私は台風15号が千葉県を直撃した日に日本に一時帰国し、短い被災生活を経験した。
政府とマスコミにとっては「人ごと」の災害のようだったが、地球の気候変動でどんな災害も起こり得る今、誰にとっても「人ごと」と言える災害はない。
インドネシアに住んでいてももちろん、災害とは無縁ではあり得ない。
千葉での被災体験と、被災中に考えたことを記しておきたい。

 

<被災1日目>
 日本に一時帰国した日が、台風15号が千葉に上陸した2019年9月9日だった。

 東京近辺で用事がある時の定宿は、羽田空港からアクアラインを渡った先にある千葉県の友人宅にしている。羽田空港から1時間もかからない。この日も友人が車で迎えに来ているはずだった。ところが、姿が見当たらない。あれ?と思い電話をすると、「台風で庭の木が倒れて道をふさいでいて、車を出せない。停電していて、インターネットも切れている。どうする?」と言われた。高速バスも電車(内房線)も運休していて自力で行くのは難しく、羽田近郊のホテルを調べると、シングルは満室となっていた。友人と話し合い、結局、友人が近所の知人の車を借りて、夕方ごろに迎えに来てくれた。

 東京からアクアラインを渡った先の千葉県側には明かりが少なく、闇に沈んでいる。信号も消えているので、交差点では徐行運転だ。コンビニは商品があるにもかかわらず、レジが使えないため休業。レストランなども休業。ガソリンスタンドも電気を使うので、ほとんどが休業中で、営業している所は長蛇の列。営業している店や、所々にこうこうと明かりがついている区画は、自家発電なのだろうか。

 たまたま開いていたスーパー「主婦の店」で食料を仕入れたが、冷蔵庫が使えないため、2日間分ぐらいの材料だけを買った(電気はすぐに復旧するだろう、という楽観もあった)。

 友人の家に行くには急な坂を上がる。坂の上で木が倒れて道をふさいでいると言う。坂の下で車を降り、スーツケースなどの荷物を手で運んだ。スマホの懐中電灯で照らす真っ暗な道には、木の枝や葉が散乱している。途中で、「そこからはまっすぐに行けないから右へそれて」と言われ、やぶの中を通る。たどり着いた家には、玄関の戸やガラス窓に、大量の木の葉が張り付いていた。家の中は、当然ながら真っ暗だ。ろうそくの出番となった。

ろうそくの明かりで食べた千葉落花生の「おおまさり」

 幸い、このエリアは断水しておらず、ガスもプロパンなので、炊事には問題ない。ただ、電気炊飯器は使えないので、鍋でご飯を炊いた。「暗い方が味覚が鋭敏になる」とも聞くが、よく見えない中で食事をしていると「せっかくの味が半減だ」と思った。

 暑い。エアコンというぜいたくは言わないから、扇風機が欲しかった。うちわであおぐのはすぐに疲れる、と知る。

 暗くて暑いので、蚊が出て、刺されてかゆい。戸棚を探って蚊取り線香を出してきて、つけた。久々に使った蚊取り線香の威力にはびっくりだ。1個(1巻き)が一晩持つのも素晴らしい。

 お風呂の煙突は吹き飛ばされており、やかんでお湯を沸かして、手桶で浴びた。

 

<被災2日目>

 翌朝になってから、台風被害の惨状がはっきり見えた。家を囲んでいる雑木林のうち、太いツルの絡まった大木が1本、ほとんど根元からボッキリ折れて、庭の中へ倒れている。

 車は普段は庭に停めてあるが、台風前に軒下に移動してあったため、ギリギリで無事だった。しかし、この倒木を動かさないことには、車が出せない。前日には「2人で押したらどう……?」などと考えていたが、押しても引いてもびくともしないのは一目瞭然で、木を切るチェンソーが要る。そしてチェンソーを使うには電気または燃料が要る。

