マスクがキャンバスーー。中部ジャワ州ボロブドゥール在住のアーティスト、石井泰美さんが制作したマスクは、身に着ける現代アート。おしゃれなマスクは増えてきているが、そうしたファッションマスクとも一線を画す、「アートなマスク」だ。(文・池田華子、写真・石井さん提供)
原画は、以前に石井さんが描いたアクリル画や、マスクのために描き下ろした水彩画。筆が進まずに中途半端なままになっていた作品を掘り起こしたものもある。原画を石井さん自身が構成して配置し、布にデジタルプリントした。中にはフィルターが挟めるようになっている。
デジタルプリントなので量産しようと思えばできるが、「『自分のためだけのマスク』という喜びを持ってほしい」と、敢えて小ロットのみの制作。同じ絵はパターンや色の違う数点だけで、売れたらそれで終わり。「ほぼ一点物」のマスクだ。


石井さんは2020年4月中旬ごろから、「時流に乗って遊ぶおもちゃを見付けた」とマスクを作り始めた。自分で面白いと思うマスクを作り、フェイスブックに載せてみたところ、以前にワークショップで一緒になったポーランド人とカナダ人が「売ってくれないか?」と言ってきた。
インドネシア各地で大規模社会規制が始まり閉塞感が広がる中で「『イベント』になるかな? 面白がらせてやれ」と、バンドンに住む猫好きの友人には猫のマスク、ジャカルタに住むタコ好きの友人にはタコのマスクを作り、サプライズで送り付けてみたところ、想像以上の反応があった。友人たちは「テンション上がりまくり。やばい」などと書いて自身のSNSに写真をアップし、そこでも「マスクに合わせて髪を染めてもいいかも?」といった反響があった。


「マスクの画像をずらっと並べてみたい」という気持ちに駆られ、いろいろなマスク制作を開始。2020年6月上旬に「私だけのマスク展」(Yasumi – Mask Art Project 2020 Virtual Exhibition)を開催。マスクの点数は約30点。フェイスブックとインスタグラムに写真をアップして「展示」し、トコペディアのショップで国内向けに販売する(海外からの購入は応相談)。早い者勝ちで、売れたら終了、という「展示即売会」だ。

「アーティストの立場で言うと、今は活躍の場が閉ざされている状況。展覧会もワークショップも全部、飛んだ。私のギャラリー(Limanjawi Art House)も、来年まで予定が埋まっていたが、全部ご破算。どこかで作品を発表したい、という気持ちがある」と石井さん。
「絵をインターネットで発表するのには抵抗がある。直で見ないと絵の持つ力が伝わらない。でも、マスクのオンライン展覧会なら『面白いかもしれない』と思った」と言う。
マスクは、小さい面積、立体、顔に装着した状態が最終形、など、いろいろな条件がある。その決められた条件の中で、「現代アートという斬り口で、私にしかできないマスクを作るのは面白い」と石井さん。
「マスクと絵は違う。絵は壁に掛けて飾る物で、人はそこへ見に行かないといけない。マスクの場合だと、マスクを着けた人が外へ出かけて行って、人に会う。道ですれ違った人にマスクを見られたりする。そこに何かしらのものが残れば」と話す。

石井さんの絵をデジタルプリントしたマスクのほか、手描きバティックを石井さんが手縫いしたマスクもある。これもまた、一点物だ。「マスクは小さいので、どう切り取るかによって柄が変わる。手描きバティックの布を1枚買うのは敷居が高いかもしれないが、マスク1枚でも楽しめる」と、マスクならではのバティックの楽しみ方も提案する。
今後は、ジョグジャカルタのアーティスト仲間たちとの「マスク・グループ展」も検討中だ。「マスクでつながってみるのも面白い」。
石井泰美(いしい・やすみ)
美大を卒業後、メーカーや広告代理店でグラフィックデザイナーとして勤務。1995年から中部ジャワ州ボロブドゥールに定住。アートギャラリー「Limanjawi Art House」(IG@limanjawiarthouse)を経営。
Yasumi – Mask Art Project 2020
Virtual Exhibition
IG:@yasumi.art
FB:@YasumiBorobudur
マスクは1枚5万5000ルピア。
