お薦めする人 名取敬(びーと)
 一般の人にとっては、海外に活躍の場を求めた1人のアイドルが書いた本でしかないかもしれません。でも、『+62』の読者の大多数であろうインドネシア在住者にとっては、また別の意味を持ってくるのではないでしょうか。
book_gapapa_Image仲川遥香『ガパパ!』(ミライカナイ、2016)

 題名は、インドネシア語の「tidak apa apa」の会話表現である「gak papa」から取っています。「大丈夫」という意味で、彼女が最初に覚えたインドネシア語だそうです。ちなみに僕も、某SNSで「好きな言葉はtidak apa apa」と自己紹介しており、題名からして思いっきり共感しちゃっていました。

 4年前に『南極星』で「私のインドネシア語学習法」についてインタビューさせてもらったり、連載中の「かたかたインドネシア」を通してずっと応援してきたこともあり、発売前から期待が高まり、生まれて初めてアマゾンの予約システムを使って発売日を待ちました。発売後は部下の出張を勝手に決め、すぐにインドネシアへ持って来てもらい、手にしたその日に完読。その後も何回、読み返したことか……。

 一般の人にとっては、海外に活躍の場を求めた1人のアイドルが書いた本でしかないかもしれません。でも、『+62』の読者の大多数であろうインドネシア在住者にとっては、また別の意味を持ってくるのではないでしょうか。彼女が未知のインドネシアという世界に飛び込んで来て、数々の困難に直面しながら、それを乗り越えていく様は、われわれも実に勇気付けられます。

 第1章では、インドネシアに移籍することになったきっかけ、そして最初の全国ツアーまでのことが書かれています。日本で移籍が発表になった時の様子は動画サイトにアップされています。その場にはJKT48のメンバーもいて、発表の瞬間、JKT48メンバーの輪に駆け込み、抱き合って喜ぶ様子は感動ものです。日本からインドネシアへの移動が決まって、あんなに喜ぶ日本人がどれだけいるのか、この事実1つ取っても、彼女の非凡さを窺い知ることができるのではないでしょうか。その様子から、以後の人間関係は順風満帆かと思いきや、随分、苦労もしたようです。それがどのようにして素晴らしい人間関係になったのかは、是非、本を読んで確認してもらいたいと思います。

 2、3章では、テレビのレギュラーとして人気が出て、総選挙を戦い、日本のテレビ番組「アナザースカイ」に出演するまでを時系列に沿って紹介。どのエピソードを取っても簡単な本が1冊書けてしまうんじゃないかというぐらい、濃い経験をしていますね。

 そしてまだ3章なのに、早くも「アメーバ赤痢、デング熱、チフス」をコンプリート。故郷が恋しくなると、高畑充希「ホームにて」を聞いて救われたそうです。中島みゆきが1977年にリリースした曲のカバーで、個人的に青春ど真ん中の懐かしい曲です。何気なく出て来るこんな曲名にも心が動かされてしまうのでした。

 4章ではちょっと目先を変え、インドネシア語上達のコツを紹介しています。彼女がインドネシアに来てからずっと、上達ぶりをウォッチしてきて、4年前にインタビューした時のテーマも語学についてだったので、非常に興味を引く章です。周囲がインドネシア人ばかりで、その中には日本語も話せるバイリンガルがいるなど、(語学習得のためには)恵まれた環境があったこともありますが、並外れたコミュニケーション能力と努力あってこその上達なんだと改めて知ることができました。

 特に興味深かったのは「悪魔の1カ月」についての考察です。順調に上達してきたはずなのに、突然、訪れるスランプ。思い当たる節がある人も多いんじゃないでしょうか。語学に限らないと思いますが、スランプ時には他人の助けを借りることも一法なのかもしれませんね。それまでしっかりと努力してきた彼女の言葉だからこそ説得力があるんだと思いました。

 5章では、卒業に向けての2つの事件、チームTのキャプテン就任と、自転車でのジャカルタからスラバヤまでの800キロ横断イベントについて書いてあり、この本の一番の山場だと思います。今号のインタビューで聞いたところ、チームTのキャプテンを引き受けたのは、内心で卒業を決めていて、自分が学んだことを後輩に伝えていくことも自分を受け入れてくれたJKT48に対しての恩返しだと思ったから、とのことでした。これが1年間にわたる、グループの末っ子たちのリーダーとしての苦労の始まりだったのです。

 国も世代も文化も違う妹たち相手に試行錯誤していくのですが、彼女のすごい所は日本流を押し通したわけではなく、かといってインドネシア流に染まるわけでもない。深く考えてのことなのか本能なのかわからないけど、結果的に、数々のミッションをしっかりとクリアしていきます。そして、グループのメンバーたちが「ハルカにキャプテンをやめてもらいたい」と反乱を起こしてからのくだりは、涙なくしては読み進められません。是非、皆さんも、実際に読んで感動を味わってもらいたいと思います。

 6章が最後のまとめで、彼女は「今のあなたのままでいい。その代わり、輝ける場所に引っ越しましょう」と述べています。そして、その場所を見つけるためのポイントを7つ挙げて説明しています。

 いかがでしたでしょうか。ジャカルタに住む日本人として、在住の皆さんに自信を持ってお薦めできる本です。できたら、本に出てくるイベントを動画サイトなどで確認しながら読んでもらえると、理解・感動が深まると思います。

 一家に1冊、一社に1冊。わが家、わが社のバイブルになってくれるものと信じています。
 
 
名取敬(びーと)
1993年からインドネシア在住。1998〜99年、よろずインドネシアに「かたかたインドネシア」を掲載する。2010年から『南極星』、2016年に『+62』に場を移し、好評連載中(今号は休み)。
 
 
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