シルクスクリーンに羽ばたく「ペン子の世界」 賀集さんの原版を展示、新商品を販売 16日からアルンアルンで

シルクスクリーンに羽ばたく「ペン子の世界」 賀集さんの原版を展示、新商品を販売 16日からアルンアルンで

2024-11-14

チレボンのバティック作家、賀集由美子さんの生み出したキャラクター、「ペン子ちゃん」。ペン子が生き生きと活躍するシルクスクリーン原版の展示会と新商品の販売会が、ジャカルタのグランド・インドネシアで16日から開かれます。

バティック工房「スタジオ・パチェ」の様子を描いたシルクスクリーン
バティック工房「スタジオ・パチェ」の様子を描いたシルクスクリーンの原版。バティック工程の説明にもなっている

賀集さんの作品を再生産し、後世へつなぐ

 チレボンでバティック工房「スタジオ・パチェ」(Studio Pace)を主宰していた賀集由美子さんが亡くなって3年半。残された膨大なバティック原画やシルクスクリーン原版を使って、その作品を再生産し、賀集さんの仕事を後世へつなげよう、という動きがある。そのうちの一つが、賀集さんと長い付き合いだった「メガスニ・ギャラリー」オーナーのまりこスルヤントさんが中心となる「スタジオ・パチェ・プラス」(Studio Pace +)だ。まずは、シルクスクリーンを使った作品の再生産を始めた。そのお披露目イベント「ペン子の世界」が11月16日から12月2日まで、グランド・インドネシアの「アルンアルン」で開催される。

 まりこさんと賀集さんは2000年ごろに知り合った。「スタジオ・パチェ」を立ち上げたばかりだった賀集さんは、ジャカルタのメガスニ・ギャラリーを訪ねて来て、「商品を置かせてもらえませんか」と頼んだ。まりこさんは快諾した。それ以来の付き合いで、賀集さんにとってまりこさんは、いわば「恩人」。スタジオ・パチェ・グッズが人気になってからも、賀集さんは「ジャカルタでの販売場所はメガスニ・ギャラリー」と決めていた。メガスニ・ギャラリーがアルンアルン内に移ってからも、そこでずっとスタジオ・パチェの商品を扱い続けてきた。こうした経緯から、まりこさんが「スタジオ・パチェ・プラス」のイニシャティブを取った。

 「ペン子の世界」で展示されるのは、シルクスクリーンの原版約50枚と、賀集さんの制作したシルクスクリーンの作品など。そして、「スタジオ・パチェ・プラス」で新たに制作したシルクスクリーンの作品も販売開始する。

「苦肉の策」で始まったシルクスクリーンが大発展

 賀集さんがシルクスクリーンを始めた理由は、2010年ごろから手描きバティック職人を集めるのが難しくなってきたためだ。工房存続のために、半ば「苦肉の策」として始まったシルクスクリーンだったが、思いがけない発展を遂げることになった。なにしろ、バティックという「制約」がない。バティック下絵のように「職人の技量を活かす絵」などと考える必要はなく、自由に絵を描ける。バティックでは難しい、細かい文字も入れ放題だ。版を作って刷れば、そのまま、布に絵を写せる。元々プリント好きだった賀集さんは、この面白さにハマったようで、爆発的に創作を始めた。

 シルクスクリーンの主人公は、賀集さんの代名詞でもあるペンギン・キャラクターの「ペン子ちゃん」。恐らく「目をつぶっても描ける」というぐらいに、賀集さんにとってはお手のもののキャラクターだ。バティック制作の中で定着したペン子ちゃんだったが、シルクスクリーンになってからは、さらに生き生きと羽ばたき始めた。シルクスクリーンの場合、賀集さんの描いた線がそのまま刷られるので、賀集さんののびやかなタッチや息づかいが感じられる。

