インドネシア・ミレニアルの肖像 Lakota Moira (30)   プロデューサー、マネジャー、グラフィックデザイナー

インドネシア・ミレニアルの肖像 Lakota Moira (30)  プロデューサー、マネジャー、グラフィックデザイナー

2016-10-03
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 アーティストのプロモーションに興味を持つようになったのは、やはり両親の影響でしょうね。母はNPO活動をしているけど、詩人でもあるんです。父は映像作家で音楽家。そんな両親を見ながら、いつも、彼らは資金を調達し、自分のアートをより多くの人々に届けるのが不得意な人たちなんだなあ、と思っていたの。彼らは基本的に、ただ作るのが好きなだけなのね。そんな彼らのメンタリティーをよく理解していたから、彼らをサポートし、成果を出す仕事に興味が出てきたの。

 私の写真とグラフィックデザインをアートだと思ったことはないの。それはアートをプロモートするための道具。

 音楽業界は、あらゆるクリエイティブ業界の中で成果を出すのが最も難しい分野だと思う。こういう仕事をしたい人は、一度、音楽業界を経験することを勧めるわ。そうすれば、ほかの何をやっても、とても楽に感じられると思う。

 「Navicula」の売り込みでは、来る日も来る日も、1日20件ぐらい、国内と海外のテレビ、ラジオ、雑誌、カフェ、プロモーター、およそ考えつくところすべてにコンタクトしたわ。「こんなバンドがあるんですが、いかがですか?」って。返事はノー、ノー、ノー……ばかり。だけど、たまに「このバンドいいね!」って言われる。確率で言うと大体、5%ぐらいかしらね。基本的にはその5%を積み重ねていくだけなのよ。

 ドキュメンタリー映画「Jalanan」に関わることはとても興味深かったわ。私はインドネシアで育ったものの、ずっとバリという特殊な環境にいたから、いつかはジャカルタに住んで、もっと、ジャカルタに集中するインドネシアのメディアや、政治や、カルチャーについて理解したい、と思っていたのね。あの渋滞と大気汚染を体験して、やっぱり住めないとわかったけど(笑)。

 「素晴らしい映画があるんです、それはドキュメンタリーで……」と説明したんだけど、映画会社の人たちには「ドキュメンタリーなんて退屈」という考えがあって。でも、やっと彼らに映画を見てもらうところまでこぎつけたら一転して、「このドキュメンタリー、面白いね!」という反応を得られたの。ついに、Cinema XXIが「ジャカルタ2館で週末3日間のみ」の上映を決めてくれた。これが大きな反響となって、上映日数は36日まで延長され、それから上映館もインドネシア全土へと広がったというわけ。

 これからの活動は農業にフォーカスしようかと思っている。有機農法やコーヒー栽培に取り組む予定なのよ。夫のロビが5ヘクタールの農地を相続し、もう1ヘクタールを買い足したの。最近のバリでは、代々受け継いだ農地をデベロッパーに売り飛ばす人が多いでしょ? ロビは「売るのと同じ広さだけ買えば農地が残る」という考えなのね。

 自分を表す言葉3つは「クリエイティブ(創造)、サステナブル(持続)、プレゼント(現在)」。いかに人と作用するか、がクリエイティブ。いかにこの星(地球)に作用するか、がサステナブル。そしていかにこの瞬間に自分と向き合うか、がプレゼント。ものすごくNGOでしょ?(笑)。

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Navicula
バリ島のロック・バンド。グランジやパンクの影響による過激な音楽性と、環境保護など社会的メッセージを託した歌詞が特徴。米・豪にコアなファンを持ち、海外ツアーも度々、行っている。国内インディーズ・バンドの先駆けでもある。

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Jalanan
ジャカルタのストリート・ミュージシャン3人の日常を追った、Daniel Zif監督によるドキュメンタリー。釜山映画祭やメルボルン映画祭で受賞するなど、海外各映画祭でも話題になった。

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ラコタ・モイラ
1986年、米国生まれ。5歳の時に両親とバリ島へ移住し、中学時代をフィリピン、高校時代を米国で過ごし、18歳でバリ島へ戻る。母のロビンはバリ島とアチェで貧困家庭の出産支援NPO「Yayasan Bumi Sehat」を主宰し、2011年、CNNウェブサイトへの一般投票によって決定される「Hero of the year」に選ばれた。その著書の出版プロデュースや広報活動のほか、バリのロックバンド「Navicula」や映画「Jalanan」をはじめ、各種音楽および出版物のプロモーションとマネジメントに多数、関わる。夫のグデ・ロビ・スプリヤント(Gede Robi Spriyanto、上写真の左)は「Navicula」のリーダー・ボーカルで環境活動家。

インドネシア・ミレニアルの肖像 イントロダクション(目次)
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