【特集】私の好きなインドネシアの本 私のバティックの原点

【特集】私の好きなインドネシアの本 私のバティックの原点

2017-08-07

お薦めする人 賀集由美子

吉本忍『インドネシア染織大系(上・下)』(紫紅社、1977-1978)

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バティックやイカット、ソンケットの豊富な画像をうっとりと眺め、研究者の解説を読みつつ、将来、ジャワ島に住むことになるなど考えも及ばずに「面白そうだなぁ、行ってみたいな」などと漠然と思っていた。

 インドネシアに住んで手工芸製作に関わるきっかけとなった本が3冊ある。

 1冊は『インドネシア染織大系(上・下)』というB4サイズの大型本。テキスタイルを学んでいた東京造形大学の図書館にあった。バティックやイカット、ソンケットの豊富な画像をうっとりと眺め、研究者の解説を読みつつ、将来、ジャワ島に住むことになるなど考えも及ばずに「面白そうだなぁ、行ってみたいな」などと漠然と思っていた。紫紅社のサイトを見たら、今でも購入可能なようだ。

渡辺万知子『染織列島インドネシア』(めこん、2001)

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 東ヌサトゥンガラの島々やインドネシア全土を、著者が「染織」をキーワードに旅した旅行記である。

 2冊目は渡辺万知子著の『染織列島インドネシア』。渡辺さんは、2007年に休刊した染織と生活社刊の雑誌、『染織α(アルファ)』に東ヌサトゥンガラの織物や籠編みなどについて連載されていた。『染織列島インドネシア』は、当時ほとんど情報がなかった東ヌサトゥンガラの島々やインドネシア全土を、著者が「染織」をキーワードに旅した旅行記である。その後、東ヌサトゥンガラ地域へ行く際には参考にさせていただいた。

Inger McCabe『Fabled Cloth of Jawa』(Periplus Editions, 2010)

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 見開きページで中国人の結婚式の行列を描いたバティックが載っている。掲載されているバティックの中でも一番好きなものだ。

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 3冊目はInger McCabe著の『Fabled Cloth of Jawa』。Inger McCabeはニューヨークを拠点にするテキスタイルブランド、China Seas Incの創始者。China Seasは1980年代に新宿伊勢丹のインテリア売り場で、生地やインテリアグッズを展開していた。学生だったので、バーゲンになると、生地や端切れを買いに行ったものだ。手描きバティックのマスターピースをプリント化した布はバティックの特徴を的確に捉え、なおかつ洗練されていた。『Fabled Cloth of Jawa』には、特にチレボン、プカロガンなど北岸地域の美しいバティックが多く掲載されていて、「こんな布を作る場所を訪ねてみたい!」「こういう布を作ってみたい!」という動機になったのかなぁ、と思い出す。

 見開きページで中国人の結婚式の行列を描いたバティックが載っている。掲載されているバティックの中でも一番好きな物だ。「Bang Biru」と呼ばれる赤紺のバティック。その後、シンガポールのプラナカン・ミュージアム(Peranakan Museum)で本物に出くわした。私のバティックの原点ともいえる布である。
 
 

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『Fabled Cloth of Jawa』に掲載されていたプカロガンのYahyaさんとチレボンのMasina夫妻。この本を情報源に、現地で聞きまくって会いに行った。Yahyaさんはすでに故人だったが、その後、奥様にはいろいろお願いして布を作ってもらった
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大学時代に新宿伊勢丹インテリア売り場のChina Seasのコーナーのバーゲンで買った布の1枚。1500円。安い! もっと買っておけば良かった

賀集由美子(かしゅう・ゆみこ)
西ジャワ州チレボン在住。手描きバティック工房「Studio Pace」主宰。ペンギン、サッカー好き。

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