 別の木が1本、屋根に向かって倒れており、当たった瓦が何枚か落ちて割れていた。ほかにも倒れそうなぐらいに傾いた木が何本もある。友人は「一人でやるのは無理」と、すでに、東京にいる知人らの応援を頼んだと言う。電気が復旧したら、来てもらう手はずと言う。

割れた瓦

 千葉県外に住む姉から「停電だとどうしようもないだろうから、とりあえずこっちに避難したらどうか?」という提案があったそうだが、「倒れそうな木をとりあえず全部切ってしまわないと、次の雨や台風が来たらヤバい」と友人は気にしていた。

 この日、友人は屋根の点検や、できる範囲での木の片付けをした。私は窓のサッシにふき溜まった大量の木の葉を掃き出したり、手洗いで洗濯をして、料理をした。

 台風後は真夏の暑さになっていた。強い日差しが照りつけ、セミの声が鳴り響く日中は、何も作業をしていなくても汗が流れ落ちる。

 あまりの暑さに「日本は異常気象だねぇ」と言うと、友人は「『日本は異常気象だ、異常気象だ』と言って、もう何年になるよ。もう、これが普通で、どんな自然災害でも起こり得る。それに備えて、田中角栄の『国土改造』ぐらいのことをやらないといけないんだよ」「国民の財産と安全を守るには、まずは防災でしょうが」。

 いつもは、インターネットは友人宅のWifiを使うのだが、断線中(10月現在、まだ復旧しておらず、復旧は「年内ぐらいではないか?」とのこと)。羽田空港でデータ通信用のSIMを買ってあった。問題は、電気だ。至る所で充電できる日本では不要だと思い、自分のパワーバンクは持って来ていなかった。友人のパワーバンクはフルに充電されていたが、私のスマホに充電しながらインターネットを使っていたら、0%になった。

 友人の電話はIP電話なので、停電では使えない。携帯電話しか通信手段がないが、そのバッテリーも残りわずかだ。「手伝いに来てくれる人との連絡はどうするの?」と聞いたら、「どうしよ……? (片道30分ぐらいの)公衆電話まで歩いて行くしかないんじゃないかな」と話していた。

 何よりも欲しかったのは情報だ。停電がいつまで続くのか、東京行きの高速バスは動いているのか、内房線は復旧したのか。情報収集したいのだが、スマホのバッテリーを温存しないといけないので、あまりスマホを使えない。情報発信もできない。

 停電地域でない友人は、こちらの事情はもちろんわからないので、チャットが続いて電池を食うのには困った。安否確認が済んだら、被災地への連絡はすべきでないと知った。自分が使わない時にはスマホの電源を切った。

 インターネットが使えないと、ほとんど情報から遮断されてしまう。拡声器で「広報、広報、こちら、〇〇市の広報です……」というお知らせが流れるのだが、「非常食〇百食を用意しました」「小学校のシャワールームを開放します」など、大して重要でない情報ばかり。それさえ、電波が悪いのか、よく聞き取れない。

 市のホームページで「10日中に電気復旧見込み」との東電の発表を読んだが、友人宅近くでは電柱が倒れているので、友人は「復旧しても、うちはつかないのではないか」と心配していた。

 ホームページには市の危機管理課の電話番号が「問い合わせ先」として記されていた。電柱が倒れていることを報告しようと電話した友人は、電話が終わってから「貴重な電池を無駄にした」と一言。次のようなやり取りだったらしい。
 
「停電ですか? 復旧は、順次やっていますから」
友人「それはわかっています。ただ、うちの近くの電柱が倒れているので、それを東電に報告してほしい」
「報告とかはやっていないんです。ご自分で東電に言ってください」
 
 作業をやっていると、あっという間に暗くなる。1日は早い。そして、暗くなると、仕事はほとんど何もできなくなる。

 翌日から東京で用事があり、友人の家の前のバス停から市営バスでバスターミナルまで行き、そこから東京行きの高速バスに乗る予定だった。

 翌朝に、1時間に1本程度しかない市営バスに乗らないといけないのだが、困ったのは、目覚まし時計だ。私も友人も、スマホやケータイをアラームに使っていたが、電池がほとんどないので、電気は切ってあった。「多分、起きられるんじゃない?」とは言ったものの、非日常の生活の上、疲れがたまっているので、うっかり寝過ごさないかが不安だった。

