Empat Musim Pertiwi
2026年東京国際映画祭でも上映される、今年の映画の中でもトップグループに入る傑作。東ジャワ州ブロモ山を舞台に、プルティウィをめぐる過去の事件や複雑な人間関係の謎が次第に紐解かれていく。
文と写真・横山裕一
観光地でも有名な東ジャワ州ブロモ山を舞台に、小さな村で起きた過去の忌まわしい事件を紐解きながら、女性の地位や尊厳のあり方を問う傑作。2017年作品の「マルリナ〜ある殺人者の四幕」(Marlina Si Pembunuh Dalam Empat Babak、日本公開時タイトル「マルリナの明日」)も東ヌサトゥンガラ州スンバ島を舞台に女性の地位を訴える作品だったが、本作品はそのジャワ版ともいえそうな作品。
タイトルにある「プルティウィ」(Pertiwi)は主人公の名前だが、インドネシア語で「母なる大地」の意味もあり、テーマの一つでもあることからか、英語タイトルは「ジャワの四季」(Four Seasons in Jawa)とされている。ドイツやフランスなど8カ国の共同制作で、国内では多くの話題作を手掛けるフォルカ・フィルムズを中心にリリ・リザ監督の制作会社やエルネスト・プラカサ監督の制作会社も参加した豪華な制作陣による話題作でもある。
物語は主人公の女性、プルティウィが故郷である村に20年ぶりに戻ってくることから始まる。出会った村人はプルティウィだと知ると眉をひそめる。両親さえ複雑な表情で娘を迎える。20年前に当時高校生だったプルティウィを巡って村で何が起きたのか、その暗い過去が徐々に解き明かされていく……。
作品では閉鎖的な村社会を表すように、複雑な人間関係が絡んでいる。多くがプルティウィを疎むなか、唯一温かく迎えたのはブロモ山観光客を相手にした屋台を営む女性とプルティウィの元恋人だけ。元恋人はすでに結婚していて、妻は村長の息子の元恋人だった。村長は20年前、プルティウィの高校教師で、彼女が科学コンクールで優勝した際、開催された都市まで引率している。プルティウィの父親はかつてギャンブルで借金を抱えていたが、最近、協同組合の副組合長に就任した。こうした複雑な人間関係が一本につながっていく。
本作は主人公の女性が自らの暗い過去に向き合っていく物語だが、複雑な人間関係やスクリーンを通した独特な雰囲気、さらには主人公が解放した、村で幽閉されていた人物などと、謎を紐解いていく巧みな構成で作られている。20年もの間、暗い過去を抱え続けたプルティウィはその一年一年の四季が闇の堂々巡りであったかのように、劇中自らに言い聞かせるように「1…、2…、3…、4…」と繰り返し呟く。彼女が新たな一歩を踏み出せるかも見どころの一つだ。
興味深いのは、主人公が高校生時代、科学を得意としていたことから、実際には起こり得ないようなSF調のシーンも登場するところだ。物語自体は現実的なドラマであることから一見、アンマッチな印象も受けるが、主人公の心理をうまく映像表現したものなのでないかというのが筆者の私見だ。効果的に映し出されるブロモ山の広大で荒涼とした風景が、UFO や宇宙人などが出てきかねない印象をも生み出している。現実的なドラマの中にSF要素を効果的に取り入れた作品としては、2020年作品の「サイエンス・オブ・フィクション ある男の騒動記」(The Science of Fictions Hiruk-Pikuk Al-Kisah)を彷彿とさせる。
監督は近年、「ユニ」(Yuni/2021年作品)や「過去、現在、そしてこれから(ナナ)」(Before, Now & Then NANA))など女性問題を取り上げた作品も多く手がける実力派女性監督のカミラ・アンディニ監督。また主演のプルティウィ役には人気女優プトゥリ・マリノが女性の強さと弱さをうまく使い分けて好演している。
過去の事件、複雑な人間関係、SFシーンなど読み解く謎の多い作品だが、目に映る映像の裏側に意図された真実は何か、読み解こうとするにつれて引き込まれていく魅力ある作品だ。映像が醸し出す独特な雰囲気や迫力ある美しい風景など、モニターでは味わえないので、是非とも劇場のスクリーンでご覧いただきたい。

