文と写真・鍋山俊雄
インドネシアの西端はサバン、東端はメラウケ。さて、インドネシアの最北端はどこか? 多数の島があるインドネシアならではの論争だが、第1回でご紹介した北スラウェシ州メロングアネのさらに北に位置し、昨年に空港が出来たミアンガス島か、西端アチェ州のサバンのあるウェー島のどちらか、というところか。そして今回ご紹介するリアウ諸島州の大ナトゥナ島(Pulau Natuna Besar)もまた、インドネシアの最北端地域に属する島の1つだ。
広大なインドネシアの地図を眺める時、ジャカルタにいる私たちは、当然ながらジャカルタを中心にして、サバンからメラウケまでを見渡す地図を基本とする。しかし、大ナトゥナ島が中心になるように地図を動かすと、その風景は大きく異なって見える。ジャカルタははるか南方になり、四方をマレーシア、ブルネイ、シンガポール、ベトナム、タイ、カンボジアに囲まれ、それらの国々に海を越えてアクセスできる位置にある。
島から北へ向かえばベトナム、東西はマレーシア。島内でも、特にマレーシアとの交易は多く、市内のスーパーにもマレーシア産の製品は多く見られた。中国や東南アジア諸国に対して領海上でも重要な地域であり、国境警備のインドネシア国軍が駐留している。ジョコ・ウィドド大統領も何度か訪問している。
大ナトゥナ島へは、ジャカルタからはバタム島経由でウイングズ航空が毎日就航しており、アクセスは悪くない。3連休を利用した弾丸ツアーも十分、可能である(情報は2016年当時)。
乗り継ぎ時間の少ないバタムでの接続のため、オンタイムでのバタム着を祈りながら、早朝にジャカルタを出発した。無事、バタムでウイングズ航空に乗り換えると、今度はひたすら海上を飛び続け、約1時間半で、軍共用のラナイ空港に到着した。
この島の中心は、島東部にある空港周辺の街ラナイ。あらかじめ旅仲間に紹介してもらっていた地元の運転手と合流し、昼食後に島巡りを始めようと思ったら、あいにくの雨が降り出した。
ラナイから海岸線に沿って島の南端まで行く計画だったが、雨の中での見学となった。「はちみつ石(Batu Madu)」、「敷物石(Batu Kasah)」と呼ばれる大きな石がモニュメントのように横たわる海岸を散策した。晴れていれば南端の港から付近の小島にも渡ろうと考えていたが、断念し、夕方早々に宿に戻った。
翌日は朝から晴れ渡り、今度は北に向かって車を走らせる。主目的は、この島北部の石の名所、 「船石(Batu Kapal)」、「スプーン石(Batu Sindu)」、そして「アリフ石公園(Alif Stone Park)」の3カ所だ。
山を背景に映える、街外れの「ナトゥナ・モスク」を越えて、最初に到着したのは、まるで周りの民家を守るようにたたずむ「船石(Batu Kapal)」。
大きな石の周りに民家が取り囲むように立っており、座り込んだ大きな動物に家が寄生しているかのような、不思議な風景だ。石は砂浜にあるので、一部の家は水上家屋になっている。外国人の訪問が珍しいらしく、例によって興味津々の子供たちが集まって来て、写真撮影大会となった。
次の「スプーン石(Batu Sindu)」は、その石の所まで行くのではなく、高台から眺めるのが良いとのこと。天気も良く、絶景を楽しめた。
さらに北上すると、ブリトゥン島のゴロゴロ石の海岸と同じような風景が広がる。立ち寄ったのは「アリフ石公園(Alif Stone Park)」という、個人オーナーが岩場を利用してホテルを建設した小公園だ。
空港から車で1時間以上かかるためにちょっと遠いが、石を利用した部屋はなかなか面白く、庭(海岸)に広がる大小さまざまな石群を眺めることができる。石には、木やコンクリートで道や橋が架けられている。便利な反面、人工的な部分が自然景観を少し変えてしまう。しかし、なかなかユニークな試みだと思う。
この公園を過ぎたあたりから、また雲行きが怪しくなってきた。どうやら、到着日もそうだったが、午前中は晴れて午後から夕方までは雨、というパターンらしい。この後はひたすら海岸線に沿って車を走らせ、約2時間かけて島の北端に向かった。所々に小さな村はあるが、あまり人が住んでいない地域のようだ。海沿い、岸と草原の間のドライブが続く。
北端に近付くにつれて、国軍の駐屯地や戦車の演習場が見えてきた。数十台はあろうか、多数の戦車にカバーがかけられている。今まで訪問した地域の中でも、国軍の駐留自体は珍しくないが、このように軍事車両を大量に見るのは初めてだった。野原にも所々、演習場を示す色付きの旗がはためいていた。
ようやく到着した北端の小さな村、タンジュン・ブトン(Tanjung Buton)では、海岸に長く伸びた船着場の両脇に水上家屋がある。皆、漁師の家だそうだ。目前には、細長く広がったパンジャン島(Pulau Panjan)と青い海。
降り出した小雨の中を約3時間かけて、またラナイの街に戻った。あまり見る所のない街中だったが、県庁を中心にした官公庁街(建設予定地)を見に行った。国境警備のために、軍事・港湾施設が今後、建設されることになっており、行政機関も強化されていくようだ。広大な山肌の麓に新しく出来た県庁から見下ろすメインの通りの両脇は、まだ野原だが、今後、行政機関のオフィスが建築されていくらしい。
空港近くの水上家屋街と港近くの伝統市場を見学した。ちょうど漁船が戻って来ており、海鮮市場には新鮮な海の幸が並んでいた。雑貨屋に立ち寄ると、このナトゥナ島の位置を反映し、国内商品のほかにマレーシア製の商品も多い。夜になっても、通り沿いの商店街は各店がランプを点灯してにぎやかだ。その前では子供たちがまだ遊んでいる。夕食を取った屋台街の壁には、昔のナトゥナ島の街中の写真が貼ってあった。
3日目の出発は昼だったので、運転手に頼み、初日に雨中での見学となったはちみつ石と敷物石をもう一度、見に行った。
街から車で1時間、敷物石から空港までも1時間の距離だったので、午前7時に出れば同11時には空港に着ける予定だった。しかし、最後の目的地の敷物石は街外れで民家も車通りもほとんどない所。前日の雨で水が溜まった悪路でタイヤが滑り、車が動かなくなってしまった。
運転手にオーナーまで連絡してもらい、代車をよこしてもらうことにしたが、代車が到着するまで1時間かかる。そして空港まで1時間。まだ飛行機には間に合う時間だったが、何かほかの手がないかと考えていたら、100メートルほど先の路地にバイクが1台停まって、おじさんが何か作業をしていた。これは、とばかりに頼み込んでバイクを貸してもらい、運転手にオジェックをしてもらって空港まで運んでもらった。一人旅の身軽さゆえのラッキーだったが、道路状態が安定していない離島での移動では用意周到に行動しよう、と改めて誓った旅であった。