長髪にくちばし、体はうろこ、3本足。アマビエの絵を見て「これはまったく、『バティック』じゃん!」と思ったという賀集由美子さん。インドラマユのバティック職人とのコラボで、「アマビエ・バティック」を作りました。バティックの中にある「アマビエ的」な文様も教えてもらいました。
日本では「アマビエ」が大はやりだ。「疫病退散」の祈願やお守りとして、和菓子、キーホルダー、鉄玉、マスクなどのグッズが次々に発売されている。ほかにも、アマビエの木像を建てたり、イラスト集が出版されたり……。2020年の「ヒット・アイテム」と言えよう。
アマビエとは鳥人魚のような妖怪。くちばしがあって鳥のようだが、体はウロコ。ただし、3本足。江戸時代に熊本の海に現れ、「これから諸国で病が流行する。早々に私の姿を写して人々に見せよ」と語ったという。
チレボンでバティック工房を主宰する賀集由美子さん、アマビエがはやり始めた当初はあまり気にとめていなかったが、ふとその絵を見た時、「これはまったく、バティック的な形状と模様だ!」と思ったそう。バティック文様で「鳥」を表現する時も、胴体部分の羽毛は常に「うろこ」(sisik)で表現する。

インドネシアのバティックの中には「アマビエ」的な文様も登場するという。例えば、頭がワヤンの女性で下半身はエビという、人魚のような「スピット・ウラン(Supit Urang)」。槍を持っており、「悪い事柄に巻き込まれないよう、自分の行為に気を付ける」という意味を持つといわれる。

「足3本の鳥」というモチーフにも、賀集さんが「なんか見覚えがあるな」と思って探したところ、尾びれが3本の鳥(ロクチャン=Lokcan)模様が見つかった。中部ジャワ・レンバンの伝統文様をチレボンで制作したもので、鳳凰を表している。尾びれは3本にしたり、4本にしたり。不思議で面白い表現になっている。

「アマビエをぱっと見た時、バティックの鳥に似ているなぁと思った。バティック的には絶対に『あり』な形です。バティックの文様の中にアマビエがあったとしても、まったく違和感ない」と賀集さん。
インドネシア人のバティック職人にアマビエの絵を見せたところ、特に驚いたり不思議がったりもせず、「この鳥は何?」という反応だったという。チレボン・バティックの巨匠のカトゥラさんも「鳥みたいだね」とのコメント。
そこで! アマビエのバティックを作ってみました!
インドラマユのバティック職人、アアットさんと賀集さんのコラボだ。漁村インドラマユで作られるバティックには、元々、海の生き物柄が多い。不思議な形状のエビ、カニ、魚を描いた「イワック・エトン(Iwak Etong)」柄が有名だ。そういう海の生き物柄の中にアマビエを紛れ込ませたら、どうなるか? 賀集さんが下絵を描き、アアットさんと姪のリニさんが蝋描きをした。

こうして出来上がったバティックは、縦60センチ、横60センチの正方形のクロス。バンダナ、お弁当包みなど、多用途で使えそうだ。

賀集さんの人気キャラクターであるペンギンの「ペン子ちゃん」が、アマビエと仲良くしているのがほほ笑ましい。一緒にクジラやエイに乗っていたり、漁船に乗って魚を捕っていたり、海の中で語り合っていたり。アマビエのあまりの自然な溶け込みぶりに笑ってしまう。




正方形のクロスのほか、海草の中の海の生き物の中にアマビエが紛れ込んでいる、という柄のミニ・スレンダンも制作中だ。

「今後は布(kain panjang)への展開もありです。アマビエはインドラマユの伝統文様にしちゃってもいいのでは? 模様に隙間が空いたら、そっとアマビエを入れておいても違和感ない。クリオネを描くような感じで、アマビエを(笑)」と賀集さん。
バティックは昔から、ヨーロッパ、中国などの多文化との交流の中にあって、さまざまな外来モチーフを取り入れながら、現在に至るまで生き続けてきた。バティックらしい懐の深さ……とは言うものの、あまりにも自然な、アマビエのなじみっぷり。もしかしたらアマビエは、昔むかし、インドネシアの海から旅して行って、熊本の海に現れたのではないだろうか……?!

※アマビエのバティック・クロスは数量限定。色は紺、緑とピンクの2種類。15万ルピア(送料別)で販売予定。問い合わせは賀集さんのインスタグラム(@studiopace)まで。