 インドネシアでの日常風景やインドネシアの風物などが、丁寧に、細やかに描き込まれ、インドネシアを紹介する絶好の作品になっている。シルクスクリーンになってから、ペン子ちゃんはさらに普及するようになり、インドネシア人の間にもファンが増えていった。2020年に始まったコロナ禍中には、「手を洗おう」「マスクをしよう」といった感染防止対策を呼びかける作品や、コロナ禍中の日常を笑いと希望を込めてつづった作品も現れた。

 賀集さんが2021年6月に亡くなった後、工房の隅には大量に作られたシルクスクリーンの版が積まれていた。その数、約150枚。チレボンの遺族が工房を片付けた際、チレボン市内の倉庫へと運ばれ、そのままずっと埃をかぶっている状態だった。

チレボンの倉庫に積まれていたシルクスクリーンの原版
チレボンの倉庫に積まれていた賀集さんのシルクスクリーン原版

デジタルではない「手刷り」へのこだわり

 シルクスクリーンなので、刷ればそのまま賀集さんの絵を再生できる。なんとか、これを刷って再生産し、ペン子と賀集さんの仕事を後世に残したい……と、「スタジオ・パチェ・プラス」の活動が始まった。賀集さんの「スタジオ・パチェ」と区別するために、「プラス」を加えたネーミングとなった。

 「スタジオ・パチェ・プラス」で、チレボンの遺族と交渉。今年3月にようやく交渉がまとまり、賀集さんの残したシルクスクリーンの原版全てを買い取ることに成功した。

 チレボンからジャカルタへ運ばれて来た原版をきれいにして整理し、そこから再生産にこぎ着けるまでも一苦労だった。ジャカルタではデジタル・プリントが主流になっており、シルクスクリーンを手刷りできる業者がほとんどいない。しかし、デジタル・データ化してしまうより、やはり、賀集さんの原版を使って手で刷りたい。まりこさんの伝手でようやく、手刷りできる人が見付かった。試作を繰り返して、ついに商品が完成した。

シルクスクリーンを手刷りした作品。ジャムー売りやバリ人
シルクスクリーンを手刷りした作品。ジャムー売りやバリ人のペン子が並ぶ
バリ島の絵地図
バリ島の絵地図。塩作り、竹楽器のジェゴッグなどが描かれている

 アルンアルンで開催される「ペン子の世界」で発売される新商品は、キャンバス地にシルクスクリーンを手刷りした額装絵、トートバッグ、Tシャツなど。日本へのお土産にもぴったりだ。賀集さんと親交の深かった、チレボンとインドラマユのバティック工房が制作したバティック布も併せて販売する。

 11月23日(土)午後2時から、シルクスクリーン手刷りのデモンストレーションと、「ペン子に学ぶインドネシア」講座を予定している。入場無料。
 

「インドネシアのバティックを継続しよう!」。バティックの作り方などを描いたシルクスクリーン原版
「インドネシアのバティックを継続しよう!」。バティックの作り方などを描いたシルクスクリーン原版

「ペン子の世界〜賀集由美子さんのシルクスクリーン展示会」
2024年11月16日(土)〜12月2日(月)、グランド・インドネシア西館3階「アルンアルン・インドネシア」。賀集由美子さんのシルクスクリーン原版、シルクスクリーン作品、バティックなどを展示します。入場無料。

「ペン子に学ぶインドネシア」講座 & シルクスクリーン手刷りデモ
2024年11月23日(土)午後2時〜同3時半、グランド・インドネシア西館3階「アルンアルン・インドネシア」。賀集さんの制作したシルクスクリーンを使って、インドネシア語、背景などを解説します。シルクスクリーン手刷りのデモも。入場無料。

賀集さん作品展、地元の千葉で開催 「巨大生命樹」バティックなど約100点を展示
 2024年3月16〜17日、千葉県佐倉市の佐倉市立美術館で、「賀集由美子の見たインドネシア〜チレボンのバティック」展(賀集さん作品展実行委員会主催)が開催され…
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