「K」の形の島から——。「Dari K(インドネシア語で「Kから」の意味)」は、スラウェシ島産カカオを使ったチョコレートを製造販売している京都の会社だ。世界第三位の生産量を誇りながらも「品質が悪い」とされてきたインドネシアのカカオを、現地で生産指導しながら直接買い付け、質の高いチョコレートを製造している。インドネシア産カカオを使ったチョコレートのファンを増やしてきた。コロナ禍の今、医療従事者やカカオ農家を支援する「ペイフォワード」の取り組みが注目を集めている。(池田華子、写真はDari K提供)
換金作物の苗木をプレゼント
Dari K、コロナ禍のペイフォワード第2弾

「シングルオリジン」チョコレート
Dari Kで使うカカオはスラウェシ産のみ。コーヒーで言うシングルオリジンのように、言ってみれば「シングルオリジン・チョコレート」だ。「K」の後足の付け根辺りに位置する西スラウェシ州ポレワリ・マンダル(Polewali Mandar)県のカカオ農家約500軒と契約し、アグロフォレストリーという栽培法、低・無農薬、カカオ豆の乾燥や発酵のやり方の指導を含め、品質管理をきめ細かに行い、収穫されたカカオ豆を市価よりも高い値段で買い付けている。
普段はポレワリに駐在している足立こころさんによると、インドネシア産カカオ豆の「品質が悪い」とされてきたのは、インドネシアが低品質カカオ豆の産地になってしまっており、買い付けに来た人も「おいしくない」と評価するという、負のスパイラルに陥っていたことが原因だ。道路脇に広げて乾燥させるので小石や砂が入ってしまったり、発酵させなかったり、発酵させる場合でも箱の隅々まできれいに混ぜないので、発酵途中にカビが生えたり未発酵の豆が混じってしまったりする。そうしたこと全てがチョコレートの味に影響してしまう。
「品質が高ければ、市価より高く買い上げる」というインセンティブを与え、足立さんが農家に通ってきめ細かい指導とコミュニケーションをする中、カカオ豆の品質は飛躍的に向上していった。2016年の年間買い付け量は合計約10トンだったのが、2018年には約100トンと10倍に増えた。「買い付けたカカオ豆の『出口』があること、自社店舗で商品として出せることが、Dari Kの強みです」と足立さん。

そもそも、なぜスラウェシ島なのか?
「Dari K」社長の吉野慶一さんは30歳の時に証券会社を退職した。たまたま入ったカフェで、カカオ産地の世界地図が貼ってあるのが目に入った。アフリカ、ブラジルなどと並んで「インドネシア」とあるのが目にとまり、「アジアでもカカオが採れるのか」と知った。その後、インドネシアは世界第三位のカカオ産出国なのに日本へはほとんど輸入されていないことを疑問に思い、2011年、現地へ。インドネシアのカカオの約7割を生産するスラウェシ島を訪れた。カカオ農家の現状を見て、やむを得ずにカカオ豆約600キロを購入したことをきっかけに、同年に「Dari K」を創業した。
毎年、日本からスラウェシ島を訪れて、Dari Kの顧客とカカオ農家が交流する「スタディーツアー」も開催している。Dari Kは、インドネシア産カカオ豆を使ったチョコレートを日本で広めるだけでなく、インドネシアの地方のリアルな姿を伝えることにも一役買っている。

チョコレートを買うことが支援に
このコロナ禍で、Dari Kは「ペイフォワード(Pay It Forward)」という取り組みを行い、注目を集めている。
4月20日から5月31日までの期間に行われた「ペイフォワード」第一弾は、チョコレートを買う(pay it)と、自分が買ったチョコレート以外に、医療従事者にもチョコレートがプレゼントされる(forward)、という仕組み。コロナ禍の最前線にあってストレスの多い仕事を強いられている医療従事者に、チョコレートを食べて一時ほっとしてもらおう、という試みだった。これに対し、「久しぶりに出荷がパンクした」(足立さん)というほど、大きな反響があった。約5000人がペイフォワードのチョコレートを購入し、医療従事者約7万人にチョコレートが配られた。

8月からは、ペイフォワード第二弾を開始した。チョコレート購入金額の3%をDari Kがプールし、その資金を使って、スラウェシのカカオ農家にドリアン、ココナッツ、マンゴーなどの苗木をプレゼントする。ペイフォワード3〜4セットを買えば、大体、苗木1本分になる計算だ。
実はDari Kのチョコレートを買うだけでもカカオ農家への支援になっているのだが、「コロナ禍で大変なカカオ農家を、直接、支援したい」という声を「たくさんいただいた」(足立さん)ことから、カカオ農家が自分の未来へ投資できるような支援を決めた。スラウェシ島内での入手が難しかったり、農家にとっては高価となる換金作物の苗木を選び、それを贈って育ててもらうことで、将来の現金収入につながるように、と考えている。
毎月、ペイフォワードのセットとなるチョコレートは変更される予定なので、「長期的にカカオ農家を支援したい」という人は、毎月買っても食べ飽きることはない。12月末まで実施する予定だ。
豆の個性がわかる、挽き立てカカオ

Dari Kのチョコレートは日本で製造しており、まだインドネシアで買うことはできない。インドネシアのように暑い国で、安定した品質管理を行いつつ、チョコレートを流通させることには、まだまだ課題が大きいという。
Dari Kがシャープと共同開発した「挽き立てカカオ・マシーン」は、カカオ豆を入れると、ペースト状になった100%のチョコレートがすぐに出てくる、画期的な機械。カカオ豆はコーヒー豆と同様、国や産地、さらには農家によっても、味が違う。この「挽き立てカカオ」だと、そうした味の違いや豆によっての個性の違いが、はっきりわかるそうだ。
「このマシーンを持ってカカオ豆の産地をキャラバンし、農家の人たちに『自分たちの豆はこういう味なんだ』と知ってもらいたい。それが吉野社長や私の夢です」と足立さんは語っている。
