「私のイし(インドネシア推し)」、今回は旅行のお話です。連載「インドネシア全34州の旅」の筆者、鍋山俊雄さんの「イし」は、ベンテン(要塞)。ベンテンの何がそんなに魅力なのでしょうか? 訪れた34カ所の中から「自分基準ベスト」ベンテンも教えてもらいました。

文と写真・鍋山俊雄
インドネシアで34カ所のベンテンへ
日本では「城巡り推し活」の女性を「城ガール」と呼ぶそうだが、インドネシアの城(?)、私の「ベンテン」推し活について書いてみる。
ベンテン(インドネシア語の「benteng」)とは、「要塞」「砦」のことだ。かつてポルトガル、イギリス、オランダなど、さまざまな欧州列強の占領を受けたインドネシアでは、これらの外国勢が外洋監視や攻撃・防御拠点として、各地にベンテンを築いた。
インドネシア駐在時に自称「弾丸トラベラー」としてインドネシア各地を巡った私の旅には、実はいろいろな「サブテーマ」(いわば推し活)があった。その一つがベンテンだ。旅行日程を考える際には、周囲にベンテンがないかを必ずチェックしていたものである。
ベンテンはその目的上、海沿い、かつ、高台にあることが多く、かなり辺境地にポツンとあることも多い。限られた旅程の中で、そこまでの足の調達や往復時間も考え、行けるかどうかを思案した。結果、インドネシアで34カ所のベンテンを訪れた。
ベンテンでやることは?
ベンテンに行くと、いつも決まってやるルーティーンがある。ベンテンの中で眺めの良い高台に行き、眼下に広がる村落や海岸線、海を通る船を、まずはじっくりと眺めてみる。そして一呼吸おいてから、そのまま目を閉じる。耳から入る音、頬に当たる風を感じながら、このベンテンが活用されていた300〜500年前の風景を想像してみるのだ。
実は、ベンテンは観光地化されていない所がほとんどなので、周りに人がいることはまずない。非常に静かで、「現代」の物音は聞こえない。数百年前の風景はひょっとしたら、今よりもっと人家も多く、海には貿易船や黒船が停泊していたかもしれない。
そんな想像を巡らしながら、目を開けて、先ほど思い描いた風景を眼下の風景にダブらせてみる。そんな「タイムスリップ」を楽しめるのがベンテン巡りの醍醐味だ。

自分基準「ベスト2」のベンテン
インドネシア国内にベンテンはいくつぐらいあるのか。正確なデータに巡り合ったことはないが、一説には400以上という。私はそのうち34カ所しか行っていないが、どのベンテンも特徴的であり、それぞれ語り始めればキリがない。その中から、日本の城ガールにもお薦めできる(?)自分基準ベスト2を挙げてみよう。
第1位 香料戦争の城、眺望抜群の「ベルジカ要塞」(マルク州バンダネイラ)


ここがナンバーワンの理由。
- 構造物がほぼ当時の形のままで残っていて美しく、さらに、眺めが抜群。
- バンダネイラはかつての香料戦争の中心地。このベンテンが建造された背景として、ナツメグ独占をめぐるさまざまな物語がある。博物館も見学しながら、香料戦争の歴史を楽しめる。
ベルジカ要塞は街中からもアクセスしやすい小高い丘の上にあり、上空から見ると五角形になっている。函館の五稜郭のようだ。1000ルピア札の裏面のデザインになったこともある。
上に登れば、バンダ海を航行する船舶が見える。バンダ島の領域内にはほかにもいくつかベンテンがあるのだが、ここが一番眺めも良く、写真映えするスポットだろう。

「ベルジカ要塞」、詳しくは ↓

第2位 スラウェシの王国が築いた城壁都市、「ブトン王国要塞」(南東スラウェシ州ブトン)

旅先で知り合ったインドネシア人に「ベンテン推し活」の話をした時に紹介されたのが、ここだ。外国勢力ではなく、南東スラウェシにあったブトン王国自らが城壁都市として建造したのが特徴だ。説明には世界最大の砦と書いてある(真偽不明)。
丘の高台にあり、外周は城壁で囲まれ、城壁の中には、王族の住居や旧王国のモスク、旗の掲揚に使用されていたと思われる柱など、王国時代の建造物が多く残っている。
今は、城壁内は普通の居住地となっており、多くの住居が連なっている。ブトン王国の特徴である、重厚な屋根構造が特徴だ。

「ブトン王国要塞」、詳しくは ↓

この2つのベンテンは、保存状態の良さ、関連資料の多さ、見るべきものの多様さから、お薦めだ。

それ以外に訪れたベンテンを大きく4つにカテゴリ―分けしてみると、次の通り。
1. 荒野放置型
地方の離島に多い。地図上にはあるのだが、行ってみたら「案内文」もなく、ただ崩れた城壁がずっと佇んでいるタイプ。あるいは城壁の一部のみ、または土台だけ、なんてものもある。
すでに村の生活の一部となっており、城壁はほとんどないが、砲台があちこちの軒先にあったりして、まったく観光資源扱いしていなかったりする。
<タイムスリップ難易度>
難。ただし、自然に囲まれた立地のため、最も想像力を必要とするが、場所によっては意外と楽しい。

2. 破壊現在進行形型
大部分がこれ。簡単な説明文の標識があったりするが、あまりメンテはされてなさそう。「中に入れずに外から眺めるのみ」というものも多い。
その壁や屋根の崩れ加減がまたいい味を出しているが、次に来た時にどうなっているのか、心配になるところもある。
<タイムスリップ難易度>
易。建物がしっかりあるだけに想像はしやすい。

3. 正統派観光地化型(含む脱線モノ)
思い切って観光地化するタイプ。ジョグジャカルタの「Benteng Vredeburg」やブンクルの「Fort Marlborough」は、きれいに芝なども整備され、歴史展示もしっかりした「正統派」。街からのアクセスも良く、観光客も多い。
一方で、壁を赤く塗り替えて、ベンテンの屋上を1周する遊覧電車を走らせちゃう中部ジャワ・ゴンボンの「Benteng Van Der Wijck」もある(乗りましたけど)。周りにはリゾートホテルも建てられているのに、そんなに観光客が来てなさそうなのが残念な感じだった。

<タイムスリップ難易度>
中。雑音(目からも耳からも)多すぎ。現代が見えすぎてやりにくい。
4. 現役型
ありそうなのに意外にあまり多くなかったのが、現在、実際に軍施設として使われているもの。マルク・アンボン島の「New Victroia Fortless」とか、スマトラ島パレンバンの「Benteng Kuto Besak」。内部には入れなかった。

<タイムスリップ難易度>
易。街中にあるベンテンが多い。現在の軍人が昔の兵隊だったら?とか、オランダやポルトガルの占領兵がいたり?と想像を広げられる。
日本の城に比べると……
私が行ったのは「香料諸島」のマルク・北マルク地域、そしてジャワ島中部のベンテンが大部分だ。インドネシアにまだまだ多くのベンテンがあることはわかっており、スマトラ北部(アチェなど)やパプアのベンテンには行けなかったのが心残りである。
アクセスも面倒な遠隔地にあり、日本の城に比べて全然“パッとしない”(言っちゃった)中途半端さが微妙だけど、駐在時に夢中になっていた我が「イし活」ベンテン巡りのお話でした。
鍋山俊雄(なべやま・としお)
インドネシアの2度の駐在13年間を通じて、「週末弾丸トラベラー」として、インドネシア全34州(当時)を踏破し、旅行記を+62に執筆(2016年9月〜2022年3月まで、全55回連載)。現在、ベトナム・ホーチミン駐在。

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