ジャカルタ観光としても、モスク入門としても、お薦めの「イスティクラル・モスク」。インドネシア最大というだけでなく、東南アジアで最大、世界でも第3位の大きさ。ただ、以前は観光客であっても自由に中に入れたのだが、今は、時間の決まった「観光ツアー」に参加しないといけない。ガイド兼監視役付きのツアーは短時間にさっと見て回るだけで、やや物足りないが、「観光客フレンドリー」の姿勢に変わりはない。
イスティクラル・モスクは改装を行い、モスクの外に「無料の荷物預かり所」が出来、以前はモスク内部にあった観光客向けの受付は正面ゲートを入ってすぐ左手にある「インフォメーション・センター&セキュリティー」の建物になった。モスク内部の見学をしたい場合は、まずここへ。
観光客向けのツアーは午前10時から午後4時半までの30分刻みと時間が決まっている(金曜を除く毎日実施)。以前はいつでも自由に入れたのだが、肌を露出したまま勝手に入る外国人が多く、礼拝に来た信者から苦情が出たため、この方式に変えられた、とのことだ。
ツアー受付は、担当者(ガイド)に「名前(呼び名)」「国籍」「人数」を告げるだけの簡単なものだ。ガイドがタブレットに入力し、それから、脱いだ靴を入れる袋、肌を露出した服装の人には全身をすっぽり覆うガウン、女性には水色のヒジャブが貸し出される。ヒジャブはあごの下で紐を結ぶ、着けやすい形になっているが、気になる人は、髪を覆う布を自分で持参すると良い。
受付を済ませ、その場にいた20人ぐらいが1つのグループになって、ぞろぞろとモスクの入口へと向かう。ガイドが話すのは英語。「My group, please follow me!」(私のグループの人、付いて来てくださーい!)。
モスクの中に入ってから、イスティクラル・モスクの歴史についての簡単な説明がある。
「イスティクラル」とは「独立」という意味です。インドネシアには世界最多のイスラム教徒がいますが、ジャカルタには小さいモスクしかありませんでした。そこでインドネシア独立後、大きいモスクを作ろう、ということになります。1961年に建設を開始、78年に落成しました。世界で3番目に大きなモスクです。1番はメッカ、2番はメディナで、インドネシアが3番目ということになります。
敷地は9.5ヘクタールで、約20万人が礼拝できます。デザインをしたのはプロテスタントのキリスト教徒です。なぜキリスト教徒か、というと、コンペで優勝したからです。インドネシアの宗教間の融和を象徴していますね。
それから、いよいよ礼拝所へ。どーんと吹き抜けになった礼拝所は、いつ見ても「うわーっ」と声が出る。緑のドームと白い円柱で作られた、素晴らしい空間だ。回廊にも敷き詰められた赤じゅうたんがふかふかで気持ちが良い。
ここで記念撮影タイムとなる。ガイドが「写真、撮りますよ」と言って、次々に撮ってくれる。アングルを変えて何枚か撮り、手慣れたものだ。男性1人と女性2人のグループには、「Balance」と言って、男性が真ん中に来るよう指示し、「One, two, smile! Good!! うぉーっ、nice!!」と自画自賛している。こんな風に、サービス満点なのだ。
赤レンガが敷き詰められた外のテラスへ出ると、高くそびえるミナレット(尖塔)がよく見える。「いくつかミナレットのあるモスクが多いのですが、イスティクラルの場合は1つだけ。『唯一神』を表しています。ミナレットから、お祈りの時間を告げるアザーンを流すんですが、すみません、他宗教の人には『起きろ、起きろ』ってうるさいですよね」と笑わせる。至る所で、「インドネシアはイスラムを国教にしている国ではありません。宗教間にハーモニーがあります」と強調する。
軽快なトークで場を和ませるソフトな外見ながら、放っておくとすぐどこかへ行ってしまう観光客を「No! No go inside」(中へは入らないで)と連れ戻したり、勝手なことをしないように目を光らせる。
そして、あっという間にツアー終了。インフォメーション・センターへ戻って、借りた物を返し、任意の「ドネーション」(寄付)をガイドに直接手渡す。金額の目安は1人5万〜10万ルピアぐらい。
残念なのは、あまりにも駆け足なツアーのため、「モスクの内部をさっと見る」にとどまることだ。ゆっくりお祈りの様子を見学したり、モスクを自由にそぞろ歩いて場の雰囲気を感じたり、ということはできなくなってしまった。日本の昼ドラ「シンデレラデート」での主人公2人の出会いは、「イスティクラル・モスクを観光中に、偶然ぶつかって口論になる」だったが、そうした出会いも、もはや無理、ということだ。ただ、非常に素晴らしいモスクであり、観光客に対するオープンでフレンドリーな姿勢にも変わりはない。