ジャムーは「健康への祈り」 「スウェ・オラ・ジャムー」のノファ・デウィさん

ジャムーは「健康への祈り」 「スウェ・オラ・ジャムー」のノファ・デウィさん

「時代遅れで古くさい」というイメージで顧みられなくなっていたインドネシア伝統の「ジャムー」(jamu)に脚光を当て、復興させた立役者の一人が「スウェ・オラ・ジャムー」(Suwe Ora Jamu)創業者、ノファ・デウィさん。そもそもジャムーって何? ノファさんの案内でジャムーの世界をのぞいてみよう。(写真はスウェ・オラ・ジャムー提供)

ノファ・デウィさん
ノファ・デウィさん

 「ジャムー」とは、薬効のある植物を使った「インドネシア伝統の健康飲料」と考えられているが、それだけではない。ノファさんによると、ジャムーの定義とは「健康(ウェルネス)に関する包括的な文化遺産」。ただの健康飲料というだけではなく、「ジャムー・スパ」や「ジャムー的な食べ物」もあるし、それは考え方や、大きく言えば、生き方にまで及ぶ。

 ジャムーの語源はジャワ語の「jampi usodo」で、縮めて「jamu」になったとされる。「jampi」は「祈り」、「usodo」は「健康」という意味で、「jampi usodo」で「健康への祈り」となる。

 ジャムーの発祥は、中部ジャワに栄えた王宮だ。「健康と長寿」を祈り、植物のエネルギーを体内に取り入れる。材料は良質な物を吟味して選ぶ。植物の8つの部分(葉、花、実、種、皮、茎、根茎、根)全てを使い、作る手順は「植物の上の方から下の方へ」、使う個数は「奇数」(ジャワで縁起の良い数)といったならわしがある。ジャムーは「苦い」というイメージがあるが、実際は、苦み、酸味、辛み、甘み、塩味の5つ全てを用いてバランスを取っている。

 ジャムー・ワークショップでノファさんがジャムーを作っている所を見ると、材料の香りを楽しみ、さらに、作っている過程での香りや味の変化を楽しみ、自分のエネルギーも手から入れながら、手順一つずつを丁寧に行っていく。心をこめた手作りで、まさに「健康への祈り」。ジャムーは「薬」的な漢方に比べると、「病気を未然に防ぐ」のが主眼とされる。

 ジャワ島の伝統的な「ジャムー売り」(jamu gendong)も、この精神に基づく。ジャムー8種類の瓶を入れたかごを背負って行商し、顔なじみの客と「元気? 調子はどう?」といった会話を交わし、客の体調を聞いて、「それなら、これを飲むといいよ」とジャムーを調合して渡す。

 ノファさんによると、風邪の引きかけにはクスリウコン(temulawak)とショウガのジャムーを飲む。疲れた時にはやはりクスリウコンや「ブラス・クンチュール」(beras kencur)。ものすごく疲れた時には、苦みの強いジャムーを飲んでから、ゆっくり休む。

ジャムー・ワークショップでは、材料を一つずつ切ったり、おろしたりしながら、ジャムーを手作り
スウェ・オラ・ジャムーのワークショップでは、材料を一つずつ切ったり、おろしたりしながら、ジャムーを手作りする
ジャムー・ワークショップを開催するノファさん
ジャムー・ワークショップを開催するノファさん(中央)

 ジャワ文化が色濃く残る東ジャワ・スラバヤで生まれたノファさんは、ジャムーと共に育った。「ジャムーは嫌い」という友達もいたが、ノファさん自身はジャムーが大好き。1〜2歳のころには、数滴を口に入れていた。物心ついて最初に飲んだのは「シノム・ジャワ」(sinom java)というジャムー。ウコンとタマリンドが主成分の「クニット・アッサム」(kunyit asam)に似たジャムーだが、苦みのあるウコンは少なめで、酸っぱいタマリンドが多めの配合。初潮を迎えてからは「クニット・アッサム」を飲み始め、苦い「サンビロト」(sambiloto、日本語はセンシンレン)も週1回は飲んでいた。苦みはデトックス、そしてエネルギーになる。

 家でジャムーを作っていたのは、中部ジャワ出身のノファさんの祖母とお手伝いさん。冷蔵庫にはいつも3種類以上のジャムーの瓶が常備されており、その中から好きな物を選んで飲んでいた。暑い時は冷たいままで、気温の下がる雨期には温めて飲んだりした。

 ノファさんが一番好きなジャムーは「ブラス・クンチュール」。「肌がきれいになる」と言われ、ジャムーを作った後の絞りかすを肌に塗ったりもする。このジャムーのお陰か、中学時代にはニキビに悩む友達もいたが、ノファさんにそんな問題はなく、今もきれいな肌のままだ。その次に好きなジャムーは定番の「クニット・アッサム」で、血行を良くする。殺菌効果のあるキンマの葉を加えて飲むこともある。

 ノファさんにとってジャムーは日常の中にあり、毎日、普通に飲む物だった。だが、皆がそうではないと知る。ノファさんが大人になってジャカルタを訪れるようになると、「ジャムーを普通に入手できない」という状況に困ることになった。ノファさんがジャムーを飲んでいると、友達に「生理中なの?」と聞かれたりもした。「ジャムーが手軽に買えない」という個人的な悩みのほかに、「ジャムー文化を絶やしてはならない」という思いから、2012年に「スウェ・オラ・ジャムー」をジャカルタで創業した。若者をターゲットにした、ジャムーを気軽に飲めるレトロおしゃれなカフェ。若者が立ち寄りやすいように最初はコーヒーなども提供していた。

スウェ・オラ・ジャムーの瓶入りジャムー
スウェ・オラ・ジャムーの瓶入りジャムー

 コロナ禍の前ごろに始まったインドネシアの健康ブーム、そしてコロナ禍中の免疫力への注目から、ジャムーは躍進した。スウェ・オラ・ジャムーは今ではジャカルタに5店、ジョグジャカルタに1店を構える。ジャムーの材料は西ジャワ州スカブミから仕入れ、南ジャカルタで半分マニュアルで生産している。

 ジャムー業界が沸いたのは、2023年にジャムーが国連教育科学文化機関(UNESCO)無形文化遺産に認定されたことだ。ノファさんは「今はジャムーを取り入れる好機だ」と語る。「昔は『ジャムー』と言っても、『それってアユルヴェーダぐらいイケてるの?』という当惑があった。今では、インドネシアの伝統として世界に認められたことで、自信が深まった。今こそ、ジャムーを再び知り、試してみる時だ」。「ジャムー生活」を始めてみようかな、と言う人に、ノファさんからのメッセージだ。

ジャムーも、ほかの食べ物や飲み物と同じです。探求して、自分の感覚を使いながら伝統の味を味わってみてください。そして、楽しんで!

ノファ・デウィ
日本語訳されているノファさんの著書「ジャムウ物語〜インドネシアに伝わる美と健康の遺産」
日本語訳されているノファさんの著書「ジャムウ物語〜インドネシアに伝わる美と健康の遺産」
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