di lobby (resepsionis) ya ティティップ・ディ・ロビー・ヤ
ロビーに預けておいてください
確かにめっちゃ打ったこの一文
Rino@Jakarta@Rino52650304
Delta デルタ
デルタ株
korupsi コルプシ
汚職
美人局 つつもたせ
男女で共謀した恐喝詐欺
来年の流行語大賞はどうなるでしょうか? 来年こそはコロナ脱却していますように!!!
参照記事