 この日の夜も、暑くて、ほとんど眠れなかった。

 

<被災3日目>

 バスターミナルへ行くバスは家の前を8時33分発だ。しかし、通常は定刻通りに来るのに、いくら待っても来ない。30分ほども待った。私のほかにバスを待っていたのは、おばあさんが1人、若い男性が1人。2人ともあきらめて去った。

 事故があったのか、運休なのか、何も情報がない。友人が営業所に電話してくれたが、通じない。私が「こういうのこそ広報で流すべきじゃない?」と憤ると、友人が「バスが来ないことで影響を受けるのは、このバス停で言うとたったの3人なんだよ」。

 話している横を、車が何事もないかのように、びゅんびゅん通って行く。「ガソリンはどうするの?」「ガソリンスタンドに並んで入れるんだよ」。

 災害の影響をより強く受けるのは弱者だ。車を複数台所有している人、数時間でも並んでガソリンを入れられる人手のある人よりも、車が1台しかないまたは所有していない、それだけの人手がない、移動をバスに頼るしかない人の方が影響を受ける。

 その次のバスは10時45分だが、それも来るのかどうか、怪しい。結局、「東京へ行く用事は外せないんでしょ? 車を借りてくる」と、再び、友人が知人の車を借りに行った。バスターミナルまで送ってくれる途中、ガソリン切れのランプがついた。「ランプがついたのは初めて。往復、ギリギリ持つと思う」と言いながら、車を飛ばした。

 なんとかバスターミナルに着き、友人はとんぼ返りした。待合室は停電していた。バスの発着を案内する電光掲示板なども付いていないので戸惑っていると、「どうされました?」と係の人が中から出て来て、「東京行きは〇番からしかないんです」と口で案内してくれた。「スイカのチャージは……?」「できないんで、バスの中で現金で払ってくださいね」。

 こうしてバスに乗り、東京へ出た。その日、久しぶりにホテルの部屋で熱いシャワーを浴びて、お風呂にも入った。エアコンがあって、安眠できた。

 友人宅では、7日目に電気が復旧した。

 私が東京へ行ってからケータイの電池は切れたが、連絡がつかないのを心配した東京の友人が突然、訪ねて来てくれたそうだ。ソーラー充電器を置いて行ってくれたため、ケータイの充電ができたと言う。片付けの応援に来てくれる人と連絡がつき、倒木を片付けたと言う。

 

<停電で考えたこと>

■停電とは何か?
 「家の中が暗い」「電化製品が使えない」というだけではなく、ライフラインが止まる。店、コンビニ、ガソリンスタンド、信号機、電話、インターネット。

 自家発電など、停電に備えがあるジャカルタより、日本の方が、ある意味、脆弱だ。そして、あらゆる所に電気が張り巡らされている分、停電のダメージは大きい。

 

■千葉の扱いがひどすぎる
 インドネシアで災害が起きると、かなり早い段階で、大統領が被災地に乗り込み、現地視察をすることが多い。正直、「どんな意味があるのか?」と思っていた。今回、その重要性を知った。トップが現地に行くことで、被災地支援に向けた政府の強い意思を示し、現場スタッフと被災者を激励し、必然的にマスコミを注目させる。

 千葉はアクアライン1本で東京とつながっており、東京への通勤者も多く住んでいる。東京との関わりは強く、首都圏エリアといえる。それにもかかわらず、なぜか、政府にとってもマスコミにとっても、千葉の被災は「人ごと」だった。

 千葉は一部を除き、広大なエリアの「田舎」だ。一軒家が普通で、一家に車2〜3台あるのが普通。すなわち、スーパー、ホームセンター、市役所、小学校など、すべてが歩いて行くには遠い距離にある。車社会なので、市営バスは1時間に1本程度しかない。そういう状態で、車が使えなくなったり、ガソリンスタンドが行列になったり、市営バスが運休すると、つむ。「〇〇小学校で非常食を配布」と言われても、車がないと取りに行けない人が多いだろう。

 今回の台風被害は、倒木があった以外には、道路が壊れたりして物流が遮断されたわけではない。実際、被災2日目(9月10日)に郵便の配達があった。私も東京へ出てから、ふと思い付いてアマゾンでソーラー充電器を注文して「プレゼント発送」してみたら、発送完了できた。

 アクアラインは9日中に通行止めが解除されていたので、潤沢な物資や人手が東京からどんどん送られていれば、電気は復旧しないまでも日常生活は助かったと思う。 

 大規模停電でライフラインが止まった非常状態だったのだが、マスコミが報じない。被災者自身は情報発信どころではないし、電気もないので、沈黙せざるを得ない。こうして、ほぼ情報遮断された「ブラックボックス」になったと思う。

 

<欲しかった支援>
①情報
・市の広報で、電気復旧のめどの最新情報から、電車やバスの運行・運休情報などを、片っ端から流してほしかった。
・広報はちゃんと聞こえるようにしてほしかった。

②充電器
・スマホ、ケータイといった通信機器だけでも充電できれば、情報収集・発信ができる。

③ボランティア
・多くの家の屋根が損傷していた。雨に備えてブルーシートを張る作業、木を片付ける作業など、人手が必要だった。最初は「千葉県内からのみ募集」としたり、ボランティアの受け入れに消極的だったのが理解できない。

 

<停電で学んだこと>

①ろうそくは意外に暗い
 ろうそくの明かりは意外に暗く、探し物をしたりといった実用には不向き。また、局所的にしか明るくならないので、リビングに1本、台所に1本、というように、数が必要。おまけに、結構早くなくなるので、備蓄は多く必要となる。
 ろうそく以外に、懐中電灯やヘッドライト、LEDライトがある方がいい。

②リスク分散。アナログでできる物はアナログで
 スマホ1つでカメラにSNS、インターネット、懐中電灯やアラームにまで使えるのが便利だと思っていた。しかし、災害が起きた時のことを考えると、機能集中しない方がリスク分散になる。この観点から言うと、オール電化などとんでもない、電気自動車もアウト、となる。
 アナログで可能な物はアナログの方が良い。細かいことだが、懐中電灯、目覚まし時計など、スマホとの兼用はやめる。千葉の被災では、自転車があれば行動範囲が大きく広がったと思う。情報収集には乾電池のラジオがあればよかった。

③政府には期待しない
 対策があまりにも後手後手だった。すぐの役には立たない。自分で対策をすること。

 

<あれば良かった、停電の最低限の防災備品>
◎ソーラーLEDライト、ヘッドランプ
 ろうそく以外の明かり。

◎充電器、ソーラー充電器
 最低でも通信機器が充電できるように。充電器は常にフルにしておく。

◎虫除けスプレー、蚊取り線香
 夏は、虫除けが必須。電気を使わない物。

〇おいしいコーヒー(ドリップ式、個包装)などの嗜好品
 停電中、どうしてもコーヒーが飲みたくなり、手で淹れて飲んで、ほっとした。災害の時こそ、嗜好品が重要。普段より少しぜいたくな品を用意しておくと良い。

〇おいしい防災食
 防災食も「おなかが膨れればいい」ではなく、食べるのが楽しみな、ちょっと特別な品(無印のレトルトカレーとか)を用意した方が良い。
 友人は「支援物資でもらった防災食は塩気がきつい。作業をするので疲れているし、あまり食欲がわかなかった」と言っていた。

〇疲れを取る甘い物(腐りにくい、ようかんとか)
 疲れるので、甘い物も食べたくなる。

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